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ウェイン・アポカリプス  作者: 佐々木 英治
ウェイン・アポカリプス
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お酒は身体に悪い

 魔法学院を出て少し歩くと『お祭りエリア』に入る。三本の大通りのうち一本。屋台が沢山だ。

 夕食の時間がこれからなので、だんだんと混雑してくる。

 ウェインは軽く言う。

「屋台だからお酒の種類が少ないのが難点なんだよな」

 ディアは相変わらず気分が良さそうだ。と言うか彼女はいつでもこんな感じの人っぽい。

「ビールあればそれでいいわよ。あっ、あそこの屋台にしようよ。6人席開いてるし」

 ビール6杯と(エルは当初ミルクにしようとしていた)、適当に料理を注文する。

「あれ? 私、お酒飲んでいいんスか?」

 ディアがそっと人差し指を口に立てる。

「モニカちゃん。ちょっと承るとね、バレなきゃ犯罪じゃねーんだぜ」

 よくわからないが、運ばれてきたビールを片手に上げ、皆で声を上げた。


「じゃ、かんぱーい」

 周囲では大道芸などがまだ続いており、それに歓声を飛ばす者もいる。それに負けじと自然と、ウェインたちの会話も声が大きくなる。

「いやー、ウェイン。ラクスは相変わらずいい街だね」

「ディア。そう言えばお前だけ最初にラクスの下見に来てたのか? ほら、ボクシングの時になんでもありの模擬戦やった……」

「そ。文化的、安全的、金銭的に長く住めるかどうか調べにね。金銭的にはちょっと……な気もするけど。でもどれも私達の祖国じゃもう叶わないことだから……まず出稼ぎのていでラクスに来たわ。冒険者としてパーティ組むのに、魔法使いの質はいいだろうし、できれば永住権も欲しいくらいね」

「冒険者か……ラクスにもギルドがあるが、正直、冒険者業は厳しいらしいぞ」

「え? そうなの?」

「ギルドよりも魔法学院の就職課への依頼が多いんだよ。いい依頼は魔法学院、よくないのが冒険者ギルドって感じだと聞く。まあ俺もよくわからんが。行ったことないし」


 レーンが言った。

「とりあえず今はお金には困ってない。今まで貯金もしてきたし、前の戦いでウェインを倒したんで金一封が出たしな。冒険者ギルドで上を目指すか、魔法学院の一部履修生に入学してもいいだろうと思っている」

 一部履修生……『卒業』はできないが、単位を取るまでは魔法学院生とほぼ同等の待遇で、学院施設の大部分をそれで扱える身分になれる。

「一部履修生になるにはカネがかかるが、慣れるまではどっちに登録してもいいかもしれないな」

 運ばれてきた料理は、だいたいが味付けが濃いめ。熱くて美味しい。

 肉料理を食べながら、ウェインは訊ねた。

「なあレーン。今日はあのバスタードソード持ってないみたいだけど」

「ん? ああ。メンテ中だ。無茶な使い方するから、魔法でメンテしないと折れたり壊れたりする可能性がある」

「ふむ。で、あれに斬られてから考えてみたんだけど……あのバスタードソード、ユニバーサル規格と少し違うだろ」


 レーンは少し笑みを浮かべながら、肯いた。

「よく気づいたな。ユニバーサル規格より、ほんの少し長い。ほんの少しなんだけどな。ただ俺の身長と手足の長さとあいまって、リーチが長く相手は読みにくいらしい」

「魔法の剣?」

「少しだけな。『硬質化』の魔法がかかっているぶん頑丈だ。カスタムメイド」

 この手の、武具や道具に魔法をかけるというのはラクスでは珍しくない。と言うのも、各種アイテムに魔法をかけて錬成していくことを商売にしている魔法使いが多いのだ。ラクスは出来上がったそれを輸出して外貨を稼いでいる。

 財布に余裕があれば、自分の武具に、より強い魔法を封じ込める人も多い。


 レーンは続ける。

「俺の剣はウェインのサーベルを折った時のように、貧弱な武器なら武器ごと破壊するよう設計されている。実戦で俺の太刀筋が読まれても、受け止めた剣ごと相手を叩き潰す。遠心力を使って大振りになる必要はあるけれど」

「なるほど。じゃあレーンは普段の戦闘で、楯と鎧は? この前は革鎧だけだったが」

「楯はよほど乱戦が予想される時でない限り使わない。バスタードソードの攻撃力を上げるために、剣を両手で持ったほうが強いからな。鎧も革鎧さ。動きやすさを重視している。こちらは何も魔法がかかっていないが、それは単純にカネが足りないから」

