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ウェイン・アポカリプス  作者: 佐々木 英治
ウェイン・アポカリプス1.4

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309/313

祈ること-2

 ウェインが宛がわれた、アリス隊の客室。

 ディアが出て行ってから……少し経ち。入れ替わるようにドアがノックされた。

「はい」

 ベッドに寝転がって『調律』をしていたウェインは、起きて立ち上がりドアのところにいく。

 ドアを開けると……ウェインと同じように寝間着を着たエルがいた。

「ん。エリストア。どした?」

「ウェイン。ちょっと、ね」

 お風呂上がりのエルは、普段より色っぽく見えた。

 ただ逆に、普段より……何と言うか、真面目な感じではある。

 エルはドアを閉めて。ゆっくりとウェインの方に足を進めると。

 軽く両手を開いて、言った。


「『抱っこ』」

「はい?」

「『抱っこ』」


 言われるままウェインも少し踏み出し。立ったまま、エルを軽く抱きしめた。エルの香りはとても心地よい。

 彼女の頭をそっと抱いて、髪の毛を流す。

 でも何か……普段とは『違う』気がした。

 ウェインがそう思っていたからだろうか。

 抱擁を解いたエルは、そのまま、ウェインに取って衝撃的な言葉を言った。

「ウェイン。私……もう少し胸が大きくなりたいかなー、って」

 ウェインは仰天した。

「え、エリストア……!」

「ん?」

「もう少し……もう少しカラダを大切にしなさい……!」

「ちょっ! そんな、それほどなの!?」

 エルは、わたわたしている。

 ウェインは悲しくなって、言った。

「エリストアは俺の好みを分かってくれていると思った……」

「いえ、その! わかってるわ! わかってるけど!」

 ウェインは一旦言葉を切って、続ける。

「でもなんでさ、急に」

 エルは少し照れている感じだ。

「ウェインの好みは小さな胸、って知ってるけど……。やっぱり『女』とか、そういうののイメージは胸な気がするから」

「そう……かな?」

「大きい小さいはともかく、おっぱいが出るのって『女』だし『母』だし。だからかなー、って」

 ウェインは片手を激しく振る。

「ほら、ほら! レーンがおっぱいの進化論否定で言ってただろ? 胸が大きい女性も小さい女性も、駆逐されていないんだ。つまり種族のゆっくりした進化ならば大小は許容範囲……なのだと思う。大きいのと小さいの、どっちが美しいとかは地域や時代、文化で色々あるらしく……!」

