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#1 戦場妄想

 ああ、のんびりしたい……

 少し汗ばむくらいの陽気の季節、泉のほとりの森の木の下に、大きなハンモックを吊るして仰向けのまま、キラキラ光る木漏れ日を顔面に受けながら、気づけば夕方を迎える……そんな穏やかな生活を、飽きるほど満喫したい……


『敵艦隊、さらに接近!距離、31万キロ!射程圏内まで、あと2分!』

『砲撃戦用意!操縦系を、航海科から砲撃科へ移行!』


 服は……そうだな、やっぱり薄手のシャツに、少し使い古したデニムがいいかな。清らかな森の間を駆け抜けるそよ風を感じるなら……


「砲撃管制室より艦橋!操縦系受領確認、これより砲撃戦モードに入ります!」

『敵艦隊、まもなく射程に入ります!』

『艦隊司令部より入電!全艦、砲撃開始!』

『砲撃開始、撃ちーかた始め!』

「主砲装填、撃ちーかた始め!」


 ……うるさいなあ、どうして僕の周りは皆、声が大きいのか。もう少し静かに、穏やかに話せないものだろうか。


「主砲装填、開始!」


 と言いつつも、僕も大声で復唱する。手元の装填レバーを引き、主砲装填を開始する。管制室内に、キィーンという甲高い装填音が響き渡る。

 横の照準手が、目標に狙いを定める。だが、相手は30万キロ彼方にいる赤褐色の、30メートル四方の駆逐艦。今見えている姿は、1秒前の姿。こちらが砲撃すれば、あちらに届くのはさらに1秒後。そのわずか2秒の間に、敵は大きく動く。

 ランダムウォークする敵艦の位置を推測し、正確に砲撃を命中させる。それが僕の、砲撃手(ガンナー)の役目だ。


「装填完了!撃てーっ!!」


 砲撃長の声が響く。僕は、引き金に指をかける。照準画面には、目標となる赤褐色の敵艦が見える。上下、左右に揺れるその敵艦の位置を捉えつつ、引き金を引くタイミングを計る。


 ……そうだ、森林浴のBGMには、ヒーリング音楽がぴったりだろうな。鳥のさえずりを聞きながら、少しドライな南国サイダー片手に過ごすのもいい……


 などと考えつつ、僕は引き金を引く。


 落雷10発分と評される砲撃のけたたましい音が、この狭い砲撃管制室の中をこだまする。ビリビリと揺れるレバー。目の前の照準器は、放たれたビームの光で真っ白になる。

 まだ目の前は真っ白で何も見えない。艦橋にいるレーダー手が、先ほど僕が放ったビームの着弾状況を知らせてくれる。


『初弾命中!ただし、敵艦は健在!』


 いきなり命中だ。だが、あちらのバリアシステムによって弾かれてしまったようだ。敵の艦隊からの砲撃(ビーム)の嵐も、こちら側に到達する。

 再び装填レバーを引く。キィーンという甲高い音と共に、主砲装填が始まる。僕は照準器越しに、敵艦を睨みつける。


 だいたい、何だってこの宙域は戦闘が多いんだ。この3色星域なんて、連盟が奪ったところで得られるものなんてほとんどないだろうに。何が悲しくて、この宇宙の果てまでやってきて、砲撃戦などやらなきゃならないんだ。


 脳内でやり場のない不満をぶつぶつ唱えながら、僕は引き金を引く。真っ白な照準器に視界が戻る前に、レーダー手が弾着状況を知らせる。


『外れ!右に20!上32!』


 やれやれ……いけないいけない、今は戦闘中だった。生き残って自身の願望を叶えるためにも、ここは集中せねば。

 そして僕は装填レバーを引く。全長300メートルの駆逐艦のほとんどを占める主砲身が、甲高い装填音を響かせる。


 ……森といえば、泉だ。清らかな泉のほとりで、初夏の日差しを浴びながら、そのせせらぎの音に耳を傾け、一杯の冷茶を頂く……


 そして僕は、引き金を引く。主砲身の根元に充填された莫大なエネルギーが、一気に解放される。その解放されたエネルギーによって、再び目の前は真っ白になる。


『命中!目標艦、消滅!』


 3発目で、いきなり撃沈だ。やはり今日は調子がいい。隣りの操舵手が、小さくガッツポーズをしている。


「まだ戦闘は始まったばかりだ!目標変更、ナンバー3176!」


 戦果に浮かれそうな我々を引き締めようと、砲撃長が叫ぶ。照準手が、次の目標に艦首を向ける。僕は装填レバーを引き、砲撃に備える。


 僕の名は、ルイス・アディントン。24歳。地球(アース)220 遠征艦隊所属の駆逐艦6636号艦で、砲撃手(ガンナー)をしている。階級は中尉。


 本当は、軍人になんてなりたくなかった。だけど僕の家庭の事情が、僕にこの道以外の人生を選ばせてはくれなかった。軍大学に行き、学費免除と引き換えの兵役義務を果たすために、僕は今、遠征艦隊に身を置く。


 軍大学では何気なく選んだ砲撃科だが、僕にはどうやら射撃の才があるらしい。シミュレーションでも砲撃訓練でも、通常なら10~20発に1発当てられれば良い方だと言われる命中率だが、僕は5発に1発だ。

