『新型』
アリス隊の基地。
郵便で送られてきた宝箱を持っているエミア少尉。
皆は特に慌ててはいないが、アヤナだけは、軽い叫び声。
「ちょ、ちょっとエミア少尉! 基地に……基地に宝箱が郵送されてくるものなの!?」
「いえ、わかりませんが。でも今、届きましたし。中身は『装備品』だそうで」
「『装備品』って。そんな。簡単に普通便で届くなんて危ないし……!」
エミア少尉が軽く手を振る。
「あっ。流石に普通便ではないですね。『書き留め』です」
アヤナは弾かれたように身体を跳ねさせた。
「『書き留め』!?」
「はい……アヤナ姫。これは『書き留め』ですけど……?」
すると。良く分からないが、アヤナは少し安心している。
「よかった……。書き留めなら大丈夫かな。ところで差出人は?」
エミア少尉は宝箱の上やら側面やらを見て……
「書き忘れてるみたいですね」
「んなっ!?」
また、激しく驚いているアヤナだ。エミアは不思議そう。
「大丈夫ですよアヤナ姫。宝箱に罠とか害悪とかがないかはチェックします。基地や人員に被害が出ては困りますから」
「ま、まあそうよね……」
「この宝箱のチェック……どうしましょう?」
アルテナ大尉が軽く手を上げる。
「エミア少尉もミュール中尉も、こんな訓練はあまり受けてないのは知ってます。私がチェックします」
そのアルテナ大尉の言葉に、ディアがポニーテールがぴょこぴょこさせる。
「アルテナさん。宝箱のチェック、私がやるけど?」
「いいのですかディアさん?」
「うん。本職だし。皆は経験のために見てて」
全員が肯いた。それは確かに合理的だったから。
エミア少尉はその宝箱を地面に置く。
ディアはその宝箱の前に屈んだ。アルテナ大尉は少し離れたところに移動し、ミュール中尉がその空白を埋めるように位置取る。ここらへんは軍人特有の配置のようだ。
そしてディアが注意して宝箱をチェック。
「罠とかそう言う危険な問題はないみたい。じゃ、開けるわよ」
アヤナが口走る。
「しゃっ、喋るかも!?」
「は?」
「い、いえ……何でも」
ディアは不思議そうにアヤナを見ながらも、ゆっくりとそのフタを開けて、中を見た。
その場の全員も中を覗き込む。
そこには布に包まれた長い棒のようなもの。
そしてその上に二つの封筒が置いてあり、中に手紙が入っているようだった。
「とりあえずこっちもチェック……問題ないっぽい。この棒みたいなのは……?」
ディアは布にくるまれた、その長いものを手に取って。
少し布から出すと。
「ありゃ。これ剣かな? ロングソード?」
タニアが言う。
「そうだね。ロングソードの長さだ」
次にディアは、宝箱の手紙を手にして……
「『親愛なるウェインへ。武具魔法付与研究クラブのジャンより』って封筒と『新武装マニュアル』ってのがあるけど」
「俺宛てか? ジャンからの」
ディアは肯く。
「そうみたいね。はいウェイン」
ディアが手紙を差し出す。
ウェインは肯いてからそれを手に取って、少し読み始めた。
『
ウェインへ。
いつも試作品のテスト及びフィードバックなどをありがとうございます。そのお礼として、ウェインの新武装を郵送しました。差し上げますので、有効に使ってください。
ウェインが王都ガルディアにいる間に受け取れれば良いですが。一応、最終的にはフランソワーズ家に届くように、ロウに手配させました。
さて今回送付した装備は、ウェインならば自在に、そして最も効率よく使えるはずです。逆に他の人間ではあまり意味がないかもしれません。そういうチョイスと、チューニングを施してあります。なのでウェイン専用武装と言っていいかもしれません。
この武装……多目的化も、その原案や構想は前からあったのですが、通常の使用ではあまり役立たないと判断して、しばらく倉庫に眠っていました。
しかしウェインがレーンさんとやりあってサーベルを叩き折られた後、ウェインがウチにやってきた時から考えて。仕様を変更して再び開発を再開しました。もともと原案、そして土台があった分、うまくできたかと思います。
また、この武装の過程で得た技術や思想は他の製品にも応用できる程でした。
ただこの武装には予想以上に開発が難航し、作成に時間がかかってしまい、完成が間に合わず、ウェインが王都へ行く時には渡すことができませんでした。
平時ならばラクスに戻ってきた時に渡せばいいのですが。今の緊張時、どこでどうなるかわかりません。なので早めに郵送しました。お受け取り下さい。
新武装の設計思想、そして機能・性能などは、同梱したマニュアルに全て記載しております。恐らく機密性が高いものでもあるので、マニュアルはウェインが厳重に保管してください。
武具魔法付与研究クラブのジャンより
』
ウェインはその『新武装』を手に取って、眺めた。ロングソードの長さ。
「ジャンが想像以上に手間取って、時間をかけたのか……。それだけでも高いレベルに思うね」
ウェインは今まで左腰に差してあった自分のショートソードを鞘ごと引き抜いて、それからジャンが送ってきたそれを、交換する形で左の腰に差す。
「うん、収まりは良い感じ。見た目はどう?」
ディアは肯く。
「そうね。ウェインってショートソードのイメージだったけど。ロングソードの長さも似合ってる気がする。そこらの兵士とかもそういう装備だし。良いと思うわ」
「おー。褒めてくれてありがとう。で、このマニュアルは……」
ウェインは、ジャンが送ってきた、その武器のマニュアルを見た。
……。
……。
………………!!!!
