道具と装備
段々と陽も落ちて、夕暮れになっているアリス隊の基地。
ウキウキしてるウェインとディアとは別個で、タニアは郵送されてきた宝箱の中を覗いた。
「ん? ウェイン、隅っこにコレ入ってるぞ?」
「ん?」
タニアが取り上げた小さな袋。メモ用紙に文字が綴られている。
「『信頼性を高めた、付与研のリベレーターです。どうぞ』、だって」
タニアはその袋の中から、とても小さな宝石を取り上げた。
ファルは目をくるくるさせる。
「たーにゃん、その『リベレーター』って?」
エミア少尉が答えた。
「小さな宝石から、一撃だけ魔法の弾丸を射出するものです。威力もないし効率とか命中率も悪いけど……護身用とか、家に防犯用に置いてあるとか、その類いのです。基本的には使い捨てで」
モニカが肯いている。
「ウチのお隣さんにはショートソードでなく、魔法弾の発射装置があるって行ってましたね。……多分、それがリベレーター」
ミュール中尉もその小さな宝石をチェックする。
「あら。でもコレ凄いかも。距離も威力も水準以上だと思う。使い捨てにするには惜しいくらい」
ウェインはその小さな宝石を受け取った。
「じゃあコレはエルが持っておいてくれ。エルが一番、直接の攻撃手段に不安があるから」
エルは肯いて、その小さな宝石を受け取った。
そう……エルは炎の魔法を飛ばしたり等の、攻撃手段はとても苦手だ。護身用に持つには最適だった。
ウェインは肯いてから、改めて自分の新武装『ボーパルマニューバー』を見た。とても満足である。
それからアリス隊の人たちに言った。
「アルテナ大尉、ミュール中尉、そしてエミア少尉。いくつかお願いが」
アルテナ大尉は少し肯く。
「はい、構いませんが?」
ウェインも肯いて、言う。
「まず私の……この『ボーパルマニューバー』のことですが。これをある程度、公表できませんか?」
「構いませんよ。偽情報は断りますが、事実を。そして……それを少し誇張する程度なら」
「お願いします。軍隊でそれを少しだけ誇張していただければ、マスメディアでさらに誇張して増幅させる。……そんな人に心当たりがあります」
「そうですか。……マスコミが情報を誇張するのは望ましくありませんが。それは、どんな人でしょう?」
「周囲を伺って、張り込んで、あんぱんを食べてるような」
「!?」
ファルがウェインに、こっそり聞いてくる。
「うぇいに。それって……大麻とかシャブが買えなかった系の? 貧乏な人?」
「いやファル……『あんぱん』は隠語じゃない。健全なあんぱんだ」
「こしあん? つぶあん?」
「知らん」
ウェインは人差し指を立てる。
「一連の流れとしての物語は、こうです。剣術指南の娘で、優秀な騎士フェイ。彼女の『ボーパルバニー』の威力は強大で、騎士アヤナを含むウェイン隊二人を同時に相手をして圧倒、勝利した……と」
アルテナ大尉はうんうんと肯く。
「確かに。それは完全な嘘では、ないですね」
「はい。そこで、です。そこでウェイン・ロイスは『ボーパルバニー』を使うフェイと戦って……彼女を倒した」
「ええ」
「そんなウェインの手元に、伝説の武器『ボーパルマニューバー』が渡り、彼の戦闘力は飛躍的に高まった」
「……。『伝説の武器』?」
「そうです。そして騎士フェイの怪我は『白い女神』によって即座に回復し、騎士フェイは感動して、以降ウェイン隊に随伴することになる……と」
アルテナ大尉は少し考え込む。
「まあ……。全部が全部、嘘ではないでしょうけど。でもその……多目的装置がついている『ボーパルマニューバー』。それは私たちが見た限りでも、それほど強くはなく……。いえそれどころか……。ともあれ、それが伝説の武器なんて聞いたことないですし」
ウェインは少し笑う。
「それは多分、誰も聞いたことない『伝説』なのでしょう。物語は後からテキトーにくっつければいい。例のその、あんぱんの人なら何か書いてくれそうだし」
