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ウェイン・アポカリプス  作者: 佐々木 英治
ウェイン・アポカリプス
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訓練中盤

 強化特訓も進み、日程を半ばまで消化していた。レーンは剣術の修行でどこかへ行くことが多くなり、代わって指揮を執るのがディアになった。自由参加のモニカは休まず熱心に出てきているし、ウェインも学院の仕事が終わったらすぐ集まっていた。

 この特訓(ディアが言うところの合宿)の最大の目標は、最低限の筋力と心肺機能の強化だ。自然と外周ランニングにが多くなると思われたが、ここ数日で事情が変わった。


 持久力強化はもういい線にまで来たと判断があったらしい。そして今度は短距離走の類が多くなってきた。エルたちは『正しい』走るフォームを教えこまれ、訓練場の外周ランニングも、ダッシュを混ぜたインターバル走のようなことが多くなった。

 ここでなかなか合格しないのが、エル(運動音痴)だ。二人が死力を尽くして訓練しているのは痛いほどわかるが、いかんせんもともとの体力が違い過ぎる。『瞬活』で一時的に戦闘力が高まったとしても、一週間ほどの訓練で一般平均水準まで持ってくるのはやはり無理がある。

「大丈夫ですか、エルさん?」

「はぁはぁ……大丈夫よ、モニカちゃん、まだやれる!」

 意外に走れるモニカだった。彼女は魔法学院に来る前は、陸上の中距離をやっていたのだ。

 少し考えると。

 ある程度の速さである程度の長さを走る能力にかけては、モニカはこの中でも最高なのではなかろうか、と。

 ともあれ訓練の一日の開始と最後の一時間くらいはレーンが戻ってきてディアと打ち合わせ。ディアはディアでランニングはあまりしなくなったが、模擬戦では『瞬活』を意識して戦っているようでラクになった様子はない。

「ふー、これ色々大変だわ」

 訓練は単調だった。ウェインも走っては、ディアと打ち合い。外周ランニングをしては、インターバル走で走る。そしてディアと打ち合う、その繰り返し。

 そもそもが白兵戦の技術を高めることが目的ではない。地味なことはしょうがないだろう。

 だがその地味でツラい訓練(終了時の肉を食べにいくことも含む)は、一人も脱落者を出さずに進んでいた。


 とある訓練の終わりの時間。レーンがやって来て言った。

「なあウェイン、瞬活の『ホワイトフィールド』に随分慣れたそうじゃないか」

 ディアもポニーテールをコクコクさせている。

「そうよレーン。ウェインは『ホワイトフィールド』だけなら、私より巧いわ。接続時間はまだ短いけど、だんだんと伸びて行ってるし」

 ディアの返しに、ウェインは言った。

「訓練の賜物だよ。アレがあるとイザというときに飛びのいて初球魔法の連打に移りやすくもなるから、ちょっと練習しとこうかと思ってさ」

 エル、アヤナ、モニカは練習が終わって地面で荒い呼吸をしている。

 レーンは言った。

「そうだな……ウェインに教えておきたい剣の技術がある。どうだ?」

「俺でできるのか?」

「まあ多分。緩急をつけたくなった時に使う技だ」

 ディアが言う。

「何を教えるの?」

「『スイッチ』だ」

「『スイッチ』!? ウェインに? まだ早くない?」

「こういう使い方もあると知っておかなければ、技を研ぐこともできないだろうから。さあウェイン。俺が打ち込むから、ウェインは『ホワイトフィールド』を使ってこの技を体感してくれ」

 なにやらよくわからないが、新しい技術を教えてくれるというのだ。魔法学院の女性陣に比べれば体力が余っているウェインは、肯いて竹刀を構えた。


 レーンは無造作に立った状態だ。

「本来この技は初太刀やアクセントで使うから、あまり構えないことが多いんだが。今回はわかりやすく構えるぞ」

 レーンは右手右足を前に、竹刀を上段に構えた。あそこからなら、突きはない。上方から振り下ろされる三方向からの警戒が最も重要になる。

 レーンは遠い間合いから、言った。

「行くぞ」

「おう」

 ウェインは瞬活の『ホワイトフィールド』を使った。時間の流れがゆっくりに感じる。相手の動きがよく見え、未来予測が立てやすくなる。次第に視界の色は消え失せ、白い世界の中でレーン本人に集中していく。

