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ウェイン・アポカリプス  作者: 佐々木 英治
ウェイン・アポカリプス1.4

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304/313

どこぞの風景


「ウェイン先輩、どうしました?」

 フェイの嬉しそうな顔。若干……? いやかなり悪戯っぽい瞳。

 彼女はウェインより4つ年上の21歳。なのに、こんな感じで言うのもアレかもしれないが、美人とか綺麗と言うよりも、明るく可愛らしい……という感じで整った容姿だ。

 しかしよくよく考えればタニアは22歳。フェイとほぼ変わらない。年上とは言えほぼ同年代で、変わらない……やはりそう思えた。


 ウェインは少し怯えながら答えた。

「……フェイさん、何ですその『先輩』って呼び方?」

「ウェイン先輩。さん付けなし、呼び捨てですよ」

「ん……。フェイ。なんでフェイはそんな呼び方をするんだ?」

「ディアとモニカちゃんに相談したら『先輩』呼びがいいって……」

「えー。明らかに相談する人間間違えてるでしょ」

 見るとモニカは楽しそうだし、ディアに至っては何故か達成感……『なんとか頑張って、うまくできたぜ』みたいな顔である。


「ディア。お前、何を吹き込んだ」

 彼女はポニーテールをぴょこぴょこさせる。

「いあぁ……ウェインのハーレムにさ。『呼び方』の多様性が足りないんじゃないかと……前にも言ったじゃん?」

「そう……だった?」

「うん。当時は『先輩』呼びはモニカにやらせようと思ったけど……まあいいんじゃないかと」

「なんで、いいんだよ」

 するとディアは肯いた。


「ほら。ウェインって……フェイさんのこと好きっぽいし」

「え」

「アルテナさんのことも好きっぽいし」

「え」

「私のことも好きっぽいし」

「え」

「だから、まあ別にどうでも良いかと」


 一方のフェイはニコニコしていて。少し隣のアルテナさんはオロオロして。アヤナは諦めたように手を振っていた。そのアヤナは言う。

「あー、ウェインって社交性ないから。テキトーに優しくしてくれる女性なら誰でも好きみたいね。見てて、いつもそんな感じがする」

「え!? アヤナ、俺は別にそういうわけじゃ……」

 そして。次のモニカの声は、誰もが聞こえた。


「ウェインさんって、もしかして……チョロい感じですかね?」


 アヤナは軽く重く肯く。

「そうねモニカ。んで、黒髪ロングだとすぐに意識すると思う」

 横に居たディアは、クックックと邪悪な笑い方だ。概ね当たっていたので言い返せず。ウェインは恥ずかしかったが、フェイに言う。

「だいたいフェイの方が人生の先輩だろ。なんで俺が先輩なのさ」

「私はチームとしては一番後輩なので」

「まあ……いいか」

 ウェインは『先輩呼び』をされたことはなかったので、少し新鮮だったことも事実。

 軽く肯いてから言う。

「えっと、フェイ。そっちの出発準備はどれくらいになる? 俺たちは明後日くらいに出ようかと思っていたんだが。少しここに滞在するよ。急ぎでもないし」

「先輩。私は本当にいつでも……だけど。確かに、少し時間が欲しいかな。どのくらいかは明言できないけど数日以内。アヤナについていく報告と、『ボーパルバニー』のこととかを王陛下に報告するの。ただ順番待ちがどれくらいか……明日にでも謁見できるかもだし、逆に数日待たないといけないかは、わからないから」

「なるほど」

 そこで、ぽやーんとアヤナが言う。

「割り込ませてもらうわ。一番前を取るとアレだけど、明日の一番最後なら大丈夫だと思うし」

「お、おう」

「今日これから突然、ってんじゃアレかもだけど」

 ナチュラルに職権を使うお姫様である。

 いやしかし、騎士が任務のため場所を変えたり魔法剣の報告をするのは重要で、アヤナの力がなくてもある程度は順番が早いだろうと思ったが。

 フェイは従者のチアリに言う。

「じゃあチアリ。謁見の手続きをお願い。早ければ明日……遅くても明後日には何とかしたいかな」

「わかりました。フェイ様、騎士団へは?」

「そっちは後で私が行くわ」

「はい、それでは」

 チアリは心配そうに頭を下げた。


 そんな彼女を見ながら、地面に車座になって座っているチームメンバー。立っているのはアリス隊の正式な軍人のみだ。少しお行儀が悪いかもしれないが、つい先程まで真剣な模擬戦をしていたのだ。無理もない。そしてベンチなどの休憩場所に行くと全員の声が通らない。なのでこれが最も合理的だった。

