#10 魂からの告白
『あと1分で、砲撃訓練が始まる!各員、最終チェック!』
『砲撃管制室より艦橋、主砲、光学観測器、およびレーダーサイト正常!』
これから5日間、毎日ここで砲撃訓練が行われる。そしてその1日目の訓練が、まもなく始まろうとしている。
以前、ここで暮らしていた頃にも、砲撃訓練に付き合ったことがある。その時は天三星ではなく、小惑星帯だった。今回はわざわざ遠くの星域までやってきての訓練だ。
しかも、1万隻での大規模訓練。地球220の遠征艦隊ほぼ全軍が、ここに集結していることになる。
これは、連盟という敵対勢力に向けての牽制も兼ねていると、ルイスは言っていた。だから敵の哨戒艦も来ているであろうこの星域で、5日間ぶっ続けでこれ見よがしに大砲をぶっ放す。そういう訓練だ。
もちろん我が夫のルイスは今、砲撃管制室にいる。ただし今日は、砲撃訓練で砲撃手をしないと言っていた。
我が地球882の人材育成のため、砲撃手の候補生に撃たせることになっており、今回、ルイスはその指導役だ。今さらルイスが訓練したところで、あまり意味はない。
『砲撃訓練開始まで、あと20秒!』
最終日の訓練が終わると、この艦の母艦でもある戦艦ビーフジャーキーへの寄港が認められる。そこでまた私とルイスは、戦艦内部の街を巡ることになっている。
……にしてもだ、いつも思うのだが、あの母艦の名前は、本当に何とかならなかったのか。初めて聞いた時はてっきり冗談かと思ったが、本当に食べ物の名前をつけていた。
いや、この艦の母艦だけではない。地球220の遠征艦隊の戦艦の名前は皆、この調子だ。他にも、チーズバーガー、エッグベネディクト、スパイシードッグ、グリルロブスター……およそ、戦闘艦につける名前ではない。なんでも、180年以上前の艦隊創設時に付けられた艦名ということで、そのまま使われているそうだ。が、その由来については伝えられていないという。
『訓練、開始!撃ちーかた始め!!』
艦内放送で、艦長の声が響き渡る。するとキーンと言う甲高い音が数秒響き渡った後、大きな雷音のような音が鳴り響く。
ついに始まった。砲撃訓練だ。だが私はあの大戦で毎晩のように砲撃音を聞かされており、さらにこの駆逐艦暮らしをしていた頃にも数度、砲撃訓練を経験している。だから、砲撃音を聞いても気にならないと思っていた。が、久々に聞く砲撃音は、思ったよりも大きく、腹に響く。
私もすっかり、普通の人になってしまったのだな……いや、本来それが当たり前のことなのだが、砲撃音を聞くたびに、そのことを自覚せざるを得ない。私はベッドの上で布団を頭から被り、このけたたましい砲撃音を少しでも和らげようと試みる。
それにしてもこの音、大戦時の砲撃音ともよく似ているな。命の危険を感じない分マシだが、それでもあの戦場の記憶を否が応でも呼び覚ましてしまう。
そうだ。あの日の夜も、砲撃音が鳴り響いていたな。もうすっかり戦場に慣れ、夜な夜な鳴り響く砲撃音の下でも眠れるようになった頃、ある野戦病院から呼び出された、あの夜も……
◇◇◇◇
そう、あれは私が第3施術隊に配属されてから半年が経った頃のことだ。このころから帝国周辺の列強諸国も施術隊を組織し、我々の塹壕突破戦法に対抗し始めた頃だった。
そんなある夜のこと。私は女性隊員用のテントでまさに眠ろうとしていたときだった。この時の私は、オポーレスク攻略戦以降続く施術隊による塹壕戦での戦いぶりが評価されて、上等兵になったばかりの頃だ。
ある隊員が、私を呼び出す。テントの外に出ると、至急、野戦病院に向かって欲しいとのことだった。
「病院が私に、何の御用ですか?」
「ああ、ある兵士が死にかけているそうだ。それで、施術を頼みたい、と。」
「ですが、今は非戦闘時。施術して生き返らせたところで……」
「いや、通常の施術の依頼だ。別に生き返らせて、突撃させようなどとは思っておらんよ。」
医者でもあるその隊員は、私にそう告げる。それを聞いた私は早速、野戦病院へと向かう。
