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ウェイン・アポカリプス  作者: 佐々木 英治
ウェイン・アポカリプス

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デート! - 2

 お祭りエリアを離れる途中、帽子を被っていたのだがウェインの『ファン』に見つかった。中年の男女。夫婦だろうか。アッシュの伝えを聞いているのが高齢層なので、年齢がそっちへ行けば行くほど『ファン』になる傾向があった。……いや、そもそもが『アッシュ』のファンであり、本来ウェインを好きになる理由はないのだけれど。

「ウェインさん、国境線での戦いで多くの仲間を救ったって新聞に書いてありましたよ。これからも頑張ってください!」

「はい、これからも頑張ります。ありがとうございます」

「サイン、頂けますか?」

「はい、大丈夫です」

 ウェインはサインを書いて握手をしてから、ようやく解放された。

 こういう時、出来るだけ皆に好かれるようウェインは意識して振る舞っていた。……魔法学院のためだからだ。

 エルを見る。彼女はにこにこ笑っている。

「ウェインってラクスの街の人から好かれてるわよね」

「偏った報道のおかげってのもあるよ。俺は魔法学院の広告塔だからね。いや悪い意味じゃなく」

「そうなの?」

「ああ。魔法学院からは通常の給料とは別口で、色々と貰える。エルにプロテクターをプレゼントする、って言ったのもそこ。それくらいなら、ちょっと特殊な書類を書かなくても、どこかから色々と融通したり調達したりしてくれる」

「わっ。何か凄いね」

「逆に……と言うか、どっちが先かはわからないけど、俺は常に魔法学院を宣伝する。例えば本科ではなくとも一部履修生が増えるよう、後は魔法学院のステータス、そして権威を落とさないように。俺への融通って、広告費から来てるのもあるらしいよ。詳しいことは知らないけど」

「わぁ」

「で、さ。王家とか貴族とかが何かミスしたりすると、民衆はやっぱり不満が出るだろ? で、そこに魔法学院が『遺憾の意』を出す。それで社会は円滑に回る。そんなものらしい」


 エルはコクコク肯いてから、言う。

「学院ってそういうこともしてるんだね。……でも広告として、戦略としては色々あってもさ。完全に嘘ってわけでもないわ」

 ウェインは軽く首を振る。

「だけどなぁ。エルだって知ってるだろ、あの戦いでは俺は負けたのに」

「でも私のことは助けてくれた」

 ご機嫌なエルだ。あるいは、魔法学院の外だといつもご機嫌なのか? 今までエルのプライベートに触れることがあまりなかったので、わからないけれども。

 エルは言う。

「前にレーンが言ってたから私も気になったんだけど。あの戦いでウェインが私を庇わずに、最初から上級魔法を使っていたら……結果はどうなったのかしら」

「俺が有利になったことは間違いないが……その後はどうなるかわからない。何せ相手がレーンだからね」

「レーンって、やっぱり凄い人?」

「うん。とびっきり凄い人だ。あと……俺では相性が悪すぎる」

「そうなの?」

「普通の戦士は、鎧を着て動きが鈍るものなんだ。だから俺はそこに出力が高い魔法をブチ込むだけでいい。ほぼ当たるんだよ。でもレーン相手だと……初級魔法はほとんど躱された。かなりの近距離からでも、だ。スピードが速いヤツは、どうしても魔法使いは苦手なんだ」

「もし。またあの場面になったらウェインはどうするかな」

「いやエルを見捨てて呪文詠唱は、どうしたってできない。もしまたあんな場面になっても、また俺は同じことをやると思う」

「ふふっ。今度は私も『瞬活』で数秒なら戦えるし、長い距離を逃げられるから、もう大丈夫かもしれないわよ」


 ウェインは、行きつけのカフェにエルを案内する。

 内装は控えめに明るい。まあまあ落ち着いていて、そこそこ上品な店だ。……グレードが高いカフェなんて知らない。興味もない。

 店内には客がちらほら。こういう感じもウェインは好きだった。

 客がいっぱいだと入りにくいし、入ったところで、後ろの客のために早く飲んで早く帰らねば……と思ってしまうから。

 そして完全に無人だとか、常連客だけと言うのもやはり躊躇する。

 飲食店は客の単価だけでなく『回転』も計算するようだが、そういうことはウェインには全くわからない。理屈ではわかっても計算はできない。むしろ飲食の人のほうこそが『不思議な魔法使い』に思えるほどだ。

 ここではよくウェイトレスを介さず注文しているお客さんがいるので、いつのまにかウェインもそれに習っていた。

「マスター。カフェオレ一つ、砂糖なしで。あと……エルは何にする?」

「私もウェインと同じで」

「砂糖は?」

「いらないわ」

「じゃあカフェオレ二つ、どっちも砂糖なしでお願いします」

 注文し、二人、窓際の席に座った。

 程なくウェイトレスがカフェオレを運んでくる。

 社会的に『女性の地位向上』の運動もあるにはある。女の警官や女の軍人もいる。だがこういう場ではそんなのナンセンスだとウェインですらわかる。単純に女性の方が見栄えが良い。

 色々な施設で受け付けは女が多い。もしウェインが経営者でもそうする。女、できれば若くて綺麗なのを配置したい。やっぱり見栄えが良いから(事業内容とかは別として)。 


 エルは運ばれてきたカフェオレに口をつけながら、言った。

「ねえウェイン。将来のことだけど。ウェインの夢って、何かある?」

 ウェインは一度頭の中を整理してから、答えた。

「漠然と、なんだけど。俺は魔法学院に育ててもらった。だから今度は魔法学院のためになることをしたい。多くの人間に教えるってガラじゃないから、違う方向性で。例えば……レーンが言ってたよな。『スタイナー流』のことを。俺はアレに協力すると決めたし、スタイナー流が強くなってそれを魔法学院の人間が護身用に覚えるようになれば、それはそれで貢献の一つだと思っている」

「ウェインは魔法学院のことを大事に思っているのね」

「ああ。人生が大きく変わったし」

 ウェインもカフェオレを飲んで、エルに聞いてみた。

「エルこそ。何か夢はないのか? 教員免許取って、教師になる? 旅をして外の世界を見る?」

「それもあるけど……」

 エルは言い淀んでいた。

「何かあるのかい?」

「うん……。ほかに、『夢』はあるけど……。んーっと、言わなきゃダメ?」

「聞きたいな」

「笑わない?」

「笑わない」

 エルは顔を真っ赤にしながら、言った。


「『お嫁さん』」


「おぉ」

 女の子らしい(?)夢である。エルは続けた。

「そして『お母さん』になりたい」


「へぇ」

「私。孤児院で育ったから母親ってどんなものか知らないけど……子供もたくさん欲しい」

「んー、いかにも女の子の夢で、いいね」

「本当?」

「本当だよ。それに、エルならきっとなれるさ。いい妻、そしていい母親に」

「だったらいいなぁ」

 エルは金髪セミロングを指でくるくるさせながら、言った。

「あー、なんか恥ずかしいよぅ」

「そう? 健全だし、突飛でもないし、いい夢だと思うよ」

「うー……」

 そんなエルがとても愛おしかった。

 将来、おそらくエルは、このまま行けば『誰か』と『結婚は』するだろう。人数はともかく、子供も成せると思う。

 ……ウェインは今の時点では。できればエルのそれの相手になりたい、とは思っているけれども

 しかし今のウェインにできることは、そんな彼女を無事に守ること。

 もし戦いの場に居合わせたなら、絶対に守らねばならない。


 そして……エルの笑顔を守ることだ。

 


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