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おまじない祓い  作者: 襟巻
4/6

其の肆

やっべぇ忘れてた

心洞琥珀。彼は少し特殊な力を持った人だ。


それは言霊を読む、読んで真意を見抜くという霊的というべきか神的というべきか曖昧な世界を知るという能力である。


その彼曰く私にかけられたこの呪いは、少なくとも悪意があるわけではない。ということであった。

「しかしじゃあ、誰が一体私にこの呪いを、狗神を仕掛けたんですか?」


簡単ですよ。琥珀君は言う。


「あなたのご先祖様ですよ。」

私は耳を疑った。


―そんな…そんな筈は…


「そんな筈は無い…と。言霊が出ていなくてもあなたのその瞳孔の開き具合で分かりますよ。だから言ったじゃないですか。自分の正義を押し付けるなと。」

「でも…」


―でも、それだからってそんなのって…


「幾ら家族でも一人間です。故に正義の定義だって違いますよ。」


解っている。解ってはいるが、認めたくない。先祖が犬を酷い殺し方をして狗神にしたなんて。


呪いの道具にしたなんて。


「それに…」


「…それに?」


琥珀君は少し間を置いて、何処か悲しそうに言う。


「この狗神は、あなたの、いやあなたの家族の為にあったものなんですよ。」


―私の…為?


にわかには信じ難い。なにせ私は呪いは人に対し悪影響を及ぼすものだというジンクスが有った為である。


確かジンクスを呪いと受け取って「~の呪い」とかも言うので「呪いの呪い」とでも名付けてみようかと考える私は呑気であろうか。


琥珀君は続ける。


「呪い(のろい)って漢字で書いたら口に兄。呪い(まじない)って書いても口に兄。それが掛けられた人に齎す現象によって呪いにもなればお呪いにもなる。まあ、さっきも言いましたが正義と悪は紙一重っていうわけですよ。」

「ああ、成程。」


だからあの時あんなに詳しく、食玩の例まで使って話していたのか。と私は琥珀君に対し少しの納得感と尊敬の念を抱く。


「へぇ。」


―まさか、ここまで私の言動を予測するなんてね。まあ、薄々解ってはいたけど琥珀君、頭良いんだねぇ。相当。


「言霊に漏れてますよ~。ってあなた僕のこと一体何だと思ってたんですか。」


「え?いやぁ、ただの変質者かと。あは、あはははは。」


どうせ読まれてしまうので言ってやった。


なんとなくじとーとした目線を向けようとしているのは解るが琥珀君はほぼ表情を変えなかった。


「まあ、いいですよ。」


とふてくされた様に琥珀君は言う。


「それよりも、話の続きと行きますが、その狗神、今あなたにとってはただの呪いになってることはお分かりですね?いや、理解してもらわないと困ります。あなたがドMというのであれば話は別ですがね。」


「なら、呪いだね。私にとっては、だけど。」


「えぇ!呪いだったんですか!?あんな高熱で走っていたところを見ると僕はてっきり…」


「誰がドMじゃぁい!」


琥珀君は目元を変えず口を少し開け笑う。しかしそれは琥珀君にとってはだが本当に笑っているように見えた。


―そんなに面白いかな?


「まあ、呪いだろうなとはナノレベルで思ってはいましたよ。初めて見た時から。まあ、要はですね、この呪いはもとは、この家の安泰を守るために掛けられた呪いなんですよ。う~ん、この感じだとざっと200年ほど経ってますね。恐らく天明の大飢饉の時かと。しかしお人よしですね、あなたのご先祖様。愛犬を殺してますよ、この強さ。じゃないとこんな効果は期待できないですね。」


私は更に耳を疑った。


―愛犬を…殺した!?


「どういうことですか!皮肉もいい加減にしないと怒りますよ!」


「いや、皮肉とかそう言ったことじゃないですよ。ただ、ですね。あなたのご先祖様、この狗神に村を救わせているんですよ。村を…ね。本来、狗神は主に尽くすように掛ける呪いです。しかしご先祖様は愛犬を、ご先祖様のことを信じて慕っていた愛犬を殺したんですよ。」

「…狗神の、作り方、で。ですか?」


琥珀君は何も言わずに頷く。


人の命と自分の愛犬の命。どちらを取るか。


どちらを切り捨てるか。


どちらを殺すか。


先祖の迷いが会わなくてもいかに辛いか解る。


いや、解らない。解れない。


私みたいな箱庭の中で甘やかされて育った私になんかに解りやしない。


でも、いかに苦渋の決断をしたかは解る。


度合いは解らないが迷ったという、悩み苦しんだという事実は嫌という程に伝わってくる。


もし、それが私だったなら。


もしそのご先祖様というのが私だったら。


私は一体どうしたのだろうか。どのように行動していたのか。


考えただけで頭が痛くなる。


「まあ、そういう事です。そのあなたに憑いている狗神はあなたのご先祖様の愛犬の成れの果てですよ。まあ、其処に愛犬の意思や感情は存在しませんけどね。」


「と、言うと?」


琥珀君は、ふぅ。と私の枕元に座る。


心なしか、なにか大切な秘密を打ち明けるかのような不安そうな顔をした気がした。


「僕は昔から言霊が見えると言いましたね。」


「ええ。」


「だから、僕には化け物の類や幽霊とかは見えないんです。まあ、妖怪と呼ばれる類はもとは現象。それにただ人の噂がくっついただけの概念的なキャラクターなんですよ。僕はその概念を見るとき、言霊でしか見えないんです。だからそもそも幽霊とか化け物とかは居ないと信じています。まあ、強いて言うなら。自分の理想像へと擬態している、化けている、僕らが化け物ですよ、余談ですがね。でも、仮にあなたが見えると言うのであればそれは否定できません。居ると言えば本当に居るのでしょう。しかしそれはあなたの世界観のみなのです。僕には味わうことができない別の世界の考えなんですよ。つまり、僕はそう言った類のものは言霊、つまり意思のないただの概念。存在的なものでしかないんですよ。」