 必死である。

 エルも少し慌てたけれども。それでも穏やかに言った。

「ねえウェイン」

「ん?」

「私の、小さな子供の頃。レグトリア孤児院にいた頃の夢……何だと思う?」

「さあ……?」

「『お嫁さん』」

「おぉ」

「できれば恋をして、それで結ばれる……って言うのが、夢だった。それはもう叶うかもしれない」

「うん」

「もし私が『エリストア・レオナール』だったら。ウェインとは会えなかったはずだし、そこは結構ステキだなって思ってる」

「そっか」

「それで、もう一つの夢」

「もう一つ?」


「うん。子供を産んで、楽しい家庭を作って……『お母さん』になるの」


 ウェインは少しの間、エルの瞳を見ていた。彼女は特に変わらない瞳のままで、ウェインに聞いてくる。

「ほらウェイン」

「ん?」

「ウェインって、『お母さん』の話題で嬉しそうにならない」

 ウェインは軽く手を振った。

「そりゃそうでしょ。成人した男が、『お母さん、お母さん』と懐くのは少ないんじゃないかな?」

「アスリー先生のことは嬉しそうに喋るのに?」

「いやほら……師匠は一応、恩人だし。血の繋がりのないあの人だからこそ感謝するってこともあるし……」

「そっか」

 エルは少し、ウェインから離れた。

「ここの部屋って、いい感じね」

「そうだな。あのアリス隊の客室だし」

「トイレとかどうしたの?」

「外の門の近くにあるので、そこ行った。……俺が権力者ならこの区域は貸し切りにできそうだけども」

「お風呂は?」

「アリス隊の人に外で見張って貰って、素早く出入りしたよ」

「……アリス隊の人たちが入った湯船の、味とか匂いは調べないの?」

 クスクス笑うエルだ。ウェインは少し考え……

「調べれば良かったあぁぁ!」

 と割と真顔になった。エルの方が、わたわたしている。


「ごっ、ごめんなさいウェイン! 今のは冗談で……!」

「違うぞエリストア! 女性用の銭湯ったって、普通は若いのから年寄りまでいる! だから『アリス隊』と言う、これだけの『採取』『観察』できる経験は、他にないだろう! いや全世界、ほぼ全ての時代でそうかも!? 似てるのは多分、警察の警察学校とか、軍人の教練時代のお風呂とかそのくらいだったかも! ああ、せめて味くらい……!」

 エルはぶんぶん首を振った。

「ごめん、ウェイン! それは、あまり外で言わないで……!」


「……」

「……」


「そうなのか、エリストア?」

「当たり前よ!」

「でも、色々なアイデアなりモノが生まれる瞬間って、こういうインスピレーションが大事で」

「そう……なの?」

「そうだ。例えばアンダーグラウンドソナーを使えば……相手の足音、そして歩幅が割り出せる。それで体格も割り出せる。俺もそれらは出来たし、大それたアイデアではない。……でも、どこぞのヘンな人は。地面の『圧』まで感知して、ある程度の体重までも計測できるようだ。確かにこんなん、このままでも他に実用性はないが。でもそこから何か『派生』するかもしれない」

「そう……なのかなぁ?」


 ウェインは真面目に続ける(念のため言うと、ウェインはここ最近の『匂い』関係では、割と真面目である)。

「前、エリストアには少し言ったと思うが。匂いって、すぐ『慣れる』んだよ。ほんと、割とすぐに慣れちゃって、もうセンサーとしては役立たなくなるくらい。センサー的にはそうでないと困ったのだろうけど……例外があった。エリストアの『匂い』は、慣れにくい。一緒のベッドで寝て、一緒のベッドで起きた時ですら、エリストアの『匂い』を感じ取れたほどだ。……俺はそこまで鼻が良いわけでもないのに、こうだった。『センサー』としての『匂い』は他に何かあるだろうし、独特の……人間特有の何かがあるかもしれない」

 割と真面目に熱弁し、割と真面目に聞いていたエリストアだったが……それでも、ウェインに恐る恐る言う。

「う、うん。私も魔法使いだから、言いたいことも理解もできるけど。普通の人からすれば、そうじゃない人もいるから気をつけてね……って」

 ウェインは肯いた。

「分かった、大丈夫だよエリストア」


 エルはぼんやり……とした感じで言う。

「私。お父さんお母さんのことは分からない。でもウェインがあまり実家を好きじゃないってのはわかるわ」

「なんでさ」

「話してて嬉しそうじゃない……ってのもあるけど。ガルディアから歩いて三日程度なのにほとんど里帰りしていない、って言うから」

「まあ……」

「家庭の問題で入り込まない方が良いのだろうけど……何かされたの?」

「いや。特に。むしろ食事と服と寝床と教育を与えてくれた。感謝している」

「……。『愛』は?」

「分からないけど。それなりには」

「そこらへん、大事なものではないの?」

「いやウチ兄弟いるし。そんなたくさんの子供に愛情かけられる親なんて、いないだろう」

「そう……なの?」

「そうだよ」

 エルは、それでも、少し悲しそうな顔をして。

 それから、言った。


「ウェイン。子供の頃の貴方に……何か足りないものがあったの?」


 そう言われても……と思ったが。

 ウェインは、さらにそこから少し考え、言った。





「多分、『祈り』は少し足りてなかった」







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