表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウェイン・アポカリプス  作者: 佐々木 英治
ウェイン・アポカリプス1.4

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

312/313

詳しすぎる

 爽やかな朝。

 心地よい風。

 そしてこれから太陽は上がってくる。

 そう。そんな爽やかさなのだが……アリス隊の基地、グラウンドでは既に訓練が始まっていた。ウォーミングアップなのだろうか、それとも筋力強化のマラソンなのだろうか。グラウンドを、幾つかの部隊に分かれて隊員達が走り込んでいた。

 アーマーやシールドを装備しての走り込み。

 これは勿論『戦場を想定』のものだろう。

 アリス隊は屋内警備が主任務なので、本来ここまでの屋外訓練は必要ないかもしれないが。それでも、ここらへんは水準以上に到達していなければならないだろう。

 普通の軍人はこれに加えて、『水分補給できない状態を想定』して、水を飲まない状態で走り込みしている場合も多いようだ。

 根性……の理論ではなく。単純に水がないとか、生水しかなく(これを飲めるようにする)煮沸ができない・しにくい場合に備えて、だそうだ。


「じゃ、ウェイン。行こう?」


 可憐な声。

 ウェインが恋する、エリストア・クリフォードの声。

 他の皆は気を遣って(?)か、ついてこなかった。

 アリス隊の基地の外へと出る。長い杖を持った警邏の女性が二人いて、敬礼をしてきた。ウェインも敬礼で返す。

「彼女ら……アリス隊の自前っぽい」

「そうなの?」

「姿勢とか。体捌きも一般の軍人より独特だ。そもそも連携して相手を抜かせない訓練はしているようだし。練習としてはとても良いはず」

 基地の敷地内。そこから一歩出たところで。ウェインはエルの顔を見て、言った。

「ごめんエリストア」

「どうしたの?」

「実は……俺は『普通のデート』なるものは、よく知らない」

 エルはちょっと驚いている。

「ウェインは色んな人とお付き合いがあったんじゃ? ミュールさんとかも」

「そうだけど。いつも、なんか向こうが適当に『どっか連れて行ってあげる』みたいな感じだったから」

「そう……なのね。何だか頭に浮かぶ気はする」

「うん。それでエル。エルは何か……知らないか?」

 エルはさらに驚いている。

「わっ、私が知ってるわけないよ! ラクスに来るまでは片田舎だったし! 男の子で、あまり深い知り合いもいなかったし!」

「そうか……」

 ウェインは軽く上を向いた。

「初手から、やらかしてしまった……」

「だっ、大丈夫よ! ほら、どっか散策するのが定番じゃない?」

「そっか。そうだな。……適当にウロつこう」

「『散策』だってば! ここは王都、色々なところを見るだけで、きっと面白いわよ」


 大通りに出る。

 段々と太陽が上がり、喧噪も強くなってくる。

 やはり王都だ。ここにはバカ騒ぎではない、落ち着いた賑わい(?)があった。ウェインはエルと、その道の右側を歩いて行く。

「エル。いいところだな」

「うん」

「まだ子供の声が少ないな。しょうがないか」

 例の『悪魔騒ぎ』があった後である。用事のない子供はあまり外に出ないし、初等教育の学校の行き帰りも静かに急ぐだろう。ちょっと悲しい一面だ。

 しかし健康的な喧噪である。

 ちょこちょこと、エルがウェインの袖をクイクイした。ウェインはエルのその手を、軽く握る。二人で見つめ合って、軽く笑った。

 エルは言う。

「ウェインは、どういうとこに行きたいとか、ないの?」

「んー。俺は図書館に籠もってれば幸せだからなぁ……」

「ふふっ、そうね」

「俺の残りの人生を全て注ぎ込んでも、あそこにある知識の全ては得られない。そもそも魔法学院の図書室にはない書物も、知識も、文化も、言語も、たくさんある。俺はできるだけ……そういうのが欲しい。だから……レーン達についてきた」