 アルテナ大尉が言う。

「ウェイン様。今晩はどうなさります? 外で宿を? アリス隊の宿舎も使えますが」

「大尉。それは俺も平気なのですか?」

「もちろん」

「じゃあ……」

 皆を見渡す。特に異論はないようだった。

「では大尉。今日の部屋はそちらでお願いします」

「はい。食事もこちらで?」

「そのつもりです」


 アルテナ大尉は少し肯いた。

「ではウェイン様。他にご要望などありますか? ウェイン様のご希望やご要望には、できるだけ応えたいです。個人的にも」

「有り難いです」

 ウェインは少し肯いてから……言った。

「では……」

「では?」



「アリス隊の制服の匂いを嗅ぎたいのですが」



 ビタッと、時間が止まった。


 アルテナ大尉は恐る恐る口を開く。

「あ、あの……ウェイン様」

「何です?」

「それは……何か暗号だとか、スラングとか、そういうモノでしょうか?」

「ん? いえ違います。純粋に私が嗅ぎたいだけで」

 やはり、また時間が止まる。


 ディアが悶えた。

「だああああ! 何言ってるのよウェイン! せっかく今まで好感度良い感じだったのに!」

「え? 何? どうしたの!?」

「そんな、制服の匂い嗅がせろって、ヤバすぎでしょ!? どこぞの地域で流行ったブルセラ的なそういうやつ!?」

「ぇあ!? ち、違うってディア! アリス隊なら、ほら柔軟剤が!」

「ぉあ!? 柔軟剤……柔軟剤!? 柔軟剤!?」

「うん。女性の戦闘服で、柔軟剤を使ったのと使わないのが比較できそうで。こんな環境は滅多にないと思う!」

「比較してどうすんのさ」

「どんな匂いになるか知りたくて」

「だったら身内で済ませりゃいいでしょ! 何でアウトソーシングするのさ! 新妻のエルとかに嗅がせてもらえば!」

「もう嗅いだ」

「!?」

「でも匂いって個人差とか……いや個人の間でも時間差か何かでなんか違うんだ! マジで! よくわからないけど!」

「公衆の面前でセクハラかますウェインの神経の方が、よくわからないわよ!」

 そのディアの言葉に、エルは、普段ならディアだってあんな感じだけどなぁ……と少し思ってしまっていた。

 そこでファルからウェインへ蔑みの声。

「うぇいにー、あーし、かなり引くんですけど」

「え!? おい待て! 違うぞファル! 俺はただ、運動直前と直後の匂い、その汗の比較も出来るかと!」

「ガチもんすぎ」


 そこでモニカが、軽く手を振って、皆の中央に歩み出た。とても真面目な、力強い表情。


「皆さん。我が師ウェイン・ロイスが突然こんなことを言うので、不審だったかもしれません。ですが……大丈夫です。ご心配なく」

「もっ、モニカ! ありがとうモニカ! これはちょっとした誤解だと説明を……!」

「皆さん。実は、我が師ウェインは……」

 そして言う。




「前からこうです」




 ウェインは必死に弁解。

「違うってばモニカ! 俺は純粋に知的好奇心と創意工夫で!」

「女の子の匂いを求めてる時点で、既に心が邪です!」

「だって男の服の匂いは、もうあらかた区別がついて……!」

「なおさらダメダメな人じゃないですか!」

 皆は、割と引いた感じでウェインを見ている。モニカは続ける。

「ウェインさんは私のパンツの色を『白』だって当てるし!」

「ち、違っ!」

「光の魔法を反射させて透過させて裸見るとか、無駄に技術を使ってまで!」

「違うって!」

「同じ原理で、なんか道行く全員の裸見てニヤニヤしてるとか!」

「違う! そんな使い方ではなく! そもそも見えないし!」

「試したことはあるんじゃないですか!」

「そうじゃない! 違うって、違うってば!」

「さっきの『クラッシャー』の時なんか、敵に私のパンツ見せろとか命令してくるし!」

「あっ! あれはごめん! 悪かった! あれは間違えたの!」

 ディアは、確か似たようなことをエルにやらせようとしたなぁ……と引け目があったので、少し俯いていた。

 ウェインは必死に弁解して……

「え、冤罪です! 誤解ですよ皆様!」

 しかし。特にアヤナとモニカの機嫌がとてもとても悪い。

 その場の、重苦しい、そしてばつの悪そうな雰囲気に。



 ……ウェイン・ロイス。土下座。



 周りの全員はわたわたして。

 しかし。

 まあ。

 何とか取り繕って。

 少しだけウェインは皆に『構想』みたいなものを話すと、皆、一応は『ふーん』って感じになった。これで『やべーヤツ』認定はなくなった(と思いたい)ところだ。