ウェインは目を大きくした。
「これ……凄いかも!」
エルが興味深く見つめてくる。
「どういうものなの?」
「原理やら区分はそう……フェイの『ボーパルバニー』と一緒だな。魔力を変化させたりする」
「魔法剣みたいな? 強いの?」
だがウェインは首を振る。
「強いかどうかはわからない。……いや俺自身が魔法を使った方が、遥かに強力だ。でもコレには……色々機能がある。使い方次第だろうな」
そこでディアが、マニュアルを覗き込もうとした。
「へー。どんな機能なの?」
だがウェインはディアには見せず、そっと胸元に入れた。
「やだ。教えない」
「なんでさ」
「色々あるから。……じゃあそうだな。ディア、あっちに立ってくれ」
「良いけど。何で?」
「新型のテストをおこなう」
「人体実験じゃないの!」
ウェインは軽く手を振った。
「大丈夫だって。コレは魔法剣『ボーパルバニー』程には強くない……どころか、そもそも、たいして強くないっぽい」
エルが少し声をかける。
「ジャンさんが、そういう役に立たないものを送ってくるかな?」
「まあまあ。ほらディア構えろ! 初級の魔法が出るはず」
ふくれっ面のディアだが、仕方なく、少し遠くに立って重心を落とした。
ウェインは呼吸を整えてから……その武器からそれを射出する。飛んで行ったのは初級の炎の魔法だった。
ディアは難なく躱す。
「ふーん? たいしたことないかも」
「ディア、もう一回行くぞ」
「いーよ」
「今度は弾いてみてくれ!」
「おっけ」
もう一度ウェインが射出した初級の炎の魔法は、今度はディアが浅い角度で弾いた。『魔法パリィ』。ディアはああ見えて魔力が高い。その彼女の見立てを、ウェインは知りたかった。
「どうだ、ディア?」
「んー。ウェイン、どうも何も……ウェインが扱う『初級』ならまだしも、『普通』の初級魔法だし。『ボーパルバニー』どころか、これくらいなら、高い値段を払えばそこらの店売りで買えそう。正直、ショボいと思う」
「まあまあ。それはそうだろう。『ボーパルバニー』クラスのモノがそう簡単に造れるか、って話。次行くぞディア」
「へえ。他に何かあるの?」
次にウェインが射出した炎の初級魔法は……空中でバラけ散弾となってディアに襲いかかった。
「おっ!?」
ディアは弾くのがイヤだったのか、大きく空間を使って躱す。彼女は感心していた。
「そっか。『ボーパルバニー』はこういうのもできた。威力が低くても、相手は嫌がるね」
「そう。今のは散弾になったから、威力としては初級以下の低級魔法になった。直撃を受けてもたいしたことはない威力だ。でも顔とかに当たるとイヤだから、相手はどうしたって防御に回る。そうだね……威嚇とか、めくらましとか、牽制とか、そういう感じで使える」
タニアが聞いてくる。
「ウェイン。それ使えそうか?」
「ああ、タニア。使えそうだ。色々と機能あるし。……そうだ皆、コレに名前をつけてくれない?」
「名前?」
「そう。強そうなの。俺の専用の魔法剣みたいなの」
モニカが言う。
「『ウェイン・ソード』」
ディアが続く。
「『ウェイン・スペシャル改、弐型乙式』」
続いてアヤナ。
「『ソード・オブ・ウェイン』」
そしてフェイ。
「『ボーパル・ウェイン』」
ウェインは慌てて手を左右に振った。
「ごめんごめん、言っておいて何だけど。『ウェイン』の名前は入れないで欲しい。で、かつ……なんかソレっぽい、抽象的な感じの」
フェイが言う。
「『ボーパル・ウェポン』」
続いてアヤナ
「『ボーパル・タングステン』」
そしてディア。
「『ボーパル・超合金』」
「真面目に考えろって!」
ディアはあたふたする。
「いや強いっぽいわよ? 凄い強そう」
そこでエルがポツンと言った。