「はい、それならば」
ウェインは少し大きく肯いた。
「さて。すると世界でこの『ボーパルマニューバー』の秘密を知っている人間。それは今現在、もとのウェイン隊に、ファル、フェイ。エミア少尉、ミュール中尉……そしてアルテナ大尉しかいません。いや、後は造ったジャンとかロウとか。ともあれ『ボーパルマニューバー』の『コレ』、そして『色々なもの』を知っているのは、全世界でこの人数だけなんです。ちょっと大袈裟ですが、今の時点では確かなことです」
「……」
「『ボーパルマニューバー』から撃ち出されるのが、初級魔法か、上級魔法か。これは他の人は誰も何も知らない。撃ち出される魔法弾がヴァリアブル・スピード……可変速型の魔法弾なのか、どうか。速いか遅いか……これも誰にもわからない。ここにいる皆さん方とて話では知っていても、しかし実戦で使われたのは見たことがない。だから誰にも、まだ何も分からない」
周囲が、少し引き締まった雰囲気になる。
確かにジャンから届いた『ボーパルマニューバー』は、そこまでたいした物ではない。フェイの持ってる『ボーパルバニー』と比べるのも、おこがましい。
しかしそれは身内だからこそ言えるのであって、同じ『ボーパル』とついていて更には軍隊の元で公式に『ボーパルバニー』とやりあった……それは外から見れば気味が悪い。
そして……ウェインは、この手の『ブラフ』やら『細かな変化』を使うことにも長けている。
さらに。バレればバレたで、別に不利になるわけでもない。マイナスイオンがどうこう言ってたと、嘲笑られる程度だろう。それで『弱点』も浮かび上がるかもしれないが。
しかも法律に抵触してるわけでもなし。
とりあえず『隠しておく』というメリットはある。
そしてウェインの今までのショートソードの長さと比べて、それはロングソードの長さで。見た目はいかにも新武装だ。
ウェインくらいの、身長が平均程度の人間も多くがロングソードも用いる。外見的にも目立たず、全く問題はなかった。
そこでディアが声を上げる。
「ウェイン。そんな『伝説』まで作ってそれをどうするのさ?」
「当面の仮想敵は、ブレーナー、アイカ、そして何よりファントムだ。そいつらがこの話を聞いたら一応の抑止力にはなる。この『伝説』はハッタリにもなるだろう。伝説の武器がウェインの手中にある……それなりには良い話だ」
「ふーん?」
「後は少し……まあ、秘密の方がいいか」
「へぇ……」
「うん。ま、ユニバーサル規格には適合してないっぽいけどな。こんなモード切り替えがあって複雑でピーキーなものなんて区分できんでしょ」
アヤナが小首を傾げる。
「ウチの倉庫には規格をクリアしてない優秀な武具も多いけれど、それはどういう形なのかしら? 同じような意味?」
「んー。そうだな。単純に『出回ってるかどうか』みたいなものだけど。何かの『区分』として。でも何というか……例えば、さ」
ウェインは人差し指を立てた。
「皆がどう思ってるかはわからないが。俺は装備の、大抵の数字には興味が無い……ここらへんは色んな人間の自由だと思う。好きにすればいい。でも、絶対に押さえておかねばならないところがある」
「ウェインさん、どんなのです?」
モニカが瞳を向けてくる。ウェインは続けた。
「例えばユニバーサル規格の武具は、色々な材質や数字で区別されていると思う。鉄だとか銅だとか。あるいは材質で判断して、各自で色々調べて判断してると思う。タニア、そういう数値なんかに目を通したことは?」
「えっ。えっと。さらっと」
「なら、例えば鉄製の武具なら。鉄の融点とか沸点とか書いてあったはずだけど」
「う、ぅおぅ」
「それも正確な数字は別にいい。鉄の融点は1500度くらいとか沸点は3000度いかないくらいどか、細かいところも別にどうでもいい。対人戦闘で鉄を溶かしたり頑張るのは誰もしないと思う。そんな火力は出ないしさ」