 そして実戦。これまで3度の艦隊戦を経験しているが、僕はその戦闘で8隻を沈めた。通常なら撃沈率2パーセント、平均2時間の戦闘で1隻でも沈められれば運がいいと言われる艦隊戦において、この数は異常だという。

 だが、僕には見える。うまく言えないけど、敵艦の位置が読める。だから、当てられる。


 でも、僕の願いは、のんびりと静かな暮らしを送ることだ。

 南国の海辺、穏やかな気候の森林、湖の辺り……何百年もの悠久の時を経ても変わらぬ穏やかな場所で、喧騒の人界から逃れ暮らすのが、僕の究極の願いだ。

 その願いとは新逆の場所に今、僕はいる。


『敵艦隊、なおも前進!』

『砲撃を続行!我々の力で、敵の侵入を阻止せよ!』


 いや、我々ってさ……今戦っているのは実質的に、僕ら砲撃科の5人だけなんだけどなぁ。艦長なんて、さっきからこの艦のてっぺんにある艦橋の椅子の上で、ただ叫んでるだけじゃないか。何が「我々」だ。

 理想とは真逆のこの冷たい虚空の空間の只中で、僕はどうして戦っているのだろう?照準器の先に映る敵艦にいる人々など、僕は知らない。ましてや恨みなどない。だが、敵対する陣営というだけで僕らは彼らと、殺しあう。

 そんな殺伐とした戦場とは一刻も早くおさらばして、僕はさっさと自分の理想の地を見つけ、そこで静かに暮らしたい。

 そう、カチェリーナとともに。


 銀色の髪の彼女と、ハンモックで二人、静かに時を過ごそう。少し西に傾き出した日を見て、彼女は僕に小屋に戻るよう促す。でも僕は、そんな彼女を抱き寄せて……


「装填完了!」


 装填完了を示す青い光を見て、反射的に僕は引き金を引く。巨大な雷音とともに、高エネルギーの青白いビームが放たれる。絶対温度3度の虚空の空間を貫く1万度の光の帯が、30万キロ彼方にいる敵艦目掛けて音もなくスーッと伸びていく。


『命中!ただし敵艦、健在!』


 今日は調子がいいな。4発打って、3発命中だ。今日の僕が冴えているのか、それとも相手がよほどヘボなのか。いやそんなことよりも、さっさとこんな戦い、終わって欲しい……


 その後も2時間、砲撃が続く。そこでようやく、連盟軍が引き始める。地球(アース)220遠征艦隊1万隻が、これを追撃する。前進し、後退する敵艦に向けて砲撃が続く。敵も負けじと、我々に高温、高エネルギーの青白い光を放出し続ける。

 その追撃戦が終わる頃、僕は4度目のこの艦隊戦で、合計3隻の敵艦を撃沈していた。紛れもなくこれは、艦隊でトップの成績。またしても一度の戦闘で複数艦撃沈。これで通算、11隻ということになる。


「おい、やったな!」


 同僚のアレン少尉が、僕の肩を叩く。今回の戦闘で沈めた敵艦は、全部で220隻。つまり、1万隻いる駆逐艦のほとんどが一隻も撃沈できてない中、僕のいるこの艦だけが3隻も沈めている。駆逐艦6636号艦の砲撃管制室は、4度目の戦果に盛り上がっている。


 だけど、僕はちっとも嬉しくない。それはそうだろう。裏を返せば、今日だけで300人、通算1100人もの人々の人生を奪ったことになる。その事実を前に、何を彼らは浮かれているのか?


「やったな、ルイス中尉。間違いなく、艦隊トップの戦果だぞ」

「はっ、砲撃長殿。光栄であります」


 光栄であります、じゃねえよ。上官を前に、なに浮かれてんだ僕は。そういうことを言うから、軍が僕を離してくれないだろうが。

 星の運命、人々の安穏、宇宙の平和。そういうものを守るために、我々連合軍は戦い続けている。軍の上層部はいつもそう説いている。

 だけど、僕の願望はその安穏を享受する側なんだけどなぁ……前線に立って、誰かのための盾や矛となって戦う。そんなの、僕のガラじゃない。


 などといつも思うけれど、本音を口にすることなく僕はいつも控えめの笑顔で彼らに応えてしまう。

 4度目の複数艦撃沈となると、さすがに軍の上層部も動くだろうな。これで勲章など受けようものなら、僕は一生、軍にこき使われることになる。軍を辞められないのなら、できれば後方の、それも南国の海辺の街かか、のどかな湖の辺りの駐屯地辺りで、2人が食べるのに困らない程度の暮らしができるだけの給料をもらって、静かに一生を終えたい……


 そんな僕の願いなど、聞き入れてはもらえる余地などない。通常体制に戻り、食堂で夕食を済ませた僕に呼び出しがかかる。至急、艦橋に来るようにとの艦長からのお達しだ。悪い予感は、的中する。


「ルイス中尉。つい先ほど、軍総司令部より貴官に、一等突撃勲章を授与するとの電文が送られてきた。これは、大変な名誉だぞ」

「はっ、光栄であります!」


 ああ、予想通りだった。最悪だ。これで僕は、軍隊をやめられなくなってしまう。敵の砲撃でこの身を焼かれるか、あるいは引き金を引けなくなるほど年老いて退役を認められるその日まで、僕は戦い続けることになるのだろう。


 ああ、どこでもいいから、どこか静かな安穏の場所で、のんびりとしていたい……

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