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ウェイン・アポカリプス  作者: 佐々木 英治
ウェイン・アポカリプス
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フィジカルとテクニカル

 夕方も遅くなり、6人はディア行きつけの酒場に着いた。

「レーンもビール、一杯くらい行くでしょ?」

「俺はミルクで。ディアは飲みすぎるなよ。健康に悪い」

「へへ。マスター、ビール5つとミルクね」

 モニカが少しおどおどしている。

「気づけば私は毎回ビールになってるッスね」

 程なく、ビールとミルクが運ばれてくる。

「じゃ、かんぱーい」

 ディアは美味しそうに飲んでいる。レーンも健康のためにアルコールを避けているというだけで、ビール自体は好きな部類と言っていたが。

 今回はミルクのようだ。

 そして彼は何やら、ヘンな粉(?)をミルクに入れて溶いてかき混ぜている。

「レーン。それ何?」

「嬉しくなる系の薬物」

「麻薬!?」

「プロテイン」

「あぁ、そう……」


 一方のエルとアヤナ、モニカはビールに口をつけただけだ。

「おいおい、エル、アヤナ、モニカ。大丈夫か? 俺もこんな地獄は想像できるが……」

「大丈夫……一人前になるんだもん、頑張る!」

 エルは強い瞳で言った。医師を宿した碧眼が素敵だ。アヤナも弱気にはなっていない。

「今日こそ、あのステーキ食べきってみせるわ……!」

 ウェインは指をくるくるさせた。

「明日から俺も訓練参加するから、一緒に頑張ろうな」

「へ? ウェインも外周走るの?」

「え? さぁ? 俺も体力や筋肉もあるほうだけど、あくまで魔法使い一般水準と比べて、だから。軍人とかには劣ると思うし。身体を鍛えなきゃいけないのは、体術を学んでから痛いほど理解してるよ」

 モニカは嬉しそうだ。

「ウェインさんも一緒なら、きっと私、頑張れますよー」

 エルはクスクス笑う。

「ふふっ、モニカちゃんてば」

 注文した肉料理が運ばれてきた。

 食欲があるのはレーンとディア、ウェインだけで。エルとアヤナ、モニカはうんざりした顔だ。

 無理もない。激しい運動の直後に食事は摂りたくないものなのだ。逆に吐き気すらする。だがエルもアヤナもモニカも頑張って肉料理を口に運んでいる。

 レーンが言った。

「なあみんな。今日、エルの『瞬活』をウェインに見せられたし、俺は明日から別行動を取らせてもらおうと思う。無論、様子は見に来る。俺の役割はディアに引き継ぐ」

「おぉ。それじゃあ私は、もう外周走らなくていいんだ。やったー!」

「ディアも暇を見ては走っとけよ。あと『瞬活』を長く維持しながら剣術訓練だ。俺は何かカネになりそうな情報を探し、後は俺の訓練に時間を割こうと思っている。できればこの訓練が終了して一休みしたら、報酬の出る仕事をしたいから」

「『悪夢の草原』じゃ報酬出ないもんね」


 ウェインは同意した。

「俺達は実家なり魔法学院の寮があるからいいけど、レーンたちは借家で家賃もバカにならないだろ。早めに出るのはいいと思う。ただ初の連携にもなるから、あまり厳しいのはパスしてほしいところ。死人どころか怪我人すら出したくないのが本音だ」

 まるっきり怪我もしないでとは無理だろうが、それくらいの安全性を求めていた。魔法学院の就職課なら色々仕事はあるはずだ。何かの運搬や護衛、探索など。

 一方で、安全性から程遠い『見たことがない世界』もあるだろう……そしてそれこそがウェインの求める『モノ』であることも確実だった。

 今日は模擬戦しかしていなくて、普通に食欲があるウェインは出された肉料理を片付けた。ビールも飲み、後はサラダを食べ始める。

「なあレーン。俺ってもうちょっと増量したほうがいい?」

「そう聞かれると筋肉的な答えを返したくなるな。あ、食事はサラダから食べたほうが血糖値にいいらしいぞ」

「お前、意識高いのな」

「ともあれ……んっと、ウェインの身長と体重は?」

「身長は172か3。体重は59kgだったなぁ」

「もう少し体重が欲しいな。まず体重は60kgを目指しとけばいい。何かの武術大会でも男子軽量級はだいたい60kgだし。60kgの体重って……身長160ちょいとかが多い階級だぞ?」