「『ボーパル・マニューバー』」
全員が一斉に、エルの方を見る。今度はエルがあたふたしていたが……
モニカが言った。
「……響きが近未来的ですね」
アヤナも肯く。
「名前の響きだけで言えば、本家のボーパルバニーより上だと思うわ」
タニアは感心している。
「うん。ウェインと『ボーパルバニー』は公式で戦ってる。その後に同じ『ボーパル』がついている武装……凄く強そうだ」
ディアも肯いている。
「ガチで強そう」
ウェインは笑顔で肯いた。
「じゃ、これの名前は『ボーパル・マニューバー』に決定!!」
その場の皆から、軽くパチパチ拍手。新たな武器に『祈る』のは、まあ普通かもしれない。タダだし。
そしてウェインは左腰に差していた『ボーパル・マニューバー』を引き抜いた。
そして、改めて見つめる。
「んー、今までショートソード級の長さに慣れちゃってて、ロングソード級の長さのこれは少し戸惑うけど」
だがフェイは言う。
「慣れだと思いますよ先輩。普通にショートソードとロングソードを行き来して使う人間も多いですし」
「そうだね」
ファルがわくわくしていた。
「うぇいに、どーいう機能があるん?」
ウェインは嬉しそうに『ボーパル・マニューバー』を見せた。
「ファル。ここに魔法の紋様が浮かんでるのは分かるか?」
「ん」
「で。ここに『ア・タ・レ』と刻んであるだろ?」
「ん」
「これはな。(ア)安全装置・(タ)単発発射・(レ)連射、とモード切り替えができることを指す」
わくわくしてたファルが……少し、興奮が冷めた。
「え、それだけ……?」
「いや、ここには3点バーストもついていてー!」
「……」
「見ろよ。通常弾の他に、徹甲弾、榴弾、散弾、ゴム弾、狙撃弾、小口径機関銃弾……さらにホローポイント弾まで! それらが全部、モード切り替えでー!」
ファルの興奮が冷めていくとの反比例して、ディアが興奮してきた。
「すごっ、マジ凄い、かっけー!」
アヤナが不思議そうに言う。
「……ウェイン。それ、強いの?」
ウェインは真顔で返す。
「いや、弱い」
「!?」
「もとが、せいぜい初級魔法程度の出力だからな。ヘンにいじると、さらに下の低級魔法ぐらいの威力しか出ないでしょ」
「そう……なんだ」
「うん。例えばこの狙撃弾で遠距離狙撃したって、減衰して散っちゃうと思う」
「……」
しかしウェインは、新機能にまだ興奮している。
「うおおおお! これ実現してたんだ! どんだけ実用的なのか、色々とジャンにフィードバックしなきゃ!」
モニカは『ボーパル・マニューバー』を覗き込む。
「ウェインさん。なんです、それ?」
「可変速型の魔法弾・発射装置だ。技術的には、なかなか凄い」
「かへんそく?」
「ヴァリアブル・スピードだ。標準速以外に、速い速度の火球と、遅い速度の火球を打ち分けて飛ばしたりできる」
タニアがポンと手を叩く。
「ウェインの『チェンジアップ』と同じか?」
「そう。似たようなことが、ある程度できるね。恐らく制御はざっくりした感じにしかならないと思うし、もともとの出力が弱いから直撃させても……だけど。でもやっぱり牽制で使えそう」
「はえー」
「こっちの『ウエポン・ライト』の灯りは暗闇での突入時に手が塞がらないし、そもそも眩しくて目眩ましになる。後はランチャー……。催涙ガス、スモーク、チャフ、ミスト……いいね。どれも良さそうだ」
チェックしているウェインを横目で、タニアは、エルに小声で訊ねていた。
「エル。私は本当に魔法は専門外なんだけど……あれ凄いの?」
「ごめんなさいタニア……実は私もよくわからないわ。何がどうなのかとか、どう使うとか使えないとか、全然……」
「魔法学院で習ったりとかは?」