 レーンが前方へダッシュした。まだ遠い距離だ。この次のアクションが大事だと思った。

 だが『その次』のレーンのアクションは、見たこともないものだった。

 一般的に、楯を持たず右手で剣を持つものは、右手右足から前進してくる。

 突くにしろ斬るにしろ、それが自然でやりやすいからだ。。

 しかし。

 レーンが次に出してきたのは、若干遠い間合いからの『左足』だった。半歩・半歩で来るところを、左足の一歩で間合いを縮めた。

 間合いに関してはそれだけではなかった。

 右手で振るうはずの竹刀。それが、レーンは右手で鍔元ではなく左手で柄頭を握っていたのだ。足捌きと組み合わせて、最長の間合い。

 レーンは左手一本で、僅かに横姿勢になりながら竹刀を振るってくる。突然の間合いの変化にウェインは闇雲に竹刀でガードし……


 ……。


 レーンの竹刀はウェインの竹刀のガードをかいくぐり、ウェインの首元に触っていた。

「こ、これは……」

「とある流派の技の一つで『スイッチ』と呼ばれている。右手右足を前にして半歩半歩距離を縮めるところを、左足で踏み込むことで急激に間合いを詰める。剣の持ち手も、柄頭を左手一本にすることによってリーチも伸びる。正確さが失われるのは致し方ない欠点だ。主に上段からやるのがラクだが、原理さえ覚えればどこからでも出せる。なんなら『突き』でもいいし」

「『ホワイトフィールド』を使っていながら、躱せないどころか何も対応できなかった……」

「この『スイッチ』、お前にやる。と言うか幾つかの流派の技の中にあったので大したものじゃないかもしれんが。初太刀か、打ち合いの流れの中でやるのが一番いいと思う。ただコレの問題は片手で剣を制御することで、遠心力を使えばラクだがやはり大雑把になりやすい」

 ウェインは肯いた。

「ありがとう。独自で練習してく。念のため『スイッチ』のイメージをもらいたい」

「んー。体格差、筋肉量、使用武器が全然違うから。俺の意識じゃ伝わらないと思う。と言うわけでディア?」

 ディアはぴょこんと跳ねた。

「はいはーい。任せて」

 ディアは目を閉じて呪文を詠唱し、手の間に光り輝く球体を出した。


 これが『イメージ』。


 ディアがこの技を使う時に、どういう姿勢で、どんな形で、どういうコツで扱うかを表現し……記録したモノ。

 ディアと体格や身長体重が似通っているウェインなら、彼女の剣捌きはとても良いお手本になってくれるだろう。

 これがイメージの『共有』。

 誰かがやった体験を、誰かが追体験したり。

 誰かの記憶を、誰かが見たり。

 誰かの動きを、誰かが真似たり。


 そういう便利なモノ……むしろ画期的なモノを、レーンたちはどこからか持ってきて、伝えてくれたのだ。

 これは『瞬活データリンク』の技法、と呼ばれている。正式名称はまだついていないらしい。そしてこれは、レーンたちよりウェインのほうが長けていた。

 もともとが魔法の能力や、魔法の入出力を利用するためだ。


 ディアの『動き』。それを『彼女の主観』や『客観』で追体験してみて……ウェインは言った。


「なあディア」

「何?」

「なんか戦ってる時のお前の頭の中ってさ。『えーいどーりあーん!』とか『バントでホームラーン!』とかって響いてたんだけど。あれって何?」

 ディアは頭を抱えて苦悩している。

「ぅおおお!? データリンクって、そこまでわかっちゃうの!?」

「いや強烈な感情だったんで」


 レーンも驚いている。

「イメージの『共有』って、そんなにも緻密に……!?」

「多分、これ魔法の威力とイメージの入出力とかも必要になるけど。でも『瞬活データリンク』。これって、相当凄いかも知れない。一人の経験が全員の経験になるんだ。流石に入出力の時の魔力とか劣化とかあるから、完全に再現とは行かないだろうけど。でも凄い技法だと思う」

 ウェインはこの『瞬活データリンク』の技術を、アップグレードさせようと決めた。とても有用に思えたから。


 で、ディアはなんだか叫んでた。

「あーん! 俗物が私の中を覗いたよー! あああああ!」

「いやディア、そもそも俺にはお前のあの言葉の意味がよくわからないのだが。あとあの『イメージ』渡してきたのはそっちだし。そもそもイヤな部分はカットすりゃ……」

「あああああ! 裸を見られるより恥ずかしいよー!」


 なんだかとても可哀想だった。

 理由はよくわからないが。




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