月曜日、作戦実行
月曜日、淡々と授業を受けて昼休みに突入した。
いつものようにふらりと教室を出る。
このことを誰も気にしない程度に日常となっているのは、今回の作戦にとっては良い状況だ。
そして、いつもの抜け口から校外に出てタクシーを捕まえる。
まずは初めの巡回路にタクシー運転手に向かってもらい、到着する。
おぉ、想定通り紙切れは設置されていた。
その紙切れを財布にしまい、残る三か所を巡回して紙切れを収集し、タクシー代を払ってタクシーを後にした。
そこから昼休み終わりまで時間をつぶし、校内に戻った。
これで俺のアリバイは完璧だ。
そうして始まる昼休み明けからの着替えと校門外への移動。
そして校外マラソンが始まる。
こういう時に「一緒に走ろう」なんていうしゃらくさい関係があると面倒なのだがそれもないので、
徐々に後列に移動してのフェードアウト、からの裏口からの校内戻りを鮮やかに決める。
そうして、女子の着替えが行われていた当の部屋から少し離れた場所から、部屋を伺う。
すでに奴ら不良どもは既に事に及んでいるようだった。
「おぉ!宝の山だな!」
「おい、急げよ、誰か来ないとは限らないんだから。」
はしゃいでいるのが子分の田崎、たしなめているのが不良リーダーの坂本だ。
数分だろうか、十数分だろうか、彼らの時折の興奮の言葉を遠巻きに聞いていた。
そうするうちに、女子の着替えをしていた教室から男子の着替えをしてた教室に移る。
数分としないうちに教室から出てきた。
ここで奴らの戦利品の一部が肉団子のカバンに入れられたのだろう。
(補足をしておけば、肉団子とはクラスメートの一人のあだ名だ。)
ほどなくしてやつらはあたりを伺いながら教室から出てくる。
とっ・・・こちらに向かってくるじゃないか。
急いで階段を駆け上がり、一回りして先ほどの教室の反対まで戻ってきた。
奴らの姿は見えない。
早速、男子の着替えをしていた教室に入り、肉団子のかばんを探り、下着を取り出す。
さて、こいつを不良リーダーの坂本のカバンに分かりやすく入れる。
奴は体操着からの着替えでこれを開くはずだからこの事態に気づくだろう。
それに気づいた奴はどうするか、少し楽しみになってきた。
順調に作戦を続けながら、抜け口から校外に出て、少し様子を見ながらおおよそ最後尾くらいの順で
あたかも走った体で4枚の紙切れを手にしてゴールについた。
さて、そこからの点呼が終わり、教室に戻る。
男子の着替えが終わり、女子が教室に入ってくると何やらただならぬ雰囲気。
そりゃそうだ。数人の女子の下着がなくなっているんだから。
あわせて担任も入ってきた。
「えー、次は数学の授業の予定なのだが、少し大変な事件が起きたのでホームルームに切り替える。」
担任の那須は数学の教師であったからスムーズなスイッチングが可能なようだ。
まぁ、この件は事が事だけにほかの授業の予定でもこうなっていただろう。
担任から女子の下着が盗まれた旨を報告された。
そして恒例の目をつぶっての挙手の呼びかけに誰も応じず、異様な空気が流れていた。
その中で不良子分の田崎が話し出す。
「おいおい、俺たちはマラソンに出てたんだぜ。スタートもゴールも体育教師の蘇我先生にチェックされているんだよ。
そこからすると、盗むなんて不可能だぜ。」
それを受け、担任も。
「確かにな。確かに君たちはマラソンに出ていた。しかし、君たちがそれを回避する術がないかと言うとそうではないと思う。」
「え?疑ってんの?俺たちより普通に授業を受けていたやつがトイレの体で外に出る方が疑わしいだろ。」
と、田崎。従来であればそこにかぶせていた不良リーダー坂本は青い顔をして黙っている。
どうやら、自分のカバンに戻っている下着に気づき、処理ができないまま今のホームルームを迎えているんだろう。
担任も、どうしていいのやらであいまいな発言になっていく
「疑いたくないけどね、ほかのクラスの子たちは女子がどこで着替えをしてたかはわからないんだ。
それを知っているのは同じクラスの男子だけ。なので、仮定を重ねても仕方ないのだが、例えば男子の荷物を検査させてもらってだ」
それにかぶせるように田崎
「あぁ、わかったよ。荷物検査でもしろよ、そうすれば俺たちが潔白ってことになるんだろ!なぁ坂本!」
と、ダンマリの坂本にパスが渡る。
「いや、俺はそこは一線を越えると思う。そもそも無理な状況だし、俺たちは外にいた証拠は体育教師の蘇我先生が知ってるんだ。
