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奴隷魔族の転生者  作者: 九重音寧々
第一章 39番の奴隷生活
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三話 王族の来訪

 フランシス王国とは、この世界では四大国家のひとつと誰もが認識している。豊かな森林、豊富な資源、きれいな湖。内陸部の国なので、海は存在していない。

 人間たちも多く、魔族とも共存している。他の三つの国とは中立の立場を取っている。


 表向きの説明はこれくらいにしよう。


 裏ではこの国は、やましいことをたくさん行っている。


 例えば、奴隷の作成。

 例えば、希少動物の乱獲。

 例えば、禁忌魔法の使用。


 そんな後ろ暗いことは、目の前に座る少女は知らない。


 アーヴァ・エンリケスは深く椅子を腰掛けながらため息を吐いた。


 今いる場所は研究所の貴賓室。白一色で統一された研究所にしては珍しく別色が使われている。

 壁は薄い青色。赤いじゅうたんが床いっぱいに敷き詰められていて、壁一面は窓となっている。角には少しでも気品さを出すために、高級な花瓶を配置している。

 中央にはこれまた高級木材とテーブルクロスを使用した机。人数に合わせて椅子が設置されていた。


 この部屋にいるのは四人。


 この研究所局長の白髪の男。

 副局長であるアーヴァ。

 フランシス王国近衛兵団長のラングニル・スエベル。

 そして、フランシス王国現王妃、リエル・フランシス。


 齢14で王妃になったリエルは、二年経った今も王座に君臨している。金色の長い髪をサイドツインにまとめ上げ、翡翠の瞳は好奇心旺盛な色を宿していた。鼻筋は通っていて、唇も薄く艶っぽい。建国以来もっとも可愛い王妃と言われている。王国の紋章の入った白色のローブを身に着けて、威厳を見せようと背筋を伸ばしているのもまた可愛い要素の一つだろう。


 と言ってもリエルは、この国の闇は知らない。純粋な瞳を見ていると分かる。


「先ほどの魔族、一体何だったんですの?」


 最初に口を開いたのは、リエルだった。少し背伸びした物言いだが、声と全然あっていない。


「人間の死体だらけ、女の子の獣人族(ビースト)は襲われていましたし。この研究所はあんな化け物を作っているのですか?」

「いやいや、まさかまさか」


 応えたのは局長だった。顎に手を置いて余裕の表情を見せる。

 彼は王妃のことをバカにしている。フランシス王国が世代交代してから、勝手な研究をし始めたのは彼女ならばれないと高を括っていたからだろう。

 だが、今はその余裕を見せるのは危険だ。


「僕からも一つ良いですか?」

 静かに声を落としたのは、ラングニルだった。


「あの化け物の腹部には36という数字が書かれていました。あの獣人族(ビースト)の女の子には39という番号が。これはこの研究所で管理しているはずの獣人族(ビースト)たちという意味では?」

「……」

「質問を変えましょう」


 ラングニルは腕を組む。瞳には、敵意が宿っていた。


獣人族(ビースト)たちを使って何をしているのですか? まさかとは思いますが、奴隷たちの出所はここじゃないですか?」

「くっ……はははは! 奴隷たちの出所ですと? まさかまさか。ここは、健全な魔力研究所。魔法を通じて異世界の事情を探り、その技術を身に付ける。ただ、それだけの研究所ですよ」


