ディアっちはロックンロール
翌朝。
ゆっくりと起きてから、ゆっくりと朝食を摂った。
ウェインですら少し疲れてるような気がした。
アントワーヌ刑務所からクラッシャーのとこ、それからフェイと会って、模擬戦。ファルやらも来たし、少し急ぎすぎたようだとウェインは実感した。
さほど強行軍ではないので、一日二日は延ばすべきだった。
ウェインですら多少の疲労を感じる。なら、エルやモニカはもっと疲れてるはずだ。
アリス隊の食堂では。隊員達より遅れての食事なので、場には余裕があった。今はフェイ、ファル、ミュール、エミアは別行動である。
まずアヤナが言う。
「『クラッシャー』だか『ピースフル』だか……そこから収支報告書を持ってきたわ。少し分析して貰おうと思う」
タニアが軽く聞く。
「あれは公開されてる情報だろ? 何か分かるのか?」
「私じゃなんとも……だけど。見る人が見れば、虚偽の記載やら資金の方向性はわかると思う。王家から広告も入ってるらしいんで、そっちから情報を回して貰うだけでいいかもだけど」
ディアが軽く話を繋げた。……彼女は今、ポニーテールにしておらず髪をさげているので、ぴょこぴょこしていない。
「金融とマスコミ・情報をやってる宗教団体って……それなりに何かできそうだね」
モニカが片手を上げる。
「ウチの『ロンリー・アッシュ』も、宗教法人で税金が優遇されてるみたいです。私は詳しく知らないんですけど」
アヤナは肯いた。
「何でもかんでも『宗教法人』にされたらアレなんで、一応色々あるみたい。でも『宗教法人』に『なる』なら、一番早くて確実なのは『買収』みたいね。ガワをどっかから探して買い取って。必要なら名義も変更すればいい。そんなにまでして法人格が欲しいかは、私にはわからないけど」
ウェインは肯く。
「『クラッシャー』の方は調査継続、みたいな感じだな。王家が把握してるならそこ次第でよさそう。で。あと王都ガルディアに来た目的。剣術指南ストークさんに助言を請うこと。これはOKだ。残りはエアタズムの……」
ディアが肯く。
「とりあえずジョルジュ・クイエを殺すことは出来た。ってゆーか、アイツを殺すか捕まえない限り、エアタズムはジョルジュ一匹に労力をかける必要がある。ガウマンさんなんて『少佐』だよ!? 何でクズ一匹に左官が出るのかって話」
タニアは肯く。
「確かにねぇ。ちょっと規模が大きすぎたとは思うけど」
「エアタズムの軍が行動するってことで、ほんの少しは、レオン王国にも情報が入ってる。流石に無断で何かやらかすのはマズいし」
「ふーん……どれくらいの人間が知ってるの?」
「それこそ私にはわからないけど……ま、ほら、レオン王国からすれば。エアタズムに恩を売っておけば、戦争の時にニールを左右から挟めるじゃん? 敵の敵は味方、的な」
「それなら。レオン王国が、エアタズムの挙兵の手伝いとか……」
ディアは軽く首を振る。
「もともとエアタズムは戦争になったら勝手に挙兵すると思うし。そこらへんは、別にどーでもいいと思う」
「ふーん……」
ディアは言う。
「後はジョルジュが刑務所に入った理由よ。表向きは『シャバから逃げるため』だけど……結局、アイツが刑務所に入った後も薬物は横流しされ続けてるし」
ウェインは片手を上げた。
「それはもう、エアタズム側の問題では? 盗まれたりする軍や研究機関、そして売買ルート。もう、そのジョルジュって人間一人だけとは思わないし。そいつに全部押しつけるのも違う気がする」
ディアは肯いた。彼女は普段より少し真面目だ。それから首を振る。
「いえウェイン。ジョルジュが全部一人で勝手にやった……これはヤツに押しつけるわ。ガウマン少佐とかは、それでお役御免。通常任務に戻れるんだから」
「まだ流れてる麻薬は」
「後は、私たちが関わるのは道義的なモノだけ。ハッキリ言えば、もうどうでも良い。エアタズムのポリスが頑張ってくれるでしょ」
「そっちのポリって、優秀?」
「無能。そもそもレオン王国よりも、よっぽど規模も小さいし人数が足りない」
「じゃあ、どうするのさ」
ディアは軽く手を振る。