「戦士なんて聞くと楯と鎧が頭に浮かぶが、レーンは軽戦士か」

「ああ。高速戦闘で、自分に有利な位置取りをする。相手の攻撃は回避する。あのバスタードソードがあるから、重戦士でも倒すことができる」


 ディアが声を上げる。

「レーンと私はコンビなの。レーンがバスタードソードで突破して、私が近くから魔法で援護する。私のショートソードの腕やスピードはレーンに敵わないけど、代わりに私には魔法の力が少しだけあったし、訓練したから初級魔法なら大半が使えるわ。まあまあの威力で、わりと遠くまで届くし。中級以上は私じゃ無理だけどね」

 ウェインは聞いてみた。

「魔法の適性と言えば、レーンも魔法パリィで俺の魔法を弾いていたじゃないか。レーンにも魔力はあるんだろう?」

 レーンは肯く。

「少しだけな。白魔法は気休め程度だが、初級の黒魔法なら少し扱える。ディアより劣るけどね。ただ、将来はウェインがやっていたように高速詠唱法を身に着けて初級魔法の『連打』ができるレベルになりたいかな」


 レーンはビールを飲み干すと、追加で注文した。今度はミルクを注文した。

「まあ、俺達のことはこれくらいでいいだろう。そういうウェインは、普通の戦闘スタイル以外にどれだけ引き出しを持っているんだ? ディアから聞いて、だいたいは知ってはいるが」

 ウェインは肯いた。

「俺も白魔法の適性は低くて、そっちは初級程度だなぁ」

 拡張詠唱法や魔法陣を使うならばウェインも白魔法をまあまあ扱えるが、それくらいの使い手はラクスにはゴロゴロいる。

「逆に黒魔法はほぼ全てを上級で扱えて、その上の最上級魔法も幾つか使えるが……まあ機会がない」


「体術は?」

「昔からフェンシングをやっていて腕はそこそこあるが、今はショートソードに転向中だ。体力や体術は素人に毛が生えた程度のレベルだが、一般の魔法使いの水準と比べるとかなり高いと思う。打撃は少し。レスリングは学校の授業でもやってきたが、タックルとタックル切りは少しできる。ただレスリングには絞め技と関節技がなかったから、今は柔術にシフトしている」

「ほぅ。柔術と言うと投げ技もできるのかい?」

「うん。スポーツ柔道で習った。素人相手にならじゅうぶん決まるが、黒帯には手こずると思う」

 スポーツ柔道とは、各種柔術をひとまとめにし、そこから危険な技を除いたスポーツである。当身や蹴りの禁止、膝などの足関節の禁止などのルールのため実戦でそのままは使えないが、護身用としては最も優れたスポーツの一種。各種学校の体育にも採用されていることがある。


 レーンがサラダを食べながら言ってくる。

「ディアから少し話があったかもしれんが、俺は剣や体術を教えることができる。なにせこれから『スタイナー流殺法』を完成させ世間に広めようとしているんだからな。まあ、まだ門下生はディアだけで合計二人の弱小流派だが」

「少し聞いたよ」

「そこで提案だ。俺たちが剣や体術を教える代わりに、ウェインは俺たちに魔法のことを教えて欲しい。『スタイナー流』は『なんでもアリ』に、他の武術の良いとこ取りをした流派だ。それは魔法も例外ではない。だが現状、俺達は魔法に疎いから……」

 ウェインはビールを追加注文した。答えはもう出ている。

「いいよ。ディアと初めて会って模擬戦をした時から、考えていたんだ」


「そうか! 嬉しいよ」

 レーンは素敵に笑った。これは女性なら魅了されてもおかしくない笑顔だ。

「なあレーン。ということは俺も『スタイナー流』ってことでいいのか?」

「まあ、そうなるな。嫌なら名乗らなければいいけど」

「いや『スタイナー流』は、世間の魔法使いたちに取っても良いモノだと思う。一般に魔法使いがやられるのって、魔法の制し合いではなく矢で狙撃されるか白兵戦に巻き込まれての割合が高いんだよ。『スタイナー流』が完成して普及すれば、ラクスの魔法使いたちのレベルはさらに高くなると思う」

 ディアがビールを飲みながら言った。

「じゃあさレーン、ウェインに何かスタイナー流の役職あげる? タダだし」

「一度手合わせしてからな。魔法も含めたなんでもアリでどうなるか、俺も楽しみだ」

 背が高く、筋肉がついた大柄な男。先の戦いでもローキックを受けたが、このレーンのローキックをカットするのはウェインには厳しいだろう。もし試合をしたならば、恐らくウェインの距離から初級魔法の連打になると思われる。


 レーンがミルクに口をつけていると、ディアが言う。

「そう言えば、レーンがビール飲んだのって珍しいね」

「今日ぐらいはいいだろう」


 ウェインは少し聞いてみた。

「なんだなんだ? 酒、弱いのか?」

 ディアはニヤニヤ笑う。

「レーンは筋肉・健康オタクだからね。健康に悪いからお酒は普段あまり飲まないの」

「ふーん。よくわからんが、健康にいい趣味ならいいことじゃないか」

「まあそうね」

 気がつけば魔法学院組の女性陣を放ったままで、レーンやディアと話し込んでいるウェインだった。



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