病院と言っても、大きなテントに衛生旗を掲げただけの簡易なものだった。そこには負傷した兵士達が多数運び込まれ、治療を受けている。
が、私が訪れた場所は、その中でも特に重症の兵士がいる場所だった。手足が吹き飛んだ者、全身に大火傷を負った者、すでに虫の息の者……私以外にも数人の施術師が、そこで施術のため待機していた。
前線で死んだ場合は、ゾンビ兵となって突撃せよと兵士達は厳命されているが、病院で死んだ場合については特に規定はない。このため多くの兵士達は、ゾンビ化を望まない。
こんなところで生き返らされたところで、直後に行われる突撃作戦に参加させられるだけからだ。それならいっそ、このまま静かにあの世に逝かせて欲しい……実際、私は何度も野戦病院にて兵士達に施術を行ってきたが、ほとんどの兵士は生き返りを拒む。
そんな事情を知ってか、野戦病院の医師達もゾンビ化した兵士達を匿うようになった。表向きは死亡と報告するが、しかし生き返った兵士達には家族に宛てた手紙を書く時間などを与え、本当の死が訪れるまで、上官からその存在を隠し続けた。
ルイスも非人道的だと表現した戦場でのゾンビ兵投入は、野戦病院で働く医師達にとっても許しがたい行為だと思われていた。だから彼らは半ば公然と、軍上層部に反目する行動に出ていたのだ。
野戦病院に向かう途中、遠くからドーン、ドーンという音が鳴り響く。そしてここから少し離れた塹壕付近に着弾し、赤い光を放つのが見える。
また始まった……隣国のカステルティドーネ王国軍の効力射だ。ゾンビによる夜襲を警戒して、ああやって毎晩のように防御砲撃を続ける。もちろん、塹壕に待機する兵士達の消耗も狙ってのことだ。生温い爆風が、ここまで達する。
そんな砲撃を横目に、野戦病院へと急ぐ。ドーン、ドーンと響く砲撃音を聞きながら、私は目的地に到着する。
中に入ると、血生臭い野戦病院独特の匂いがする。ここは重症患者ばかりが集められた場所。生きているのか、死んでいるのかわからない兵士達が十数人ほど、お世辞にも衛生的だとはいえないマットの上で寝かされている。
その中の一人、とある兵士の元に、私は連れて行かれた。その兵士は両足と左手がなく、顔面にひどい火傷を負っている。もう先が長くないことは、一目瞭然だ。
こう言っては何だが、この身体で生き返らされたところで、本人も困るのではないか?見たところ、目はもう失明しているようだ。自由が効くのは唯一右手だけだが、目が見えないのであれば、手紙すら書けない。
「先生!脈が……」
と、その時、傍にいる看護師が医師にその兵士の容体の急変を告げる。看護師に代わって、脈を取る医師。その兵士の右手の手首を握ると、その医師は力なくマットの上にその手を置く。
「ああ、もう死んでいる。」
一言そう告げると、医師は私の顔を見る。そこで私はその兵士の傍に行く。
「代わります。」
そして私は、医師が置いたその右手を握る。そして私は、施術を始めた……
◆◆◆◆
魂の宿り場にいる。だがそこは、妙に暗い。闇が深い場所と表現した方がいいだろうか。
それはそうだろう。この兵士は死の直前、目が見えなくなっていた。明るいはずがない。
だがその宿り場に、青白く光る魂が見える。私はその魂の元に向かう。
そこに立つ魂の姿は、手足が吹き飛ぶ前の無傷の頃の姿を保っている。凛々しい軍服姿の青年兵が、ボーッと宿り場の真ん中に立っている。
その青年兵に、私は声を掛ける。
「レオンチェヴィッチ一等兵!」
予め、私はこの兵士の名を聞かされていた。だから私はこの兵士に向かってその名を呼んだ。するとその兵士は、私の方を振り向く。
「……ああ、カチェリーナ上等兵じゃないですか。」
この戦場で何度か施術をしているが、いきなり私の名を呼ばれたのは初めてだ。
「なぜ、私の名を……」
「だってあなたは、第3施術隊唯一の華だ。名前を知る者も多い。」
そうなのか?だが、今まで戦場で、病院で、何人もの兵士達を施術してきたが、私の名前を知る者はいなかった。私の名前を知るものなど、本当に多いのか?
