#15 テイクアウト
あれは、どう見てもミイラだ。ひと目見て、僕はそう悟った。
いわゆる即身仏というやつだ。修行と称し、飲まず食わずで座り続けた結果、そのまま絶命して崇拝の対象にされてしまったというあれだ。だが驚いたことに、このミイラは生きている。
何ゆえ、ゾンビとしてここまで生きながらえてしまったのか。いや、そもそもこのゾンビは安全なのか?先日の暴走ゾンビのように、突然暴れだすなんてことはないだろうな。
だがとてもじゃないが、動けるようには見えない。干からびた足は組まれたまま、もう何年も、いや何十年も動かした形跡がなさそう。腕と顔だけが、かろうじて動かせるようだ。
僕は思い切って、このミイラに尋ねてみる。
「あの……」
「何だ?」
「あなたが370年前からここに住むという、聖人様ですか?」
「370年かは知らぬ……だが、古よりここにいて信徒らが現れるのを、この場にてただ待っておる……」
どうやら暴走ゾンビではなく、理性はあるようだ。だが、見た目は人型の干からびた何か。そんなものが、意思を持って我々に語りかけてくる。およそ人とは思えないこの不気味な存在に、暴走ゾンビ以上の恐怖を感じる。
「聖人様。我々はあなた様にお願いしたいことがありまして、こうして罷り越しました。」
「……願いじゃと?」
カチェリーナが頭を下げ、この聖人に用件を述べる。聖人は、我々のこの目的が意外だったのか、やや口調が変わり、こちらを睨むように凝視する。このタイミングで、カチェリーナは僕を突いてくる。つまり、その用件とやらをこの聖人に説明しろ、と目で訴えてくる。
しかし、相手はただの干からびたミイラながら、その圧迫感は半端ではない。やはりこの地に370年も居座り続けた奇跡の存在だけのことはある。カチェリーナが僕に、会えばわかると言っていたのは、こういうことか。
「あ、あのですね……実は我々は、ゾンビについての研究をしておりまして、あなた様を調べさせていただきたくて……」
「なんじゃと!?わしを、調べるじゃと!?」
急に口調がきつくなってきた。うう、カチェリーナよ、何ゆえ僕にここで振るのか。サンドラ准尉も傍にいるだけで、何も話そうとしない。おい、サンドラ准尉よ。お前、コミュ力の高さが売りじゃなかったのか?
「は、はい、あなた様のその長寿の理由を知りたくてですね、その、可能であれば、帝都のそばにある我々の施設にお越し願いたい、と思ってまして……」
僕が何気なく出したこの提案に、カチェリーナが食いついてきた。
「馬鹿か、ルイス!聖人様に、帝都まで来いと申すか!?」
すごい形相で怒るカチェリーナ。僕は慌てて応える。
「あ、いや、絶対というわけじゃないよ?でも、あちらの設備を使えば、いろいろと調べられるんじゃないかと……」
「それが馬鹿だと言っている!聖人スピリドン様はこの地にて修行され、そのまま不死の身体を手に入れた後も、ずっと帝国の安穏を祈り続けておられるお方だぞ!それをまるで、置物の偶像でも持ち帰って調べるが如く申し上げるとは、なんと罰当たりなことを……」
ああ、そういえばこの方、ゾンビ以前に崇拝対象だった。カチェリーナが怒るのも無理はない。だがこれを聞いた聖人様が、僕に尋ねる。
「その話、本当か!?」
……あーあ、聖人様まで怒っちゃったよ。しまったな、これじゃ目的が果たせそうにない。どうしようか。
と思っていたら、聖人様からは意外な返事が返ってくる。
「おい!なら今すぐ、わしを連れて行かんかね!?」
「は?」
なんだ?急に口調が変わったぞ。心なしか、聖人様の目が輝いているように見える。
「……あの、聖人様。あなた様はこの地にて、帝国の安穏を祈られている身では……」
「なに言うとるだがね、そんなわけにゃーでよ!どえりゃあ退屈なこんな小屋に、なんでいつまでもおらにゃあかんのか!?」
カチェリーナのこの言葉に反論する聖人様。それにしてもこの聖人様、さっきと口調が変わっていないか?
