デート!
二人で、お祭りエリアに到着する。
平日の昼間だが大勢の人がいた。だからこそ『お祭り』のエリアだと言われる。周囲では屋台があり、大道芸が繰り広げられている。大きなボールに乗ったり、ジャグリングしたり、パントマイムをしたり。
エルは特にジャグリングを気に入ったようだ。合計6本のナイフを宙に舞わせている姿は、結構凄いとウェインも思う。
エルが口を開いた。
「ねぇウェイン。手、繋いでいい?」
「え? あ、もちろん」
内気だと思っていたエルだが、結構積極的だ。
「実はね、さっき寮にいたリンダに言われたの。デートするなら、最低でも手は繋いでから帰ってこいって」
ナイス、リンダさん。ビューティだぜ。とウェインは感謝した。
一方のウェインは、(彼の毎度の女性との付き合いと同様に)女性に対して大きなアプローチを仕掛けることはできなかった。これでは、どっちが内気なのかわからない。
ただエルの隣にいて手を繋いでいるだけで、とりあえず幸せだった。
一通り大道芸などを見て、ウェインは言った。
「そろそろ昼にする? 俺、朝あまり食べてないから」
「うん! 特訓でいっぱいお肉食べたからね。今日は炭水化物がいいな」
「炭水化物、炭水化物か……パン、ライス、焼きそば、カレーライス、パスタとかかな?」
「私、ウェインと同じのがいい」
「じゃあパスタにしよう」
屋台で二人、パスタを食べる。あまりムードがあるとは言えないが初デートだ。それにお祭りエリアを選んだ時点でムードなど皆無であろう。
屋台の味は、何故かどこでも美味しい。理由はまあ、味付けが濃いからだ。グルメな人に言わせれば邪道だろうが。
「なあ。エルはさ、普段の食事はどうしてるの?」
今までウェインはエルの学院内のことしか知らなかった。プライベートはどうしてるかなど、互いに、ほぼ何も知らない。
「私は、寮のキッチン設備が使える時はお弁当作る時もあるけど、お昼は学食かなぁ。朝と夕食は寮の食堂だよ」
「料理できるんだ?」
「うん。孤児院でね。自分のことは自分でできるようになりなさいって教えがあって、小さい時から色々してた」
「凄いね。俺は自炊できないし、洗濯もできないから学院のクリーニングサービスを使っている。基本的に、何もできないから」
「でもウェインはその代わり、多くの魔法を強く使えるじゃない。私からすればウェインのほうが凄いよ。剣も『瞬活』も、乗馬も、運動もできて」
「いや正直どれもそこまでレベルは高くないよ。魔法学院の他の皆が、あまりやってないからだ。だから比較すると高いレベルになるんだな」
「『アッシュの再来』」
「その言葉も、時に重荷だなぁ。エルとアヤナと三人で行った、国境での戦いがあっただろ? ドライ砦の東の、闇夜で。あれ報道では俺は仲間を救ったとされてたし、ジャンからは大活躍したらしいという評判を聞いた。みんなが俺をアッシュの姿と重ね合わせているだけだよ」
「でもやっぱり、ウェインは私と別次元な人の気がする……」
「気のせいだよ。特訓で模擬戦を何度かやったよな? 俺の『剣』なんてあんなレベルだ。ディアに勝ったことはなかったし、エルやアヤナだって防御に徹すれば俺が切り崩すのは難しい。そんな俺が前線に出られるのは、『高速詠唱法』のおかげだと思う。中級魔法程度までの限定だけど、素早く魔法を準備できる。これは……まあ自信ある」
するとエルは嬉しそうに微笑んだ。
「『高速詠唱法』は高いレベルで魔力の制御と出力が必要になる。やっぱりそれがウェインの凄さだよ。他の魔法使いは『威力が弱くなりすぎて使い物にならない』って、あまりやらないみたいだから」
ウェインは頬を掻いた。
「前も言ったと思うけど、俺は魔法に限定すると『努力』した感覚はないんだよな。単純に好きだか
ら、毎日勝手にやってきただけで。だから皆が必至になっているのを見ると、申し訳なく思う」
「気にしなくていいと思うわ。『好きなこと』を仕事にできれば、それはとても幸運なことだと思うけど。やってて『楽しい』ならそれも幸運なこと。ウェインの場合、趣味が偶然重なって被っただけで、それは幸運だけど、他の人は違って当然だし」
エルに言われると心が軽くなった気がした。ウェインはどうしても、魔法学院の他の生徒に後ろめたい気持ちがあったのだ。それが生まれついて持っていた、飛び抜けた才能のおかげだからと。
しかしウェインが、例えばレーンのような身長を手に入れることができないように、生まれつきの素質・才能はどうなるものでもない。ただできることは、頑張るかどうか、だ。それがどんな方向性にしても。
そしてその『頑張り』を、エルは『偶然被って、幸せなこと』と言ってくれた。
エルはあまり深く考えずに言ったのかもしれないが。ウェインはとても救われた。
パスタを食べ終えて、エルは立ち上がった。
「そろそろ行きましょうか。私、カフェでコーヒーが飲みたいな。ウェインの色々なことが知りたいの」
……そう。逆にウェインだってエルのことが知りたい。