ディナーの前に
ラクス中央公園を出て、アテもなく商店街をぶらぶら歩く。きちんとしたデートプランを組んでおけばよかったとウェインは何度も思ったが、エルは意外に楽しそうなのでよしとする。そしてまた、エルの隣で手を繋いでいるだけで、ウェインも楽しい。
時間はそろそろ夕方。夕食にはまだ少し早いか。商店街にも人が段々と増えてくる。
二人で雑貨屋の軒先などを見て回る。
その流れで、武器屋の中にも入ってみることになった。
ショートソードとサーベルに目が行く。ウェインは飾られているショートソードを手に取った。手の中で、刃やバランスを見てみる。比較的に、ではあるが。部屋に置いてきたショートソードのほうが優れているんじゃないかと思えた。ギルドで買った時、レーンが目利きしてくれたおかげだ。
またサーベルも数本手にする。前に持っていた物(レーンに折られた物)と同じような感じだ。ウェインにとっては、フェンシングの流れでサーベルのほうが馴染みがある。
エルは、武器は奪われることを想定し刃物は持たない予定だった。だからエルの腰にマウントされている武器は特殊警棒だ。
「エルは十徳ナイフみたいなものを、バックパックの底にでも入れておくのは良いね。何かで『切る』ことが必要な時のために」
「そう? ここで何かいいのあるかな?」
「いや……ギルドにあったやつのほうが良さそうだ」
次に目が行ったのが棒手裏剣だった。一見ただの鉄の棒みたいだが、先が尖っている。星型の手裏剣ではなく、あくまで『棒』。これは半回転だか一回転だかさせて投げるとかレーンに聞いたが、致命的なダメージを負わすものではないだろう。顔付近に投げて、当たればそれで良し。躱されてもそのまま間合いを詰めたり、逃げたりする時に使えるだろう。
「エル。棒手裏剣だ。これレーンやディアも装備してるみたいだぞ」
「え? そうなの? わからなかったけど」
「前に聞いた。革の小手の部分に取り付けてあるそうだ。投げて牽制や、武器をなくした時に使うようだが。最悪は腕で相手の剣を防御しなくちゃいけない時に、そこで防ごうと努力するらしい。楯代わりだな」
「こんな細いもので楯の代わりになるのかしら」
「あいつら、目がいいし腕も早いから」
「凄いわよね」
小手がいくつかある。革製から金属製までいくつも。もちろん両腕に装備してもいいが、武器を持つ方……すなわち一番敵に近い方の手につける場合も多い。ウェインとて革製のは右手に着けるほうだ。
兜の類は少なかったが、帽子は割と置いてある。多くがブッシュハットだ。これはツバが短い帽子で、実用的なので軍人や警官にも採用されている。布製に分類されるので、意外と安い。それでいて高機能だ。これに魔力を付与する者も少なくはない。
新品のままではなく、個人の形に整えて数日放置するほうがいいので、他の国の街についたらまずこれを調達する……と言った人もいる。そこの治安や物価、そして品質などがわかるからだ。
識別帽もある。これは野球帽のようなものだ。と言うか野球帽もある。安い。多くの人間はブッシュハットすら必要としない。
マントにはフードがついているのが多いが、それをそのまま被る人は少ない。聴く、という行為が極端に制限されてしまうためだ。
なのでどんな形であれ、帽子のようなものは被る。兜も視覚や聴覚を防がないものがほとんどだ。
鎧のコーナーに目が行く。
流石にここの武器屋では金属鎧は置いてなかったが。
しかし革鎧は簡易なものから、革製にしては重装備なものまで幾つかあった。なめして、衝撃を分散させるものから、急所を多くまもるだけのもの、動きやすさを最優先させた(レーンが着ているような)ものまで。
エルの場合、魔法に対しては強いシールドがある。だが矢で狙撃された時は……やはり何か防具があったほうがいい。
ウェインは言った。
「エル。今度レーンたちと一緒に武器屋を回ろう。革鎧か革の胸当て……プロテクターは、やはりあったほうがいい」
「うん」
武器屋から出て。次に入った店は、古本屋だった。魔法学院には魔法に関する書物は沢山あるが、その他のエンターテイメント系の本は図書室でもあまり充実していない。
「エルは本読むほうだったよな」
「うん。料理のレシピなんかも結構読むよ。ウェインは魔法とか体術のハウツー本以外には読まないの?」
「そうだね。推理小説は子供の頃、普通学校の図書室で幾つか古典を読んだが、それっきり」
「ふふふ。魔法が一番なのね」
「俺にはそれしかないからな」
「今度、私の持ってる短編集貸してあげる。一話一話が短くて、読みやすいわ」
「じゃあ頼む」
ウェインは一冊の本を棚から取り出した。
「『ラクス・デートスポット』だって。こういうの買ったほうがいいかな」
「うーん、いつのものだろう。そういう系統は新書でいくらでも出てるから、新刊で買ったほうがいいかな。あ、でも少し型落ちのなら役に立つし、安いし、いいかも」
「なるほど。……いやさ、デートと言っても今回、たいしてどこにも行かなかったから」
「私は満足してるよ?」
エルは笑顔だ。ウェインは肯いた。
「さて。そろそろ夕食だな。俺が良く使ってるレストランがある。そこに行こう」
「うん」
「ただし予約はしてないんで。席が埋まっていたら、どこかの酒場になっちゃうだろう」
「時間がまだ少し早いから、大丈夫だと思うわ」
そのレストランへと歩き、入り口を見る。席は空いているようだ。
「よし、空いてる。そう言えばモニカの父さんを招待した時も、ここ使ったんだ」
「へぇ」
一応高級店なのでドレスコードがあるにはあるが、魔法学院の制服は、ラクスじゃどんな正装にも勝る。そのまま入れた。
一応冷静さを装っていたが、モニカと来た時なんかより比べ物にならない程、ウェインは緊張していた。