「あ、あの……」
「なんやね!」
「聖人様はもしかして、この小屋……じゃない、教会の外に出たいとお考えなのでございますか?」
「当たり前だがね!なんもないところにじーっと座っとるだけなんて、耐えられるわけにゃあでねえか!」
「で、ではなぜ、ここに止まっておられるのですか?」
「決まっとるがね!わしがどんだけ頼んでも、聖人様はここにおられるのがよろしいのでは、などと言って、だあれも相手してくれぇせんのよ!しゃあないからわしは、ここにくる連中の相手に説法めいたことを説き続けるしかないんだがね!」
この辺りですでに僕は、さっきまでの威圧感というか恐怖心というか、そういうものをこの聖人様から感じなくなってしまった。ここにいるのは長い年月をかけてミイラになってしまっただけの、ただのおっさんにしか見えない。
「ほんだけどおみゃーさんら、どうやってわしを帝都まで連れて行くんだか?」
「ええ、哨戒機があるので、それに乗せて行きます。」
「しょうかいき?なんねそれ、馬車かなんかか?」
「いえ、空を飛ぶ乗り物でして……」
「はあ!?空を飛ぶ!?何たぁけたことを言っとるがね!そんなもん、あらすかね!」
「いや、本当に飛ぶんですよ!乗ればわかりますって!」
370年もこんなボロ小屋に暮らし続けていれば、当然、航空機など知る由もないか。カチェリーナでさえ、航空機という存在を知ったのはつい1年前のことだし。
まあ、とにかくだ。僕が発した一言がきっかけで、この干からびたゾンビを帝都宇宙港まで連れて行く羽目になった。問題はどうやって哨戒機まで運ぶかだが、それは僕とサンドラ准尉、そしてカチェリーナの3人で持ち上げて運び出すことになった。
「うへぇ……こんなホコリだらけの干物を運び出すことになるなんて……」
ようやく、自称コミュ力高めのサンドラ准尉が口を開いた。が、聖人様に対して随分と失礼な物言いだな。だがこの聖人様は、そんなサンドラ准尉に応える。
「しゃあないやろ、何百年もこんな高山に住んどりゃあ、こうなってまうて。にしてもおみゃーさん、でらぁべっぴんやな。わしの時代に生きとったら、モテモテやったやろうねぇ。」
「えっ!?ほんと!?私がべっぴん!?それって、美人ってこと!?いやあ、それほどでもないけどねぇ!」
さっきまで干物呼ばわりしてた人物からおだてられるや、急に態度を変えたサンドラ准尉。にしてもだ、この聖人、よく「モテモテ」などという言葉を知っているな。本当にこいつ、370年も生きているのか?
いや、そんなことよりも、いくら僕が言い出したこととは言え、この干物……じゃない、聖人様をすぐに連れ帰る羽目になるとは想定外の事態だ。早速、司令部や医師会に打診し、指示を仰ぐ必要がある。
哨戒機にたどり着くと、ブルーノ少尉が驚いた顔で出迎える。
「あの、中尉殿。これは一体……なんです?」
「ああ、こちらはあの教会に、長年住み続けたという聖人様だ。」
「えっ!?これ、生きてるんですか!?」
「何言うとるだかね!ほれこの通り、ピンピンしとるわ!」
どう見てもミイラにしか見えない聖人様が口を開き、手を振り上げながら抗議するものだから、その異様な光景に驚愕するブルーノ少尉。山中で発見された遺体が、急に口を開いたらそりゃあ誰だって驚くだろう。僕もついさっき、この人物に圧迫感のようなものを感じていたわけだし。
さて、機内に連れ込んだのはいいが、司令部に許可をもらわなくてはならない。しかも、あちらの医師会にも受け入れ態勢を整えてもらわないとダメだろう。どうしたものか?