其処に有るだけ。影響されるのは僕ら次第なんですよ。彼はこう付け足した。


「ってことは、この狗神も私が居ないと言えば、仮に居たとしても影響はないと言えば影響はなくなるんですか?」


つまり、狗神という存在を消してしまえば、私の中から消してしまえば影響はないのである。と私は考えた。


「ええ、それができれば良いんですがね…。あなたの場合少し特殊なんですよ。」


―特殊…?


「あなたのご先祖様が親切だった故にあなたが今現在も苦しんでいるんですよ。この狗神は先ほど村を救った、と言いましたね。村一つ救う、果たしてそこに何人の命が関わっているの。か。だから、いかにこの狗神の呪詛が強力だったかが伺えるんです。だから怖いんですよ、だからここまで厄介なんですよ。…そして、だからここまで面白いことになっているんですよ。」


にやりと笑いそして続ける。


「つまり何もなくても、あなたが意識をしなくても、その存在があなたにとって大きかったということになるんです。存在感が兎に角大きかったんですよ。本能的に気づいてしまう程にね。」


意識的でなくて本能的に。私が思考の中では知らなくても、この肉体は既にこの狗神の存在に気づいていた。


気づいてしまっていた。


故に私に対してこの呪いの効果が出てしまっていた。


「しかし、これは仕組まれたとしか思えないほど重なっていますね、偶然が。」


「ぐ、偶然?私は肉体的に、本能的に狗神の存在に気づいていた。だからこの呪いの影響を受けてしまった。これが答えなんじゃないんですか?」


いいえ。と琥珀君は口角をさらに引きつらせて言う。まるで待ってましたとでも言わんばかりに。


「いえ、本来狗神は主に奉仕させる為に作られた呪いですよ。恨みを主の代わりに晴らす、主の家が安泰になる、主の周りの人々の命がこれ以上奪われない。全ては主の願望で狗神という呪詛は出来ているんです。それが、どんどんと後世へと受け継がれ、一族は本来、久遠の安泰を約束される筈なんですよ。しかし、あなたにはこの呪詛に対する抵抗力がない。いくらお呪いとは言っても毒は毒です。憑かれている側の体力にも寄ります。もし呪詛に抵抗する体力が無ければお呪いは呪いへと変わります。存在があまりにも大きすぎる狗神、呪詛に対する抵抗力を十分に持たないあなた。条件としては揃いすぎです。」


偶然では括れないほどの必然を感じる。


人を呪わば穴二つ。


見られてはいけないというものである。


しかしご先祖様はこの呪詛を人の為のお呪いへと変えた。


人の為にと、村の皆を元気づけるために狗神のことを言ったのであろう。


しかし毒は毒。


いずれかは全ては帰還する。


呪いへと姿を変え自ら、ないしは子孫のもとへと戻ってくる。


それが私だっただけだ。


ただ、私だっただけだ。


命を奪って命を助けてもそれはただの殺しには変わらない。


いずれは罪を償わなければいけない。


その命が私なだけだ。そう悟った。


しかし、私は思う。


あまりにも理不尽じゃないか、と。


何故私なのかと。


死ぬのは嫌だ。


ましてや遠い遠いご先祖様が原因で私は今死ななくてはいけないという舞台に立たされている。


―そんなの、あんまりじゃないか。


唇を噛む。力を込めて噛みしめる。


血が流れるのを感じながら私は悔しさと憤りを感じていた。


「…嫌です。私。」


力を込めて言う。


「私、死ぬのなんて嫌です!このまま、なにも無しに死ぬのなんて嫌です!」


私は零れ落ちる涙を拭わずに言った。


琥珀君は静かに

「そうですか、なら良いでしょう。力になりますよ。誰も何も死ねって言ってる訳じゃ無いんですから。僕になら…僕のこの力があれば、あなたを救う事だって出来ますよ。」

と言った。


「ほ、本当…なんですか?」


涙目のまま、藁にも縋る思いで琥珀君を見つめる。


「本当に助けてくれるんですか…?」


琥珀君は不意に、私の台詞を遮るように尋ねる。


「あなたのお名前をまだ、お聞きしていませんでしたね。」


「私は、私の名前は、たかの。狗辻嵩之。」


鼻をすすりながら私は答える。しっかりと、一音一音を、空気をしっかりと震わせて。


「そうですか、では狗辻さん。」


琥珀君が私へと手を伸ばし言った。


「本物の自分。探そうよ、化け物と一緒に。」


今日ちょっとたくさん投稿しよ

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