そこでエルが愛くるしい瞳を向けてくる。
ウェインは続けた。
「ただ鉄の剣を、例えば段々に加熱していって……柔らかくなる温度、と言うのはやはりどこかにある。そこは『なんとなく』程度の感覚でも頭に浮かべておくと良いと言うか、剣士なら真っ先にそういうイメージがあっても良い気がする」
皆、あまり何も言わないし。むしろ興味があるようだ。ウェインは続けた。
「例えば鉄のアーマーがあるとして。そのアーマーの厚さはどれだけあるか。そしてファイアーボールを打ち込まれた場合、熱はどれだけ身体に伝わるか。インナーを含めて、何度までなら耐えられるか。逆算して、どれだけの威力のファイアボールになら正面から突っ込んでいけるか。鉄の鎧は耐えても、中身は耐えられない。そしてファイアボールに速度と質量があるのだから、こちらもどの速度、どういう角度なら突っ込めるか」
やはり、誰も何も言わずに興味津々のようだ。思えば魔法使いなんて人種は、そもそも鉄の剣やら鎧などに興味がない……あるいはその知識がない人間がほとんどだ。ウェインはさらに続ける。
「そこらへんはタニアとかレーンとかは経験でやってるはず。そして魔法使い側はそこらへんを考えて、相手がどう動いてくるか……初手に強いのを出すか、最初に軽めに撃った後に後ろに下がり、二撃目に強いのを撃つか。相手が多い時、味方が多い時……色々あると思う。そういうのに『対応』していくのは、それぞれ能力や場数が必要だと思うが。でもこの『ボーパルマニューバー』は色々と便利に使えそうだ」
少しの静寂の後。モニカが全員に言う。
「皆さん。言っておきますが、そもそも普通の魔法使いって、そんな柔軟にはできないんですよ。ファイヤーボールを放つにしても、そこまで威力や速度の調整は出来ない。そんな集団戦の訓練も受けてないですし、そもそも戦いそのものが管轄外ですから」
するとそこでエルが、声を出した。
「でも不思議なの。そういう『細かい対応』……ができるのが『ボーパルマニューバー』のウリなわけよね? ジャンさんはそれをウェイン専用にチューニングした、って……」
「そうですね、エルさん。そうみたいですけど?」
「モニカちゃん。それならウェインには、一番に不必要ではないかと思うの。だってウェインなら、そう言う……正面火力じゃないところを制御できるんだもの。例えば魔法の発射速度を可変式にするアイデア『V.S.B.R.』。……『可変速』。それは確かに技術的には画期的だけど、あまり実用性がないからと手を出す人間は少なかった。ウェインはそれを『チェンジアップ』として、高い威力、精密さ、無段階変化……それらを高い次元に纏めているから実用的なだけであって。そういうレベルじゃないものは、あまり使い物にはならない気がする」
アヤナがのんびりした感じで言う。
「攻撃手段が少ないエルとか、魔力が高いモニカが使った方が、何かと便利なんじゃないかしら?」
ウェインは軽く笑った。
「いや、やっぱりジャンがチョイスしてくれただけある。俺が使うのが最も有効だと思う。エルは護身用に単発の『リベレーター』を貰っただろ? 護身用ならアレでいいし。どちらにせよエルとモニカは近接戦闘をしない。その場合はこの『ボーパルマニューバー』は大して役に立たない」
「ふーん」
そこで。ディアが笑顔で、グッと拳を握った。
「でもでも。それにさ。マイナスイオンの力で、光るし!」
ウェインも同じように(彼にしては珍しく)嬉しそうに拳を握る。
「史上初かもしれないよな、マイナスイオンで光る武器!」
嬉しそうに互いの顔を見合わせて興奮している、ウェインとディア。
その雰囲気には、あまり乗れない、他の人たち。
しかしエルは、それでもやはり、ポツリと呟いていた。
「んー。マイナスイオンって、やっぱり光るのかなぁ……」