まあ、あれこれ考えても仕方がない。僕は無線機を取り、司令部を呼び出す。
「6636号艦1番機より司令部、こちらルイス中尉。聖人様と称する長寿命ゾンビと接触、帝都への移動を希望している。指示を乞う。」
あえて経緯などを伝えず、こちらの状況をストレートに伝えてみた。当然、向こう側は想定内の返信を送ってくる。
『6636号艦1番機、この件、上層部に確認する。しばらく待機せよ。』
急に370年前のゾンビを連れて行くと言われては、さすがに通信士だけでは手に追える話ではない。無線は切れ、しばらくの間、沈黙が続く。
「何やおみゃあさん、今誰と喋っとったんかね?」
「ああ、帝都司令部の通信士ですよ。」
「は?帝都?なんでここで、帝都のもんと喋れるんだかね?」
「ええと、これは無線機と言ってですね……」
無線機というものの存在を知らない時代から生きて、時代に取り残された人物だ。僕が何をしているのか、分かるはずもないだろう。僕はいちいち説明に追われる。
幸か不幸か、司令部の方からなかなか返答が来ない。まさか当該ゾンビをお持ち帰りすることになるなど、あちらも想定外のことだ。きっと今頃、司令部ではちょっとした騒ぎになっているのではないか。おかげで、このミイラ……ではなく、聖人様にいろいろ説明する時間がいやというほどできてしまった。
「……ちゅうことはなんや、おみゃーさんら、星の彼方にある遠くの国から来た言うんかね?」
「ええ、そういうことです。」
「そういやあ最近、帝国を巡って大きな戦さが行われとるゆうのは聞いとったが、他の星のもんが来とるゆうのは知らにゃあでよ。」
「あの、そういう話は誰も教えてはくれなかったのですか?」
「いや、なんや大戦ゆうのが始まってからしばらく、誰も来てくれんかったんよ。おみゃーさんらが、どえりゃあやっとかめなお客だったんだがね。」
「はあ、そ、そうでしたか……」
「にしてもこれ、ほんとに飛ぶんだか?なんや重そうな小屋にしか見えんぎゃあな……」
するとサンドラ准尉が首を突っ込んでくる。
「いえいえ、大丈夫ですよ。現に私達もここまで飛んできたんですから。聖人様のように干からびてれば、軽々と持ってってくれますよ。」
「なんやべっぴんさんよ、さっきから正直過ぎんじゃにゃあか?……まあ、今までわしのこと聖人呼ばわりしとった連中に比べりゃあ、おみゃーのような人の方が、喋りやすいんやけどな。」
「えへへ、そうですよね。何と言っても私、コミュ力には自信ありますから。」
サンドラ准尉のストレートな表現を食らっても、動じるどころか受け入れてしまう辺りは、やはり歳の功といったところか?それにしてもこのミイラはよく喋る。
「で、おみゃーさんは、何をやっとる人なんかね?」
「私は、駆逐艦6636号艦で……」
「くちくかん?なんやね、くちくかんって?」
「ああ、空に浮かぶ船ですよ。で、私は駆逐艦6636号艦で、主計科を担当してるんです。」
「へぇ、船まで空飛ぶんかね。そりゃあ面白そうやねぇ。そんでおみゃーさんみたいなべっぴんさんはどえりゃあおるんかねぇ?」
「いやあ、女の人は少ないですよ。だいたい駆逐艦なんてものに乗りたがる女の人なんて、ほとんどいませんからねぇ。」
今ごろになって、サンドラ准尉のコミュ力とやらが発揮されてきた。この干物……聖人様との話に盛り上がっている。
ところで、カチェリーナの方はといえば、窓の外を眺めながらぶつぶつと何かを呟いている。が、その表情を見れば、彼女の気持ちがなんとなく分かる。
「……まったく……私だって……」
そんなカチェリーナの肩をポンと叩き、そして手を握る。
「カチェリーナ。」
「なんだ、ルイス。」
「僕がいるじゃないか。」
「は?」
「いや、カチェリーナさ、多分サンドラ准尉に嫉妬してるんだろ?」
「はああぁ!?そ、そんなことはない!なぜ、私が嫉妬など……」
「僕はカチェリーナひと筋だから、むしろ聖人様に相手にされない方が嬉しいけどなぁ。」
「いや、おい、ルイス!ここは哨戒機の中……」
そのまま僕は、人目も気にせずカチェリーナを抱き寄せ、そしてその唇を奪おうと試みる。それを冷ややかな目で見るブルーノ少尉。だが、悪いことにこのタイミングで司令部から返信が来た。