いや、今はそんなことはどうでもいい。一応、この兵士に意思を確認しておこう。私はレオンチェヴィッチ一等兵に尋ねる。
「知っての通り、私は施術師だ。あなたは今、野戦病院で死を迎えた。だが今なら、あなたをゾンビ化して生き返らせることができる。あなたの意思を、確認したい。」
するとレオンチェヴィッチ一等兵は即答する。
「いや、ゾンビ化は望まない。今の私の身体が、とても生き返るに値しない状態であることを、私自身がよく知っている。」
そうだろうな。普通、あの状態で生き返りたいとは思わないだろう。私は彼に告げる。
「分かった。では、安らかなる死出の道を歩まれることを望む。」
そう言って立ち去ろうとしたその時、レオンチェヴィッチ一等兵は私を呼び止める。
「ああ、ちょっと待って!」
施術を拒否しながら、施術師を呼び止める魂も珍しい。私は振り向く。
「なんでしょう?」
「私の魂は、あとどれくらいここに停まれるれるのだろうか?」
「……つい先ほど、亡くなったばかりです。あと2時間ほどはいられるかと。」
「そうか……」
私がそう告げると、レオンチェヴィッチ一等兵は私のそばにやってくる。
「ではしばらくの間、私とお話ししませんか?」
「は?」
妙な申し出に、私は戸惑う。だが、その青年兵の魂が見せる笑顔に、なぜか私は逆らうことができなかった。
「わ、分かりました。しばしの間、付き合いましょう。」
「ああ、よかった。」
ゾンビ化を拒んだと言うのに、施術師を呼び止めて安堵するこの魂は、私を手招きする。真っ暗な宿り場の真ん中に、私とその青年兵は座る。そして青年兵は語り出す。
「私は、帝都のすぐ隣の都市、バルトグラードにある史学大学に通っていたんですよ。」
「はあ……」
「で、私の研究課題は、900年ほど前の9月33日に起きたとされるあの奇跡の出来事、あの逸話の真実を調べることだったんです。」
「はあ、左様で。」
「あれは魔物の軍勢と書かれているけれど、実際は当時あった別の国の軍勢だと思っているんですよ。そして、立ち向かったとされる司祭の奇跡は、実は大勢の施術師達によってなされたことだったんじゃないかって、私は思ってましてね。」
9月33日。私にとってはズコットを食べられる日という認識しかないが、その日は初めての施術師である司祭が帝国を魔物の大軍から救ったとされる日だ。聖書に書かれているその戦いの記録を、この青年兵は調べようとしていたらしい。
それからしばらく、その史学とかいう学問の話に付き合わされる。だがこう言っては何だが、私にとっては退屈極まりない話だ。昔の話を調べることのどこが楽しいのだろうか?嬉々として語るこの青年兵の話を、私は半ば、うんざりしながら聞いていた。
「……というわけで、私の仮説はその砦跡を調べれば、立証されるはずだと思っているんですよ。でも今は戦時下。そんな調査の許可が下りるわけもなく、それどころかその砦跡は今、前線へ送られる物資の中継基地として使われてるって話です。」
「では、とても調査どころではありませんね。戦争が終わらなければ、とても……」
そこで私は、はっと気づく。そうだ、この青年兵は、もう戦争の終わりまでこの世にいることはできないんだった。
「そう。今の私にはもう、その願いを叶えることはできない。でも私にはもう一つ、願い事があったのですよ。」
「そうなのですか。それは一体、なんですか?」
「うん、それは……」
そう言うとレオンチェヴィッチ一等兵は、私の顔をじっと見つめる。しばらくの間、何も言わず、ただ私だけを見つめている。