 都合の良い言い回しだ。全く反吐が出るとアーヴァは心の中で舌打ちをする。


「そうですか。今は貴方の言葉を信じましょう」


 ラングニルはあっさりと身を引いた。敵意の宿った瞳を、柔らかな瞳へと変える。

 フランシス王国の王妃は、ことを荒げに来たのではない。その気になれば、外に待たせている兵士たちでこの研究所は制圧など簡単だろう。


 前言撤回だ。この二人はこの国の闇を知っている。深さも知っている。今の現状では味方がだれか敵がだれかも分からないので、手出しできないのも知っている。

 すべてを知ったうえで、この研究所を探りに来たのだ。


 面白い。


 アーヴァは、少し手助けしてやろう。そう思い、身を乗り出した。


「だったら、しばらく研究所の見学でもしていかれますか?」


 局長は何を言っているという顔でこちらを見てきた。そんな顔を無視して、アーヴァは続ける。


「王妃様もラングニル様も、この研究所は無害。そう満足していただけるまで。心行くまでご見学ください」

「何を言う。王妃様たちは忙しい――」

「良いですわね! ぜひ、見学させて欲しいですわ!」


 局長の声を遮って、リエルは手を合わせた。

 口元は無邪気な笑みを湛えている。目は笑っていなかった。

 

「では、僕の部下に近くで野営地を設営するように伝達しておきますね」

「ありがとう、ラングニル。いつも頼りにしていますのよ」

「褒めていただけ、光栄です」


 局長を置いて、話はドンドン進んでいく。我慢ならなかったのか、彼は隣にいたアーヴァの脇腹を肘で小突いた。

 

「一体何を考えているんだ? この研究所でしていることでもばれれば……」

「あら、局長。何かやましいことでもしているのですか?」

 アーヴァの声は向かいに座るリエルとラングニルにも聞こえるような大きな声だ。わざとやっていることは、誰が見ても明白だった。

 

「……別にない」

「そうですよね? じゃあ、私が施設を案内いたしますので、局長は書類職務でも片づけていてください」


 言い返さない。否、言い返せない。

 

 局長にとって、王族の視察などあってもないハプニングだ。もしかしたら、すべてが白日の下にさらされてしまうかもしれない。

 体裁だけを整えて、都合よく追い返すつもりだったのだろう。そんなこと、アーヴァは絶対にさせたくはない。

 

 自分たちは罰を受けなければならないのだ。自分たちが始点にならなければならないのだ。

 

 火を起こす。フランシス王国の闇を晴らすために。

 

 

          ◇

          

          

 39番は自分の部屋でボーっとしていた。何もない白い壁を見つめて、天井を見つめて、壁を見つめる。

 あれから、奴隷たちは事態が収拾するまで監禁されることになった。人が死んだこと。王国の人が来たこと。すべてがこの研究所の人にとっては予想外だったはずだ。これ以上の醜態を晒したくないのだろう。

 殺処分になっていないのは、研究成果の奴隷たちを簡単に殺したくないからってところだろうか。

 

――奴隷たちが監禁されているってことは、王国の人間には内緒なのか?


 白い部屋の中で頭を整理する。元々状況把握は得意分野である。

 

――ということは、この王国の人間が来ている間、私が解放される機会なのではないか?


 手のひらの中を見つめる。黒狐(こくこ)の毛がそこにはあった。39番が気づかれないように拾ったものだ。

 彼は間際に人間性を取り戻していた。

 彼は泣いていた。吠えるように。


 悔しかったに違いない。


――私は、この世界を変えてやる。


 握る。強く。息を大きく吐いた。

 黒狐(こくこ)の毛をさらしのような上着の中に入れる。上着は胸にぴったりとくっついている仕様だ。よほどのことがない限り落とすことはないだろう。


――なら、まずやることは一つだ。


 自分のできることを探るべきだ。今までそんな気力はわかなかったが、思い立つとやる気は一気に沸いてくる。

 身体能力は普通の獣人族(ビースト)より高いと言っていた。ためしに軽く跳躍してみる。軽く天井まで手がつくほど飛べる。拳を振る。風を切るような音がする。回し蹴りをする。軽く部屋の壁に跡がついた。跡はすぐに修復されてしまったが。

 魔法のようなものはあるだろうか。あるとしたら使えるだろうか。

 ちょっと力を込めてみた。お腹に力を入れる感覚だ。身体の奥底で何かが燃えるのを感じた。

 

 途端、首輪のランプが点滅を始めた。やばいと思って力を入れるのをやめる。どうやら魔法の類を使おうとすると、暴動反応になるらしい。


――ということは、私は何らかの魔法は使えるということか。


 どんな魔法なのかわからないが。

 

