装備プラン
アリス隊の宿舎、食堂内。
食事を終えると。アヤナが言う。
「ウェイン。とりあえず今日は、予定通りお休みよね」
「ああ。出発は先に延ばす。明日もガルディアで休み予定かな」
ディアがぴょこぴょこする。
「んじゃー、私。そこらをブラついてみるわ。雑貨とか、そこらへん見たくて。ウインドーショッピング」
タニアが顔を上げる。
「ディアは何に興味があるの?」
「マイナスイオンとか、かなぁ」
#割と真面目な模様
「でもクーポンないし。ブラブラしてみるよ。……モニカも一緒に行く?」
モニカもぴょんと手を上げた。
「楽しそうッス。やっぱり一人だと気後れしちゃうし」
ディアが下ろしていた赤茶色の髪の毛を、後ろで纏め始める。
「じゃ、ウェインはさ。エルとデートしておいでよ」
ウェインとエルは、少し驚いて自分の顔を指差す。
ディアは肯いた。
「婚前交渉……じゃないや、結婚前のデートなんて、もしかして最後かも、だし」
それにはタニアも嬉しそうだ。
「おう、いーね。羨ましい」
ウェインは軽く肯いてから……言う。
「じゃあアヤナも一緒に行く?」
少し雰囲気が浮いたので、ウェインは軽く周囲を見ると……。そのアヤナが軽く怒っていた。
「あのねぇ、ウェイン!?」
「あ、はい。なんでしょう……?」
「エルと一緒の時間作ってあげよう、って皆の気持ちでしょう!?」
「え? あ? そうなの?」
「そうよ。それに私とウェインとエルで、どっか街に出たらさ。私とエルがお喋りして、ウェインは肩身が狭そうに……」
とアヤナはウェインを見て、それから言う。
「いや肩身はそのまま……な感じがするのよねぇ。ぼーっとしてる感じで、何か考えてたり。可愛い女の子が二人もいるのに。それはそれで、ちょっとムカつく」
「いえ、あの、アヤナ姫。想像だけで怒られましても……」
「ま、いいわ。私は家とか王家とか、顔を出してくる。誰かが、何かをさ。色々と協力してくれるかも。そういうの」
テキトーな感じだが、実際アヤナは皆に友好的な権力者である。自分から言い出すのは少し『貸し・借り』が大きくなるだろうが、小さなモノなら、互いに小さなモノで済む……というルールがあるようだった。
そのアヤナに。ウェインは自分のショートソードを、鞘に入れたままアヤナに渡した。『ボーパルマニューバー』のほうは腰に差したままで、渡さない。
「アヤナ、コレを」
「ん?」
「ショートソードだ。ベースはギルドで売ってた店売りのものなんだが、その中からレーンが選んでくれた。ジャンに一度強化してもらい、さらに、もう一回強化してある」
「ふんふん」
「これを……王家やフランソワーズ家で、何か強化できないか?」
「強化?」
アヤナは訝しむ。そして言った。
「そう言うことならジャンさんのほうがいいんじゃない? いえ王家や私の家にも腕利きはいるから、ジャンと遜色はないと思うけど。でもウェインのことをよく知っているジャンさんのほうが」
ウェインは軽く手を振る。
「ま、そこまで大袈裟に考えてはいないんだけどね。ただそのショートソード、ベースは本当に一般の市販品なんだ。ユニバーサル規格をどうにかクリアしている……くらいの。もし本格的に何か使うことになったら、別口で探すし」
「ふーん……いいわよ。でも。そっちの『ボーパルマニューバー』があれば……」
ウェインは、また手を軽く振る。
「ま、これはいいんだよ。それよりそっちのショートソードを頼むな。多少ピーキーになってもいい……とオーダーしてくれ。そもそも俺が白兵戦やることなんて少ないんだから」
「うん。じゃあ納期は?」
それはあらゆるタスクにおいて、最重要かもしれないことだった。
「んー。明日も休みで明後日に出発だと……」
それはまだ、少し、疲労が残りそうな日程だった。
「よし決めた。今日休みで、明日も休み。明後日も休み。なので出発は三日後の朝にする」
そう言うと、全員は肯いた。これくらい間を取れば問題ないはずだ。ウェインは続ける。
「だからアヤナ。俺のショートソードの強化は、ケツは三日後の早朝まで。そこまで、かなり強力にやって欲しい。カネは出す。割と手持ちがある。銀行でも下ろしたし」
アヤナはウェインの、鞘に入ったショートソードを受け取った。そしてぶんぶん手を振る。
「『あの』ウェインからカネ取れるわけないでしょうよ」
「……そうなの?」
「この前、ミネア様を助けたしさ。それぐらいは役得よ」
「そっか。そだね」
アヤナは指をくるくるさせる。
「それじゃあウェイン。貴方はこのショートソード、気に行ってる? もっとこうなってれば……とか。それか、こうなって欲しい……みたいなの、ない? リクエスト」
ウェインは考えてから、言う。