そのただならぬ雰囲気に、私は思わずのけぞる。だがレオンチェヴィッチ一等兵は、食い入るように私の顔を見つめてくる。
「あ、あの、どうかしましたか!?」
あまりに私の顔を凝視するその青年兵に向かって、私は思わず叫ぶ。
「いや、まさかあなたが私を施術してくれるなんて、これも運命だなと思って……」
そして、レオンチェヴィッチ一等兵は私の手を握り、さらに顔を寄せてくる。
ここまで男の人に顔を寄せられたのは、つい先日、酔った上官が私をいきなり抱き寄せてきた時以来だ。その時は別の士官がうまく私をその上官から引き離してくれたが、あれはどちらかといえば事故に近い出来事だった。
しかし、こちらはなんというか、この青年兵の強い意思というか、まさに魂からの想いのようなものをひしひしと感じる。
「あ、あの……レオンチェヴィッチ一等兵……」
「実は、この戦争で生き残ったら、私はあなたに告白するつもりでいました。」
「へ?」
思わず、変な声が出た。慌てて私は、反論する。
「い、いや、あの、私は……その、施術師ですし……」
「別に施術師にだって、結婚している人はいますよ。」
「だだだだけど私は、呪われた赤目の持ち主ですし……」
「900年前のあの司祭も、赤目持ちだったといわれているそうですよ。」
「で、でも私なんてとても、女らしいところなどないですし……」
「そんなことはない!この髪の毛、そしてこの顔、とても綺麗だ!戦場に咲く、一輪の向日葵のように!」
手をギュッと握られたまま、この真っ暗な魂の宿り場で、私は死んだ青年兵の魂に言い寄られている。私の中には、それまで感じたことのない感情が湧き起こるのを感じる。
「……だけど、私は死んじゃった。死んでしまった。その願いを果たすことなく、あろうことか私は目の前に着弾した、たった一発の砲撃のために、死んでしまった……何という不運だろうか。」
ガクッと肩を落とす青年兵の魂。その青年兵の様子を見て、急に気の毒になる私。
「あの……もう一度お聞きしますが、なぜ私なんかと、一緒になりたいだなんて思ったんですか?」
階級の上では、私の方が上だ。だが、私は自分の力で戦ったわけではなく、単にその能力を活かし、死人を叩き起こして戦場に突入させただけで得られた地位だ。この青年兵の積み上げた功績、積み上げた知識に比べたら、とても比べられるものではない。だから、とてもこの人と釣り合う女ではない。
「戦場に向かう、あなたの姿。いつも塹壕の中から眺めておりました。そして私はいつも、こう思って戦ってました。ああ、いつかあんな人と家庭を持ち、のんびり静かに暮らしたいなあと。それが私がこの殺伐とした戦場での、生きる希望だったのです。」
いつのまにか、私は生きる希望にされていたようだ。私は、顔が熱くなるのを感じる。施術中なのに。
「……そろそろ、お別れの時間のようです。では、私はそろそろ参ります。旅立つ前に一つ、お尋ねしてよろしいですか?」
「は、はあ……なんでしょうか?」
「カチェリーナさん。この先、あなたはこの大戦を生き残り、そして誰かと一緒になって家庭を築くでしょう。」
「いや、私が家庭を築くなど……」
「ですが私はあなたを、あの世でずっと待ち続けます。何十年後の未来、あなたは私のところに来てくれますか?」
これは、明らかに告白だ。魂からの死後の告白。だが、彼の想いはこっちの魂まで強く響く。もし彼が生きているときに告白されいたならば、私は間違いなくその想いに応えたことだろう。