 ある程度の込み入った話を知っているのはエルだけだったし、まだそれはあまり言うなと当のウェインに言われてたし、そもそもエルですら詳しく聞いてはいない。

 アヤナは言う。

「でもウェイン。何をしたいのかはよく知らないけど。そういうのは、こっそりやったほうがいいんじゃないの?」

 ミュールは軽く手を左右に振る。

「逆にこっそりやってると、言い訳がしにくいかも。サラッとイケメンっぽく、流れの中で言うとか」

「んー。パワープレー過ぎると思うけど……」

 アヤナの言葉にエミア少尉も軽く首を振る。

「イケメンがサラッと言っても、流石にちょっと無理な感じですね……」


 そんな、少しザワついている女性陣の中で。ディアとタニアはこっそり話していた。

「ねえタニア。レオン王国人って『土下座に弱い』って聞いてたけど。本当なんだねぇ」

「そうだねディア。私たちにはよくわからない感覚だけど」

「土下座するから上に座ってくれ……って言う意思表示なのかな」

「!?」

「いえ、なんか最近そんな人に出会って」

「えー。なんかレオン王国人って怖いよ」

「ま。私も今度試してみよう。手札が一つ増えた感じで嬉しいな」

「ふーん……」


 そして半泣きになりかけているウェインに、ディアが言う。

「ってか、真面目な話だけど。なんでウェインが、そんな匂いだかに興味あるのさ。アンタが夢中になるのって……女の子じゃなく、それこそ好奇心とかじゃないの? スカートの中を知りたいとかの好奇心でなく」

 ウェインは肯いて答える。


「うん。ディアって香水つけてないだろ?」

「うん」

「髪を洗う時もシャンプーは使っていない」

「とーぜん」

「身体を洗う時も石鹸で洗ってはいない」

「そらそうよ」


 この会話の時点で、既についてこれない人間も多かったのだが。そもそもウェインはそういう、自分が他人からどう見られるか……のようなことはあまり説明しない。

 これは面倒だから……と言う理由なだけなので、もちろん聞かれればすぐに答えるのだけれども。

 但しそんなスタンスでは当然、時々誤解される。当たり前である。

 ウェインは続ける。

「でもディアの『そう言うの』ってさ。当然、レーンだって同じはずなんだ」

「そりゃ当然でしょ」

「なのにさ。レーンとディアとで違う」

「……何が?」

「レーンよりもディアは、なんか時々、少し『違う』」

「……何が?」

「いや、わかんないから、アリス隊の制服の匂いを……!」

「それアプローチ間違ってない!? 大丈夫なん!?」

「だってサラッと文献とか魔導書を調べたけど、あまり記述がなくて」


 エルは少し肯いていた。白魔法の分野で少し調べたが、そもそも『まず匂いを嗅ぎます』で始まる魔導書なんて思い浮かばなかった経緯はある。

 一応、そのエルも頑張ってウェインを弁護する。

「あの、その、ウェインにも色々と……」

 だがアルテナ大尉はオロオロしている。

「ま、まあ、そちらにも事情があるかとは思いますし。客室の手配はさせます」

 ウェインは肯いた。

「ありがとうございます。あとアリス隊の戦闘服の件、よろしくお願いします」

 エルはビックリしている。

「うぇ、ウェイン! 今、押し通すの!? 流石にそんな、ちょっと無茶な……!」



 そんなことを話していると、アリス隊の基地の入り口付近から声がかかった。

 見ると一人のアリス隊の女性隊員が軽く手を振っている。

「ミュール中尉、ウチ宛てで荷物が届いています。受け取りの確認をお願いします」

 そのミュール中尉は不思議そうに首を傾げた。軍の基地は荷物など事務方でのやり取りは多いだろうが、恐らく正面窓口への送付・郵送は少ないからだろう。

 そこでエミア少尉が自分の顔を指差す。

「ミュール中尉。私が確認して取りに行きます」

「わかったわエミア少尉。お願い」

 エミア少尉が、基地の入り口の方へと歩いて行き……。



 少し経ってから、戻ってきた。

 両腕に大きな宝箱を抱えている。

「ミュール中尉。宝箱が届きました。中身は『装備品』だそうです」

「ふーん……」

 ミュール中尉もアルテナ大尉も、そしてウェイン隊の皆も、ぼんやりした感じでエミア少尉が持っている宝箱を見ていた。

 今は少し離れたところにいるアリス隊の各員も、チラッと見ただけで、あまり気にしてはいないようだ。





 だが一人。アヤナだけが飛び跳ねるように驚愕していた。

 何故かは理由不明。





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