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目覚め

目覚めとともに違和感を感じた。

周囲のざわつく声、少し香る気の匂い、ゆっくりと目を開け頭をあげると、

そこは教室だった。約20年前の、中学生時代の。

最近は夢の中でほのかに夢を認識できていたこともあり、それもその類であると、今理認識したところである。

夢にしては偉く現実的なところが気になる、視覚聴覚はもとより、感触もリアルだ。

夢を意識しているとはいえ、そこに入る前までの自分をしっかり認識できているところには違和感があった。

夢に入る前の俺は30のシステムエンジニアをしていた中堅会社員、どこにでも居る陰キャだ。

そして夢にいる俺は、青春時代に捻くれまくって、スクールカーストの底辺に最速でかけ落ちたそれである、というかそのはずだ。

恐らく、夢の俺の目覚めは、寝たふりをしたものが本当に寝ていた、そんなところから来るのであろう。

孤独は厭わないが、孤独であるとは思われたくない、かといって無理をしてコミュニケーションをとりたくない。

そんな思いの落ち着きどころが、机で突っ伏しての寝たふりだった。

ぼーっとする頭でただ座っているとチャイムとともに教師が入場する。

「始めるぞー!」との常套句とともに、起立、礼が執行され、淡々と授業が始まる。

あぁ、何もかもが懐かしい・・・そうそう、授業で全部ノートに写していたから、結局何聞いてるかわからなくなったんだよな。

メモはポイントだけでいいんだよ・・・。と思い、授業を受けて10分としない内に睡魔に襲われた。

ただ良くわからないが、ここで寝てしまうと、この夢も終わってしまいそうであったので、何とか頑張って起きぬいた。

なんとも不思議なもので、20年前の授業なんて覚えていないはずなのに、パーツパーツに記憶にあるようなこともあり

「人は大体のこと覚えているけど、思い出せなくなっているだけ。

 記憶においては「それを引き出せること」が重要なんだ。

 だから、教科書を読むだけではなく、問題に正解するという成功体験を積み重ねること、それが記憶の近道だ!」

なんて同時期に通っていた塾教師の言葉を思い出していた。

そして鳴り響く救いのチャイムに救われる。

休み時間という10分ばかりの空白時間が始まった。

周りを見回すと、明確に覚えているやつ、曖昧なやつ、全く知らないやつ。

だが、わかるのはこれは俺の中一の風景そのものだ。

この期間に当然俺の机には誰も来ず、違っていたのは寝たふりをしていなかっただけだ。

そして、チャイムとともに担任らしき人間が現れ、ホームルームのようなものが始まった。

どうやら、あの地獄の授業はあれで終わりらしい。助かった。

一人であるあると思いつつ、ホームルームを眺めているうちにそれも終わった。

夢だと思うが、よくわからないが、少なくとも俺の認識はここにある、もう少し情報を整理しなければ。。。

そう思っているうちに、俺の眼前に小太りの少年と、ガリガリの細長の人間が一緒に帰ろうと誘ってきた。

前者は肉団子、後者はガリガリ君と、何ともアレなあだ名だが、覚えている。

彼らは、俺の帰宅仲間であったから。

友達とまでは言えないが、帰宅部連中のなかで一緒に帰る仲、そんなやつだ。

「おい、山田、早く!」

そう、山田というのが俺だ。そしてあだ名すら付けられない空気的底辺だ。

「ちょっとまってくれよ、肉団子!」

声が出るかと危惧していたが、思ったよりすんなり声が出た。

帰宅準備を急いでこなし、彼らと帰宅していった。

その中での情報取集をするに

今日が2002年の6月7日、金曜日ということを知った。

そして、この年から週休二日制となり、土日は完全休みとのこと

当然ながら、彼らと土日に何か約束をしているようでもないことは分かった。

そうして、家に帰り就寝した。夢の中で就寝というのもおかしなものだが

これは夢とは恐らく違うとうすうす気づきつつあるが、今においては何も説明がつかない。

とりあえず俺が、30までの記憶を持ちながら、今は自分が中学生であった時代に中学生として生きているということらしい。なぜそうなっているのかはわからないが。

眠りさえすれば、これも終わるだろう、そう思い、早々に床に就いた。

が、そうは問屋が卸さない。

気が付くと、土曜の朝を迎えてしまった。

そして同時に思い出す。

明後日の月曜日に、一つの事件があることを。

体育後の女子の下着が盗まれるという事件が起きる。

そして、ホームルームでの犯人捜しをするも、

誰も名乗り上げず、しびれを切らした担任が男子の持ち物検査をした際に

何人かの下着があの肉団子のカバンから見つかり、肉団子は聴取を受ける。

それ以降、肉団子は登校しなくなり、クラス内でのあだ名が「卑猥肉」となり

登校しない彼が、その手の卑猥なことを指す際のネタとなっていたのだ。

ただ、これにも少し不可解な点があり、肉団子のカバンに入っていたのは被害者女子の一部のものであり、残りの盗品はついぞ見当たらなかったそうだ。

心無いクラスメイトが言うには、土に埋めてやり過ごしただの言っていたが、確かに不可解ではあった。

それであれば全部埋めればいいし、なぜ一部だけカバンに残したのか。

と、ここまでが中学までの記憶。

社会人になり、ふと底辺の友人から聞いた事実は違っていた。

実は、クラスのヤンキー層が女子の下着を盗み、その一部を肉団子のカバンに入れてスケープゴートにしたそうだ。

それを聞いたとき、いくら帰宅だけの仲とはいえ、肉団子を信じることができなかったのか。

自分も勝手に最低な奴だなんて思いこんでいて、あいつを助けてやることができなかったのか。

と、罪悪感にかられたものだ。

そこで、思い立つ。

この悲しい事件を回避できないものか。俺は記憶をたどりながらノートに書きだしていった。

そして、解決するための段取りを書き上げた。

本当にうまくいくかはわからない。だけどやってみる価値はある。

日曜日にかけて作戦をブラッシュアップし、月曜日に臨んだ。

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