「じゃあそれを目指すよ。ところでレーンの身長と体重は?」

「身長195cm、体重105kg」

「体重、俺の倍近いな……いつでもラグビーに転向できるぞ」

「フィジカルは親から貰った素質の一つだと思ってる。おかげで技術を使わずラクに勝てることが多いんだが……俺も成長期が過ぎたとは言え、背ももう少しは伸びるだろう。ようやく骨格が固まるから、今後は本格的に筋肉をつけていく予定」

「まだ筋肉つけるのかよ」

「筋トレとかの筋肉じゃない、実用的な筋肉をな。俺も来年で20歳になる。全盛期を25歳と考え、その時には110から120kgまで筋肉と脂肪を増やしておいたほうが、より強力になるね」

 2メートル近い身長に、体重110kg。これは『個』としての人間の戦闘力の理想に近いのではないだろうか。


 この背の高さ、筋肉のつきかただって、レーンが言ったように生まれ持った『素質』の一つだ。ウェインには生涯、到達できない地点。ウェインが魔法の素質に恵まれていたように、レーンはその肉体を神から与えられたのだ。

 レーンは言った。

「そうだウェイン。明日からの特訓で、ウェインにメニューを追加しよう」

「何?」

「ウェインはサーベルからショートソードに転向しただろ? だったら『居合い』もやってみてはどうかと。ディアがある程度知ってるから、触りだけ教えてもらってくれ」

 居合い術は奥が深いと聞いていたが、ただ単純に速く剣を抜くってだけでも十分なアドバンテージになる。要するにないよりはあったほうがいい技術だ。

「わかった。役立ちそうだもんな。んじゃ、俺は逆にレーンやディアたちに……ゆくゆくは高速詠唱法を教えたいんだが、今はまだその段階じゃない。まずは常時パリィできるような訓練や、調律や錬成を鍛えてくれ」

「わかった」

「で、レーンは明日以降、何を学びに行くんだ?」

 レーンは頭を掻いた。

「とりあえずラクス最強の看板が出てる剣道場。俺はフィジカル頼りで勝っちゃうことが多いから、まだまだテクニカルな部分は吸収して行かなければならない。得たものがあれば瞬活データリンクでディアにイメージ共有する」


 と、そこで、皿の上の肉をナイフで突いていたモニカが声を上げた。

「瞬活データリンクのことなんスけど。アレはイメージの書き出しには当人の魔力・魔法依存だし、読み込みには眠った際の夢を使うんで、不安定なんスよ。ウェインさんくらいなら直接イメージを読めるんでしょうけど、ニッチな分野だから魔法使いでもそれなりに訓練が必要で」

「うん。問題点なんだよな」

「私、ウェインさんたちが出て行ってる時に研究してみますよ。夢の魔法や幻覚、イメージの魔法なんかの専門家に聞いてみて、魔力さえ流し込めばイメージの書き出しも読み込みもある程度……少なくとも今よりは上のレベルでできるような機材を特注で作れるかどうか」

 ウェインは言った。

「それは実現できそうなのか?」

「わかりませんけど、今の運用の形よりはよくなるはずです。私、今、学院で夢や記憶の魔法や幻覚魔法の講義受けてるんですけど、多分できそうなんスよね」

「あ、聞いたことあるな。実現すれば、一人が行ったバカンスのイメージを他の人が共有できるとか」

「それそれ、それですよ。まあ完全に再現できるような安価なものは今日に至るまで作成できていないわけで、そこは技術的限界点があるはずですけど、似たようなモノなら」

「いいね。完成したら、パーティの共有財産でそれを買うことにしよう。むしろ『スタイナー流』こそがそれを欲しくてたまらないものじゃないか?」

 ディアが何度も肯いた。

「うん。あったらめっちゃ便利。後はお値段との勝負になるけど」


 その反応を見て、ウェインは決めた。

「モニカ。今の話は頼む。もし無理な場合でも、アイデアだけでも調べておいてほしい。俺の名前を使っていいから」

 モニカは嬉しそうに親指を立てた。

「了解ッス」



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