「はい……私などで、よろしければ。」
そう応えると、レオンチェヴィッチ一等兵の魂は立ち上がる。そして、真っ暗な宿り場の奥に向かって歩き出す。
死出の入り口の手前で立ち止まり、彼はもう一度振り返って手を振る。私も思わず、手を振り返す。そしてその青年兵の魂は、暗闇の奥に消えた……
◆◆◆◆
「おい、カチェリーナ上等兵!」
医師の言葉に、私は目を開く。
「は、はい!どうしましたか!?」
「……貴官の顔が、何だか赤いぞ。何があった?」
まだ砲撃が続いている。砲撃音が鳴り響くこの野戦病院の中で、両足と左腕のない、すでに息絶えたレオンチェヴィッチ一等兵の右手を握ったまま、私は顔が熱いことに気づいた。
◇◇◇◇
「……ェリーナ!カチェリーナ!」
まただ、また、私の名を呼ぶ声がする。変だな、私は今、レオンチェヴィッチ一等兵の遺体の手を握っていたはずだが。
うっすらと目を開ける。そこには、顔があった。その顔を見て、私は驚く。
……バカな。レオンチェヴィッチ一等兵の顔だ。なぜ彼が、ここに……?
だが、よく見るとその人物の胸には、勲章がついていた。変だな、あの一等兵は勲章などつけていなかった。私は目を開いてその顔をよく見た。
それはルイスの顔だった。ベッドで眠っていた私の手を握って、声をかけてきたのだ。
「……なんだ、ルイス。砲撃訓練中ではないのか?」
「何言ってるの。そんなのもう、とっくに終わったよ。」
耳をすませば、砲撃音がない。低い機関音だけが聞こえてくる。ああ、そうか、私はベッドの上で布団をかぶったまま、いつの間にか寝てしまっていたようだ。
夢を見ていた。あの野戦病院での記憶を、私は夢の中で思い起こしていたようだ。
そして私は、ルイスの顔を見る。にっこり微笑むこの男の顔を見て、私は確信する。
間違いない、こいつ、レオンチェヴィッチ一等兵だ。よくみれば、顔が瓜二つだ。おまけに、のんびり暮らしたいなどという願望もよく似ている。
まさかとは思うが、こいつはレオンチェヴィッチ一等兵の成り代わりではないのか?あの世に向かったふりをして、実はこの世に再び現れたのではあるまいか?そう思わせるだけの何かを、この男から感じる。
……いや、前言撤回だ。この男はやはり、レオンチェヴィッチ一等兵なのではない。私は自分の身体を確認し、ルイスに尋ねる。
「おい、ルイス。」
「なんだい、カチェリーナ。」
「なぜ、私は水着を着ている?」
「ああ、僕が着せたからさ。」
気づけば、私は先日、海辺で着たあの際どい水着を着せられていた。壁には、海の風景が広がっている。ルイスめ、いつの間にここを「海岸」に変えたのだ?
短い出会いだったが、少なくともレオンチェヴィッチ一等兵はこれほど自分の欲望に真っ直ぐ男ではなかった。それに引き換えこの男は、とにかく自分の欲望に真っ直ぐだ。だから、私のことなどお構いなしに、やりたいようにやる。
まったく……この先、レオンチェヴィッチ上等兵と再会する時が来たら、私は自分の伴侶のことを何と表現すればいいのか?こんな奴と一緒になってしまったなどと、とても胸を張って言えない。
しかし、だ。こんな男だが、私の命の恩人でもある。だから私は、こいつと一緒になろうと思ったのだ。別に悪い男ではない。だが、もう少し自分の妻のことを考えてはくれないものだろうか……ベッドに潜り、私を抱き枕のように抱えて満足げな顔をするルイスの腕の中で、私はそう考えていた。