「いえ、そんなこと全然。だって高位の魔法使いはあんなものを使わないわ。それに、もしウェインが自分自身でやったなら、もっと遥かに凄い現象が起こるはずなんだけど……」
そう。ウェインはさっき、『狙撃弾』(?)と言う魔法の弾丸で遠距離を狙ったら、減衰して散る……と言っていた。が、ウェイン本人なら『爆煙の弓矢』でも『アポカリプス』でもいい。ともかく遥かに遠距離を強く狙えるのに。
しかしウェインは『ボーパル・マニューバー』の多機能さを嬉しそうに確認している。
エルは言う。
「ウェイン、それ、凄いの?」
「そうだなエル。んー。凄いには凄いが、要らないには要らない……かも」
「!?」
「もとより命中とか威力なんか期待しないよ。威嚇とか、何かとりあえず撃っとけとか、そんな感じ。何かの時にあえて『手を晒す』感じを見せれば、相手が何かに引っかかってくれるかもしれないし」
「ふーん」
「基本の威力は『ボーパルバニー』には遠く及ばない。そりゃそうさ。でも……上手く使えば、きっと役に立つ」
と。ディアがウェインの手の中の『ボーパル・マニューバー』を覗き込んで……言う。
「ウェイン、ここ十徳ナイフに使えるんじゃない?」
「そうだな。一流品と比べたら、そりゃ品質は劣るが」
「でもでも、色々と凄そうだね。そりゃ性能とかはともかく、ワクワクするって言うか」
「だろ?」
「これ何ウェイン?」
「こんな小さな魔法の紋様なのに、空気清浄機がついている、除湿機と加湿器」
「へー。こっちのこれは魔法陣っぽいわね」
「この魔法陣は初級型だな」
「こっちの魔法の紋様は?」
「エアーコンディショナーとサーキュレーター」
「これは?」
「ヘアードライヤーとパワフルスチーマー」
「凄い凄い!」
「こんな小型で集約されて……あるいはモード切り替えで多様に対応し。コレ、マジで凄い」
ディアと、そしてウェインは嬉しくて身体が躍動している。一方で周囲の人間は。何だか気後れしていると言うか……
モニカが呟く。
「ウェインさんって、そんな変なものを好きじゃなかったはず……ですよね?」
アヤナは肯く。
「私の知ってる、まともな『師匠・ウェイン』はディアの毒に害されたのかもしれない……」
そんなアヤナの言葉に、エルはちょっと酷いなぁ……とも思ったが。そもそも自分も似たようなことを考えていたので、口には出さなかった。
そして……それは確かに『男の子の心をワクワクさせる』のかもしれない……とも。
ディアが呟く。
「ねえねえ。せっかくロングソードの長さがあって、物干し竿機能がついているのに。何で高枝切りバサミにはならないのかな?」
「アタッチメントが別売りなのかもしれない」
おずおずとフェイが片手を上げる。
「あのー、先輩」
「何?」
「なんでそんな機能がついているんでしょう?」
「わかんないけど。でも良いチョイスだと思う。俺は色々試したいと思ったよ。あと、そうだな。ウエポンでなく多機能アイテムとしておけば法律や税金の関係で……とか」
ディアも指を立てている。
「他の便利道具と競合しないよう、めっちゃ機能つけて、何だか……『何か』をしたい感じよね。それが『何』をしたいかは、ともかく」
ウェインは肯いてから、ディアに見せる。
「ディア、見ろ見ろ! サラウンドスピーカー機能から、1/fゆらぎ音が出せる!」
「うおおお!」
ディアが好きそうな機能である。
ウェインは『ボーパル・マニューバー』の一部を見せた。
「ディア、これ、これ! 凄い!」
「何それ?」
「光るマイナスイオン!」
「うおおおおお! すげー。マジすげー!」
ウェインとディアは、無邪気な感じで喜んで騒いでいた。
それを。その場の全員が、ウェインとディアを少し引いた感じで見ていたが。
エルはポツンと言った。
「……。マイナスイオンって、光るのかなぁ?」




