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カフェ館にて

結局、1時間後というタイトなスケジュールを指定されたこともあり、余り策も無いままにカフェ館に到着してしまった。

入店してあたりを見回す。この時間なので空いているにもかかわらず、

店の奥で壁を背にして文庫本を呼んでいる伊藤と目が合った。

軽く手を挙げている。脅迫に近い形で呼んでいながらフランクなものだ。

店員に話をし、コーラを注文し、伊藤の席に向かうことにした。

あえてあそこを選んだのだろうか、他人に背を見せないなんてゴルゴ13ばりの習慣でもあるんだろうか。

しかしまぁ、クラスメートとか、おかげさまで知り合いが入店してくれば伊藤は気付ける場所だし、手も打てるってことだろう。

とすれば、やつも相応に考えがあってのことだろう。

当時は思いもしなかったが、齢を重ねれば分かる、伊藤のような一見完璧に見える人間ほど心に闇を抱えている。

そして席に着く。

「急な呼び出しに来てくれてありがとう。」

と、表面上は完璧な美少女が俺に微笑む。

やめろ、それは汚れ切った心の俺に効く。

「あぁ、急で驚いたんだけど、なんでまた。」

「単純に気になって。なんであんなことしたのかなって。」

「そもそも、こんなわざわざ喫茶店に呼び出すってのは…」

なんでだって続ける前に気づく、まぁそうだなこの会話をしていること

さらに言えば、伊藤が俺と話しているという事すら知られたなくない、そういう事だろう。

と考え、質問はやめて俺はつづけた。

「…まぁ、そういうことな。」

「へぇ、頭が良いのね。」

と茶々を入れられたが、無視をして続ける。

俺が察したことを察した伊藤も十分に頭がよいと思うが、それはどうでもいい。

とりあえずこちらから話す必要もなかろう。

「”お話ししましょう。”なんて言われて、ここに来ているんだけど、俺に聞きたいことって何?」

「色々あるんだけど、、、何故あんなことをしたの?」

「何故って。。。」

やはり、伊藤は容姿端麗で成績優秀なただのお嬢さんって訳じゃない。

具体的には発言せず、こちらに鎌かけすることで言質を取りに来ている。

であれば、こちらもとぼけ続けるまでだ。

「あんなことってのは、身体検査をするよう、那須に促したこと?

 それは何というか、あの空気がめんどくさかっただけで。」

「そういうことを聞いてるんじゃないんだけどな…。」

「どういうこと?」

あえてとぼけ続ける、こちらから尻尾を出す必要はない。

「私、見ていたんだ。私たちの着替える教室に坂本君たちが入って、その後に山田君が入っていったのを。」

「え??何のこと?見たって、バレエ中だよね、伊藤さんも。」

「とことんとぼけるのね。私は体調が悪くなったので保健室に行こうとしていて、

 バレエの衣装では寒かったので、教室に上着を取りに行こうとしたら、

 坂本君たちが私たちの着替えをしていた教室に入るのを見かけたの。

 そして、そのあとに山田君が同じ教室に入っていくことも見かけたの。

 どう、これでもとぼけるの?」

「ん?俺が結局何をしたと?」

俺の発言を受け、一瞬伊藤の顔が歪む。

伊藤がイライラしているのが見て取れる。

が、それを一瞬でとどめられたのは、さすがだ。

「全ては分からないけど、少なくとも坂本君のカバンに女子の下着を入れたんでしょ?