「そっか。でも言語や文化は、ユニバーサル言語ではどうにかならないかな?」

「無理。その文化は、その言語やその生活様式から出来ている。逆にユニバーサル言語に頼って理解しているような気がしてしまうと、それは多分違うと思う」

 そんなことを普通の感覚で言ってから、ウェインは慌ててエルを見た。

「ち、違うぞエル! 俺だって、もう少し、女性と良い雰囲気をだな……!」

 しかしエルは軽く首を振る。

「いいわ。こういう……『散策』とかも。『何』をするかよりも……『誰』とやるかのほうが、多分、大事で楽しいんだと思う」

「うん。そうだな」

「『特定条件下の事象よりも、恐らく価値を認めうるのは、自分とその他者の関係性である。その課程こそに』 」

「おぉ! なんか、それっぽい!」

 二人で顔を見合わせて、少しクスクス笑う。

 そんな時、ふとアクセサリーの類いが売られているところを見た。

「エル。エルはなんか、おしゃれアイテムとか……? 女の子は好きそうだけど」

「私は、あまり……」

「有事の時に換金できるんで、デザインで選ばなくてもいいらしい」

「うん……」

 どうしてもウェインの発想では、あまり色気のある話題にはならないようだ。


「じゃあイヤリングとか」

「落としちゃいそう」

「ピアスとか」

「あっ、それ怖い。穴開けるの怖い」

「そっか。でも、安上がりで良いかも」

 エルは目をぱちぱちさせる。

「ウェインはどうなの?」

「ん?」

「私……もっと綺麗になれるかな? おカネあまり掛からないなら……」

 しかしウェインは、エルが垢抜けていないことを知っている。顔は神秘的で可憐なのに、外側は、ぶっちゃけ野暮ったい部類だ。

 しかしウェインも多くの人に『ダサい』と思われているので、同じようなことかもしれない。……これはアヤナにもハッキリ言われたのだが『ウェインって同じ制服なのに、なんかダサい』とのことだったし。

 エルは少し恥ずかしそうに言う。

「その……じゃあ下着とか? 勝負下着で赤いのが良いとかディアが……」

 ウェインは慌てて否定する。

「だめ、だめだめだめ!」

「?」

「エルは原色なんて着けちゃダメ!」

「!?」

「今まで通り、白い綿のパンティがいい!」

「ちょっ!」

「他は、パステル系だぞ! できればボーダーの……」

「えー……」

「パンティの横のとこが、こう……紐でリボンになっていて!」

「……それリボンほどいたら、取れちゃわない?」

「SEXY系のでなければ、飾りの紐だから大丈夫!」

「……」

「これはサイドリボンパンティという種類であってー! 今は水着でタイサイドビキニとして一般的なものだけどー! 今後は下着業界に新しい旋風がー!」


(なんでウェインって、そんなに詳しいんだろう……)とエルは思っていた。


「じゃあエル。せっかくだから下着を買いに行こう!」

「ええ!? そ、そんなの、聞いたことないよ!」

「そう? 俺は色んな女の子に、割と連れて行かれたけれど」

「そ、そうなのね……」

「近くまでは」

「(大丈夫かなぁ)」


 多少、気後れしているエルを連れて。ウェインは下着ショップへと到着した。流石はレオン王国で一番の発展具合だ。周囲はブティックだのアパレルショップが多い……女性の服を扱っているのが多い。そこの近くに、割と大きい下着ショップが並んでいた。……ほぼ女性モノ。