そんな中で俺たちは痛くもない腹を探られるのか?正直そこで俺たちが潔白だったとしても那須先生を今後信じられないぜ。」
なんとか急ぎで荷物検査を回避する論を捻りだす坂本。少し戸惑いながら田崎も坂本に従う。
「確かにそうだな、俺達がそれを受ける理由はない。」
リーダーと子分の関係性が垣間見える。
担任はどうしたものかとあわあわしている。
と、そんな中で荷物検査をされないのであれば面白くない。ここまでやった作戦だ。
坂本には肉団子にやろうとしたことをしっかりかぶってもらわないとな。
「もういいんじゃない?俺たちがとっていないことは明白なんだから。
さっさと荷物検査してもらってこういうの終えようぜ。」
と、口火を切った俺を周りは異様な目で見ている。まぁ、そういうキャラじゃなかったから。
そして必死な坂本が
「お前、疑われてるんだぜ?痛くない腹を探られるんだぜ?信用問題だぜ?」
とまくし立てるが、正直さっきの発言のリプレイだ。
と、俺はカバンの中身を机の上にぶちまける。
「俺はそういうのどうでもいいから、さっさと潔白を証明したいんで、これ検査してくださいよ、那須先生。」
こんな中でも不良の坂本の発言を気にしてあわあわしている那須。。うーん、こんなにヘタレだったとは思わなかった。
そこに初めて女子が発言する。
「私も、ちゃんと無実って証明してもらった方がいいと思います。男子が言うように、男子は外にいたんだし、だったら問題ないでしょ。
それに、このまま犯人が分からなければ心のどこかで男子を疑ってしまう。そういうの嫌です。」
それは、クラストップの容姿と成績をもつ女子スクールカースト頂点の伊藤だった。
その言葉に押されるように、那須が俺の机まで動き出す。
「山田、ありがとうな、こういうの、さっさと終わらせよう・・・。」
そうして、俺のカバン、机の上、ポケットなどをアイコンタクトを交わしながら那須に調査された。
「オッケーだ。じゃあほかの男子も順にカバンと机の中身を見せてもらう。」
坂本がかぶせる様に
「おい、俺の言っていることが、、、」
というものの空気としては調査するに向かってたため
「お前の気持ちもわかるけどな、ごめん、さっさと済ませよう。」
そして、淡々と捜査が続き、坂本の前に那須が来た。
「俺は協力しないぞ。」
という坂本に対し、協力を求める那須。
この問答が繰り返され、とうとう坂本のカバンが開けられる。
そして出てくる女子の下着。
「お前・・・。」
「違うんだ!知らねーよ!こんなの!」
と叫ぶ坂本。
「まぁ、とりあえず職員室に行こうか。
他の皆は副担任の綾野先生が来るまでここで待っていてください。
このことは、誰にも言わないように。」
暴れる坂本を抑える形で引きずって、教室から出ていく那須。
この辺りは大人であり空手の有段者たる、那須だ。
この状態で教室は数分ざわついたままだった。
そして、ほどなくして副担任の綾野が教室にきて
このことは他言無用、まだ何かが決まったわけじゃない。
とりあえず今日は全員帰宅すること。
部活にもいかないで、まっすぐ帰宅すること。
という事が伝えられた。
俺は心の中でガッツポーズをし、今後の坂本の行方を妄想しながら帰宅することにした。
このことを何も知らない肉団子とガリガリ君と帰宅した。
帰宅してから30分後ほど、電話が鳴り、誰も他にいないためしぶしぶ電話に出る。
「もしもし、山田君のお宅ですか?」
「はい、そうですけど。」
「あっ、山田君。私伊藤です。」
突然の優等生からの電話に戸惑う俺。
「えっ・・・」
「ちょっとこれから合えないかな、聞きたいことがあって。」
「えっ・・・」
安定のコミュ障を発動する俺に、構わず伊藤が重ねる。
「今日の下着泥棒事件、実は私知っているの、坂本君と田崎君の犯行も、山田君の犯行も。」
「えっ・・・」
突然の話に言葉に詰まりっぱなしだ。
「1時間後の16時、駅前のカフェ館でお話ししましょう。」
「えっ・・・」
「待っているから。来てくれなければ、山田君のことも・・・じゃあね、よろしく。」
そして、一方的に電話は切られた。
俺は「えっ・・・」としか言えず唖然とする中、電話が終わり、
何が起きたのかについて考えを巡らせていた。
仮に俺がこの作戦をしなかったとしたとき、同じように伊藤は知っていたとして
肉団子の冤罪を笑ってみていたのだろうか。
いや、そもそもどうやって伊藤はこれを知りえたのか。
そして、伊藤は俺とあって何を聞きたいのか。
色々な考えが頭をよぎりながらも、カフェ館に向かうことにした。