「いや特に。俺は白兵戦闘は、かじってる程度だ。ユニバーサル規格をクリアしているものであれば……いやクリアしてなくとも、多分問題ないよ。こっちから積極的に切りつけるのも少ないだろうし」
するとアヤナはちょこんと肯いた。
「わかった。じゃあこのウェインのショートソードは強化を頼んでみるわ。納期は三日後の早朝ね。それとは別に……王家とかウチの家で、何か使えそうなのを見繕ってくるよ。使えそうなヤツで、許可いらないヤツとかをさ。……何か有事になれば、色々頼んで融通利くんだけどね。今はそこまで大袈裟ではないし」
こういう点では、お姫様は頼りになる。
ウェインは、また少し考えた。
「俺らのもお願いしたいが……アヤナは、もっとこう……お前が前衛に出れるくらいの装備はないか?」
アヤナの装備は、今の時点でそこそこの鎧(簡素ではあるが魔法の品)だそうだが。もしアヤナが白兵戦に耐えうるならば。これはチームに取って、とても良いことのはず。
そのアヤナはコクッと肯く。
「多分、そこらに転がってると思うし。なんか見つけてくる」
ここらへんは物凄い感覚である。その彼女は続ける。
「ウェインは鎧とか、いらない?」
「いらないよ」
「エルとモニカは?」
二人は顔を見合わせる。彼女らの防具は、制服の上に、適当なプロテクターで補強したものだ。確かにここが強くなればとも思ったが。
ウェインが代わりに言った。
「何か軽いのがあれば、頼む。エルたちは軽さが優先」
「わかった。タニアは」
アヤナはタニアを見る。タニアは肯いた。
「私のは自前で問題ない。となると。残りはそこの……」
タニアはディアを見る。彼女は髪をまとめ、トレードマークのポニーテールがぴょこぴょこしていた。ディアは言う。
「私は、特に何もいらないよー」
「そう?」
「うん。それこそ私は白兵戦しないし。万一にする時だって、私の手持ちの剣で大丈夫だし。アーマー要らないし」
「ディア。もっと強い剣を探してみるわよ?」
「いーのよ。私は目立たない方がいい」
ディアはやはり、こう言う人種のようだ。
「それよりさ、アヤナ」
「何? ディア」
「もし前線張るなら、私よりフェイでしょ。フェイ用に何かないの?」
アヤナは少し考えてから、言う。
「ふぇーちゃんの戦闘スタイルとか、知らないんだよね。装備とかはどれも騎士団で支給されてるはずだから、品質や機能とかはかなり上っぽいけど。後でちょっと聞いてみる」
そもそもフェイは『ボーパルバニー』と言う『ミドルソード』を持っていたほど。ある意味では普通じゃないスタイルとも言える。
ただアリス隊のゆかりであり、アリス隊の足さばきができ、アリス隊と連携できるのなら……装備はそれなりに近いはずだと思った。
アヤナは言う。
「でも色々騎士団から支給されてるにせよ、ウチの倉庫にあるヤツは優秀なのが多いから持ってきてみるよ。細々したものは、一旦ここの基地に運ばせるわ。それより大がかりなものは、ちょっと、目的もなく急には持ち出せないけど」
ウェインは答えた。
「いや、十分だ。ありがとうアヤナ」
「いえ」
そして少し考えて。ウェインは言った。
「そうだアヤナ。俺は、そこそこの感じの『小手』が欲しいんだけど、心当たりあるか?」
「『小手』?」
「そう。剣を持つ右手にだけ……でいい。むしろその方が自然だ。そこそこ目立ち、でも悪目立ちしないような……」
「難しいオーダーね。でも、なんでまた」
「外から見た場合、『戦士』『剣士』っぽく、にも見えるように……だな。確かに難しいオーダーかもだけど」
「性能的に、どんなのが良い? 防御を高めるとか、フィールド張るとか、風とかを巻き起こすとか色々あるはず」
「それは任せる。見た目が最優先で、次に重要なのは頑丈かどうか。そこらへんかな」
「ユニバーサル規格は?」
「どうでもいい。クリアしてなくていい。使えればいい」
「わかった。探してみる」
戦闘時のウェインは今も小手を着けていた。革製である。打ち込みやら、やむなく鍔迫り合いになった時やら、どうしたって『手』は最も相手に近くなる。
鍔迫り合いの後に指が落ちた……なんて話も多い。
だから白兵戦を想定している人間は、革製であっても小手は必ず着けている。逆に白兵専門の人間の場合、小手は工夫していて金属製では……なことが多かった。
ウェインは『そこ』。『ボーパルマニューバー』を腰に差して歩いた場合。遠目には、魔法使いでなく戦士である……と『偽装』したかった。
少人数での行軍ならまだしも。これからは人が多くなる。イヤでも目立つ。だから自然と溶け込めそうな感じを……。
と、ウェインはおかしくなって、少しクスッと笑った。
こんな考え、普通はディアとかだけだよなぁ……と