『帝都司令部より6636号艦1番機。長寿命ゾンビの受け入れの許可が下りた。直ちに、帝都宇宙港に帰投せよ。』
「りょ、了解!これより帰投します!」
僕の腕の中で、真っ赤な顔でこちらを睨むように見つめるカチェリーナの顔を前に、僕はその無線に応える。あーあ、せっかくいいところだったのに……まあいいか、続きは帰ってからで。
ハッチを閉めて離陸し、高度3000メートルを飛行する哨戒機。窓の外に広がる上空からの景色に、聖人様はいたく感動している。宇宙港へ向かう間、我々のこと、特にサンドラ准尉をすっかり気に入ってしまった聖人様は、370年前に起きた出来事を淡々と語ってくれた。そう、彼がどのようにして、不死の身体を手に入れたのか、という話を。
彼の名は、スピリドン。元々はこのクリュシェカヤ山の麓にある街、クリュチェフで、帝都正教の牧師をしていた。
が、この牧師、話を聞く限りでは相当なプレイボーイだったようで、牧師のくせに何人もの女性と関係を持っていたらしい。しかし、よりにもよってこの牧師は、クリュチェフを治める男爵の第2夫人に手を出してしまった。それで彼はこの領主の怒りを買い、領主の放った数人の兵士に追われる身となり街の外へと逃げた。が、結局は兵士に追いつかれて斬り付けられ、クリュシェカヤ山の麓の道端で絶命する。
が、たまたまそこを通りかかった施術師が、彼に施術しゾンビとして蘇ることができた。ところがスピリドンはその施術師に、修行の途中で賊に襲われ絶命したなどと嘘を話す。そして、山中で最後の修行を全うしたいなどと言い残し、そのまま山を登り始めた。
クリュシェカヤ山の中腹まで登り、途中で見つけた山小屋に入ると、彼はそこで命尽きるのを待つことにした。思わず生き返ってしまったものの、せいぜい1週間程度の命。今さら街に戻っても、また殺されるだけ。それなら静かにここで死のう、と考えた。
が、どういうわけかいつまで経っても意識がなくならない。身体はみるみる乾燥し、手と首以外が動かなくなってもまだ死なない。そうこうしているうちに、あの施術師から噂を聞きつけた別の施術師や牧師らがこの山小屋を訪れ、そこで彼と対面、不死の身体を手に入れた奇跡の牧師として讃える。そしてそれから彼はこの370年もの間、「聖人様」としてクリュシェカヤ山のあの山小屋に留まり、説法を続けた……
いやあ、こいつ、どう考えても聖人ではないな。殺されたのも、山に籠もったのも、いわゆる自業自得ってやつじゃないか。そんなものを370年もの間、奇跡の聖人として崇拝し続けた帝都正教の人々も、この事実を知ったらがっかりだろうな。サンドラ准尉の口車にのせられて、ついつい昔話を暴露してしまったこの聖人……いや干物男の真実の話を、カチェリーナも呆れた顔で聞いている。
「……で、聖人様。帝都に行かれたら、どういたします?調査の後、教会にでも祀られますか?」
「いや、そりゃあ堪忍してほしいだらぁ。わしはさっさと死ぬ、死なせてもらうがね。はよこの命終わらせて、死後の世界に行きたいがね。」
随分と身勝手な物言いだ。運良く生き長らえておきながら、今さら死にたいだのとは……まあいい。我々がこいつの不死の身体の秘密を解き明かしたら、望み通りにしてやるだけだ。
さて、我々がこの聖人の正体を知り、呆れているうちに、哨戒機は帝都宇宙港上空に到着する。空から見た帝都にも感激する干物男だが、その脇にある我々の街を見て、さらに驚愕するこの干物聖人。
「なんじゃここは……どえりゃあ狭いところに、なんやとっきんときんの建物がでら並んどるがね。それに、ありゃあなんじゃね?氷の塊んみたいな建物まであるでにゃあか。どうなっとるだぁ、この街は?」
ところどころ、何を言っているのか分からないこの干物男を乗せた哨戒機は、この聖人が氷の塊と称したガラス張りの宇宙港ターミナルビルのすぐ脇の駐機スペースに着陸する。
外には、救急車が待機していた。その脇には、軍関係者と分かる人物が数人いる。この態勢から察するに、この場で軍が聖人様を見極めて、安全と確認され次第、その場で医師会に引き渡すつもりか?