「どうもしないわ。もう何もしない。誰かが勝手にやれ、と。私やレーンは別に、全人類を救う正義の人間じゃない。国民を守る警察でもない。明日のトンカツ・ライスの心配をする、ただの民間人だもの」
一瞬、静かになったが。エルは言う。
「でもディア。貴方はそれでも……『アヤナ・シスターズ』に協力を仰いで、それでも何か調べてる。それはやっぱり……」
ディアはぶんぶん手を振った。
「だから道義的なモノだけ、だってば。エアタズムの人間が引き上げた以上、こっちでは私やレーンが色々と調べやすいのは確かなわけで。でもそれも、第一目的じゃないわ。ついでよ、ついで」
ディアのその言葉を聞いて。ウェインはちょっと目配せした。
「なあディア。お前とレーンの目的って、何だ?」
「え?」
「確かレーンも、ラクスには『優秀な魔法使いを探すため』みたいなことを言っていた。いやそのジョルジュってのを殺すためだけなら、ディア達はあのガウマン少佐と一緒だって良かったと思うけど」
ディアは指をちょいちょいする。
「私らさ、軍の所属じゃないし」
「『ジュヌビエーブ大使』の時だって、アレは偶然転がってきた話だ」
「逆よ逆。色んな人が色んなモノを探して。いっとー可能性が高かったのがアレと言うだけで。ウェイン視点から見てるから、ヘンに見えちゃうだけで」
「そっか」
それから少し考え……
「俺とレーンって、戦場で会ったじゃん?」
「ん」
「あの時、レーンとディアは『ニールの傭兵』だった」
「ん」
「……」
「……?」
ウェインは一呼吸置いてから言った。
「そっか。正式な軍隊所属じゃないから、小回りが効くんだ」
「そだよ」
ディアは、コクコク軽く肯いた。
一方でアヤナが可憐な声を出す。
「思えば。私たち、ディア達のことを知らないわ」
「まー、そーだねぇ。あまり言ってないし」
「もし良ければ……だけど。聞かせてくれない? 貴方たちがどこで何をしたか、そしてこれから何をしたいのか」
ディアは、ふにゃふにゃして答える。
「いあぁ。そこまで大袈裟ではないけど。ほらレーンは『スタイナー流』を作りたいって言ってたじゃん?」
アヤナはさらに言葉を紡ぐ。
「レーンはいいとして。ディアの目的は何なの?」
ディアはクスクス笑った。
そして顔を上げ、言う。
「女が、男についていく。そりゃーもう、それが目的よ」
モニカがやたら感銘を受けていた。
「うおぉおディアさん、深いッス」
ウェインは、ちょっと聞いてみた。
「本当にそうなのか? それだけ?」
「え? 『それだけ?』って、それで十分じゃん」
「そっかぁ」
ディアは肯く。もし彼女の髪が束ねられてポニーテールだったならば、今はぴょこぴょこしてるはず。
そして彼女は、ゆっくり続ける。
「一昔前の歌……POPとかあるじゃん?
恋とか愛とか
好きとか切ないとか
夢とか希望とか
信じるだの願うだの
なんかもう、凄い陳腐で
そんなに恋が好きなのか、と。お前ただ発情してるだけじゃね? と
もう言い古されて
もう聞き飽きて
今同じモノ作ったら、絶対に嘲笑うような
もう……共感性羞恥?
聞いてて、コイツ本気でそんなん思ってるのかよ……と
マジで恥ずかしくなって、うっかり苦笑する
あんなの歌ってた人間は、今どこで、何をしてるのか
その愛やら恋やらが本当に素晴らしいならば、50歳とか60歳になっても歌ってるはずなのにさ
だから、そういうことだと思う
けど……
だけどさ
でもまあ……そんな時期は楽しいんだよ
ああ言うのを味わえてる私は、かなり恵まれてるんだ
今は、大人は邪悪だぜーとかロック歌ってるけどね」
モニカが、何故か感銘を受けている模様。
「うぅ、ディアさん。凄いっす。深いっす!」
「いあぁ……照れるわモニカ」
アヤナが呟いていた。
「もしロックンロールに行かなければ、なんか深い人間な気がする」
ウェインも呟く。
「いやロックも、ラブミーとかドンチューノウとかあるだろ」
エルは首をフルフルさせる。
「そもそも、私はロックンロールってどういうものか知らないまま、ディアのグループに入れられてしまったのだけど……」