 そうでなければ今日のホームルームのような発言をあなたがする訳がないし、こんなことにはなっていない。」

”少なくとも?”あぁ、そうか。そりゃそうだ。

伊藤が見たというのが正しければ、疑惑が俺にも向けられているんだな。

そんな中、注文したコーラが届き、それを一口飲みながら発言する。

「あぁ、やっとわかった。つまり俺も容疑者だって言いたいの?だったら何でホームルームで言わなかったの?」

「分からなかったから。」

「ん?」

「私には、坂本君達が私たちの着替えをした教室に入って、山田君が同じ教室に入っていった。

 そうしたら、下着が盗まれていた。山田君の動きがなければ、全てわかっていたわ。

 当然、そうであればホームルームで言っていた。

 だけど、山田君が何をしたのかがわからなかったし、いろいろ考えて、さっきはあそこまでしか言えなかったの。」

嘘つけ、俺が今回介入しなければお前は押し黙ってた「過去」があるんだよ。

しかし、これは思ったよりも、大したことじゃないのかもしれない。

慎重になってよかった。

「んー、そういう事か。であれば、まぁそうだよ。

 下着を坂本のカバンに入れたよ。肉団子のカバンからな。」

「肉だ…中山君のカバンに?」

中山というのは肉団子の名字で、途中まで肉団子と言いかけたのは、伊藤自身も多少混乱しているのだろう。

であれば、このままことを収束させていこう。

「そう、俺は坂本たちが下着泥棒の計画をしているのをたまたま聞いてしまった。

 で、そのスケープゴートに肉団子が選ばれるという事まで知ってしまった。

 だから、その伊藤さんの言う”少なくとも”をしたんだ。それ以外はしていない。

 といってもそれを今は証明できないな。

 でもまぁ、今後坂本の証言と被害状況が合致すれば証明されるでしょ。」

「仮にあなたが言ったことが本当だとして、なんでこんなやり方をしたの?」

おや?話はあらぬ方向に。

「え???俺はただ、解決するにはこの方法しかないかなって。俺が坂本に言って止められるわけもないし。」

「直接言わなくても、やり方はあったよね。例えばその作戦を聞いたって、那須先生に相談するとか。」

「あっ、言われてみればそうだ。」

確かに方法がこれに限られていたわけではないし、今回の対応はあまりにリスキーである。

ただ、このことでの肉団子の被る被害を坂本にぶつけたかっただけだ。

そうは言えないので、今更気づいたふりをするしかない。

「こんな手の込んだことしか浮かばないって言うのはどうにも理解できないわ。

 繰り返すけど、止め方はいくらでもあったと思うし、今回のやり方以外にいくらでもやれたはずだと言いたいの。

 あなたは下着泥棒ではなく、その犯行を犯人が分かるようにしただけ、それはむしろ正義だと言いたいのかもしれない。

 けど、このことで、私たち女子はクラスメートに下着を盗まれたって悲しい思いをしているのよ。

 知っていて、坂本君達に下着を盗ませておいて、正義面で私たちの悲しみを野放しにして、楽しんでいたの?

 だとしたら・・・。」

そういうことか。。。そこまで言うなら伊藤にも坂本達が教室に入ったのを見た時点でやれたことはあっただろうが、

ここは大人の対応で〆るか。

「楽しんでいたわけじゃない。そこは信じてほしい。

 伊藤さんは知っているかわからないけど、肉団子は俺の友達なんだ。

 何の罪もない肉団子に罪をおっかぶせるという、坂本の犯行を聞いてしまって

 多分、いやそうなんだろうな、奴に怒りを覚えた。だから結果としてこんなことをしたのかもしれない。

 だけど、これだけは信じてほしい。あの時はそれをすることに頭がいっぱいで他の手については思い至らなかったんだ。

 事前に先生に相談するとか、犯行前に防ぐことができたのかもしれない。

 結果として、坂本たちの犯行に加担してしまったのかもしれない。

 これはなんというか、勝手なお願いだけど、出来ればこのことは伊藤さんの中で留めてほしい。」

「本当に勝手な話ね。でも、あなたのした事を今さら話して何になるって訳ではないし、

 こんなことを言って、さらにクラスの空気を悪くするのはわたしもやりたくない。

 ただ、これだけは覚えておいて。私はあなたがたとえ気づかなかったとしても、この事に怒っているの。

 それと、山田君がこんな人だとは、少し失望したのも本当。

 だから、このことを私の中で留めるかは今後の山田君の対応を見させて。」

ずいぶん上からマウントされたものだ。

要は、このことの表明というカードをこちらにチラつかせているのね。

とはいえ、今はそうしておく方がよい。

「ごめん、そうしてもらえると助かるよ。じゃあ、今日はごめん。」

そう言って伝票をもって店を急ぎ足でた。

結果として伊藤の紅茶の金も支払うことになったが、何も言わなかった。

腹黒め。

・・・しかし、疑問は残る。

本当にそんなにタイミングよくあの場面に出くわしながらも、坂本たちにも俺にも気づかれないなんてあるのだろうか。

そして、過去の通りで俺が動いていなければあいつは坂本たちの犯行を見て、肉団子が犯人としてつるし上げられるのを黙ってみていたことになる。


少なくとも、今日の動きは変に目立った上に、不可解な点の多い伊藤に弱みを握られた、という失敗を認識できた。

今後は、どこに目があるかわからないこと、

そして仮に、俺の行動がバレたときに説明が付けられないなら理屈を用意するか行動自体を隠匿するか。

考えていかないといけないな。

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