 明らかに男性客が少なくなってきたが……道ばたに、手持ち無沙汰で立っている男性層もちらほらいた。カップルやパートナー待ちの人間であろうか。

 だがウェインはエルの手を引くように、大きめのアパレルショップに入った。

「いらっしゃいませ。そちら、お嬢さんのほうですか?」

 明るく、綺麗な女の店員さんだ。ウェインは軽く肯いた。

「はい、お願いします」

「カップルさんですか?」

「です。彼女に見繕ってあげてください」

「かしこまりました」


「サイドリボンパンティの系列を」

「!?」

「SEXY系は避けて、原色も避けて。パステル系の、できれば白とのボーダー色で」

「は、はい……」


 店内に男が入るのは禁止されてはいないし、あるいは異性と一緒に選ぶ文化の国もある。だがレオン王国では、それはあまり主流の考えではない。

 その証拠に、店内に男はいなかった。

 エルはその店内の奥に連行されていく。

 一方、その明るい女店員さんは軽くウェインに手を広げる。

「流石にフィッティングルーム付近に近づかないで頂きたいですが……。彼氏さん、どうなされます? お席もそちらにありますが」

 店員さんは『対・男』の訓練もされているのであろうか。全く慌てていない。ウェインも軽く肯いた。壁際に椅子が置いてあったので、座る。

 店員さんは軽い笑顔のままで言った。言ってしまった。それはジョークのようなものだったのだが。


「彼氏さん、見学していきます?」


 ウェインはその店員さんを見上げた。

「許可されるものですか?」

「え、ええ……」

「では拝見します。勝手にウロついてよろしいので?」

「ど、どうぞ」

 店員さんは意表を突かれたようだ。しかし、女の下着ショップに男が入ってはいけない……と言うルールもないし(マナーなだけ)。何より店員さんが先に見学を薦めた。一応、正当性はウェインにあった。

 そこでウェインは、昨夜のことを思い出す。


『アリス隊の、若い女性だけの湯船の味を調べておけば良かった……!』


 ウェインは軽く肯いて、店員さんに色々聞いてみる。

「店員さん」

「は、はい?」

「女性モノの、最近の下着の主流を教えてくださいませんか?」

「そ、それならば」

「それと、わかる範囲でいいんですが……。デザイン、機能性、耐久性。コスト及びメーカーや製造方法、製造のバラつき。生地の配分、通気性。ピンキリのグレードの実用性の違い。布とかを買って自作するよりの、メリットとデメリット。各機関に卸ししているもの。後は……魔法関係の品物はあるのか。それはどんな魔力での使われ方なのか。入手難易度や値段……」

 女店員さんが、なだめるように言う。

「す、すいません。私では、あまり。後で資料をお渡し致しますので。……あの、もしかしてお客様は」

「何です?」

「下着関係のお仕事を?」

「いえ、ただの知的好奇心です」

「は、はい……」

「あと……サイドリボンパンティのシェアは?」

「えと、その……」

「そうだ! 平均的なものを二つ三つ、見繕ってください!」

「えっ……。何を……」

「匂いと味を確かめておかなくちゃ!」


 少し店内がザワついた。いや、かなりザワついた。ほとんどのお客さんやスタッフがウェインの方をチラチラ見てて……流石にウェインもその異常事態に気づいて、スルーしなかった。

 ウェインは目の前の店員さんに、軽く言う。

「ともあれ。俺の連れの女の子に、幾つか見繕ってくれ。ウチの会社の社運がかかっているんだ!」

「はい……社運? お客様、どこかの会社の……」


「うむ。名前はセザール社と言う。父上が早くに亡くなったので、会社を継いで間もないのだ。少し先走ってしまったようだ」

「あ、あははは。そうですよね。何だか私、お客様が少し珍しい方かと」

「大丈夫だ。そして俺の彼女には、我が社でモデルもやらせる予定だ……彼女の名前は『アイカ・ラルハイ』と言う。全ての女性が豊満なスタイルではないので、逆にこう……控えめな女性達のところに進出する! あまり原色を使わない方向性だ! ギャップ萌えを狙い、サイドリボンパンティの市場も開拓したい!」

「納得です!」

「ちなみに、女性は『ショーツ』と呼ぶかもしれんが、男性の多くは『パンティ』と呼称することが多い。これは留意しておくように」

「かしこまりました!」

「よし! 君たちもアパレル業界の者なら、我が社を応援してほしい! それでは、私は外で待っている!」

 ウェインは店内に背中を向ける。ここで小走りになると目立つので、堂々と、颯爽と去って行く。

「ありがとうございましたー!」

 明るい女性店員の声が背中にかけられる。




 テキトーに偽名を使ってしまったが。まあ例のアイカの名前とかなら、どうでもいいだろう、とは思ったし。





 ……。

 ちなみにエルがフィッティングルームから出てこれなかったのは、ちょうど着替えをしているタイミングだったから。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