まず、僕が哨戒機を降りる。僕の勲章を見たこの軍関係者数名が一斉に敬礼してきたため、僕も慌てて返礼する。そしてその中の一人が、僕に尋ねる。
「例のゾンビの引き取りに来ました。状態を確認したい。」
そうか、ここではまだ、あの暴走ゾンビの懸念が払拭されていないのか。まさか、エロじじいが干からびただけの存在だとは彼らはまだ知るまい。僕は応える。
「まずあのゾンビは、腰から下の部分、特に脚を動かすことができません。腕や首を動かせるのみ。しかし、精神状態は正常。今、サンドラ准尉と会話しております。」
と言いながらちらっと哨戒機の窓に目を移すと、そのゾンビは中でサンドラ准尉と楽しそうに語っている。どうやらサンドラ准尉がよほど気に入ったらしい。道徳的にどうかは置いておき、とりあえず人間的には理性状態が正常と言える。
それを聞いた彼らの内、2人が哨戒機の中に入る。腰に手を当てたまま、警戒しつつ奥に進む彼らだが、中で聖人と会話を始める。
と、よくみればすぐ脇にカチェリーナがいた。あまりにあのゾンビ に相手にされないので、拗ねているようだ。そんな彼女の不満げな顔も可愛い。
「まったく、あのような奴だとは思わなかったぞ!なんだって私は、わざわざあの時、巡礼に行ってしまったのだろうか……」
昔のことを悔やんでいる。哨戒機ではなく、徒歩であそこに向かえばそりゃ大変だったことだろう。しかし、崇拝していた相手が、なんとただのエロじじいだったとは……
そんなエロじじいだが、不死の身体を持っていることには変わりない。我々の関心はそいつの性格ではなく、その身体の状態だ。どうやったら理性を保ったまま、ゾンビを長生きさせることができるのか?その秘密を暴くためだけに、奴を連れてきたのだから。
しばらくすると、その干物……いや、スピリドンは医師会に引き渡され、救急車へとその身柄を移される。サンドラ准尉に手を振ると、救急車は近くの病院施設に向けて走り出す。
上機嫌なサンドラ准尉に対し、やや不満げなカチェリーナ。エロじじいにすら相手にされず、かなり苛立っているようだ。そんなカチェリーナに、僕は言った。
「カチェリーナ。」
「なんだ、ルイス。」
「家に帰ったらさ、僕と一緒に、のんびり過ごさないかい?」
「……分かった……」
なんだか今日のカチェリーナは、可愛いなぁ。いつになく素直だ。まさかとは思うが、もしかしてあの聖人、この状況を作り出すために敢えてカチェリーナの相手をしなかったのだろうか?だとしたら、相当な策士なのだが……いや、さすがにそれは考えすぎか。
だが、カチェリーナでも嫉妬することがあるのを知ったのは、僕にとっては大きな収穫だ。徐々にではあるが、感情表現が増えつつある。孤児と大戦の記憶が薄れて、彼女が人間味を取り戻しつつあるのを、僕は実感した。