 しかし、探ってみてわかる。普通の人間よりは強いという自負はある。ただ、典型的な異世界転生のようにチート能力がある感じではない。

 ごく普通の魔族の少女に、無理やり転生させられた。そんな感じである。


 この先これだけでこの国を生き延びれるか。否、無理だ。

 異世界から無理やり魂を連れてきて、奴隷として生み出す者たちがいるくらいだ。この国の闇は深いだろう。


――なんとか、王族に近づければいいのだが。

 せめて使者だけでも。


 しかし、そんな方法があったらすでに実行している。この空間に閉じ込められている間は、口惜しいが何もできない。

 ドアに手を触れる。やはり開かない。簡単に外に出してくれるわけないだろう。


 そう、思っていた。


 ドアは、自動的に右から左へと開く。思いがけないことで体勢を崩す。

 直後、柔らかい感触が、右手のひらを包み込む。


 ん? 柔らかい。


 顔をあげる。そこには、金髪少女の顔があった。少々目が吊りあがっていて、可愛いが生意気といった印象の少女だ。

 彼女の後ろにはアーヴァが控えていた。起こっていた事態に少々驚いたそぶりを見せてから、面白いものを見たとでもいうように口角を吊り上げた。


「やーん、可愛いですわこの娘! わたくし、可愛いものには目がないのです」


 返ってきた反応は、予想をはるかに上回るものだった。

 突然深く抱きしめられる。体全体が柔らかいものに包まれる感触に、39番は戸惑うしかなかった。

 彼女の着ているローブは高級素材を使われているのだろうか。シルクのように肌触りが良い。どこか好奇心旺盛ながらも、気品を感じさせる雰囲気。王族だ。瞬時に理解した。


 ただ、抱きしめられているうえに。顔全体に柔らかくも大きな胸が押し当てられている。これが冷静でいられるものだろうか。


「わわ、あわ、わわわ」


 慌てる。落ち着けと心の中で言い聞かせるが、鼓動は早まるばかりである。


 そうだ、自分は彼女の胸を何回も触っているではないか。女の胸を触ることくらいどうってことはない。それにしても、この娘の胸は、彼女よりも一回り大きいな。いやいや、そんなことを考えている場合ではない。柔らかいとても柔らかい。なんだこの心地よさは。もう少し味わっていたい。あぁ、男としての隠されていた本能が駆り立てられる。いや、まてよ自分は今女ではないか。なぜこんなに慌てている。そうだ女なのだから胸に顔をうずめることくらい普通なことだ。大丈夫だ。慌てるな、まるで自分が初心のようではないか。そんなことはない大丈夫だ。きっとこの大きな鼓動も気のせいだ。そうだ気のせいである。大きく深呼吸すれば収まるはず。あ、とても良い匂いがする。やばい、余計に心臓の音が大きくなってきた。いっそこのまま身を任せるか。いや待てよ、自分はもう何日も風呂に入っていない。身体を洗っていない。もしかして、自分ものすごく臭いのではないか。やばい今すぐにでも離れなければ。もしこの娘が本当に王族なら、印象を悪くしてしまう。そうなるとあとでこの国の立ち回りが。あぁ、何も考えられない。このまま身をゆだねてしまったほうが良いのではないか。


 思考が渦巻く。この間、約三秒ほどであっただろうか。39番にとっては五分ほどに感じられたが。


 少女は、39番から身体を放した。肩に手を置かれて、視線が合う。


「あなた、名前は何ですの? 見たところ狐の獣人族(ビースト)ですわね。尻尾触っても良いですの? 耳がぴくぴく動いていて可愛いですわね」

「あ、あの……」


 助けを求めるように、アーヴァの顔を見る。彼女は笑っていた。完全に助ける気のない顔である。


「それではリエル王妃。この娘でよろしいですか?」

「えぇ、気に入りましたわ。存分に楽しませてもらいます」

「そのように」


 アーヴァが頭を深く下げた。


 王妃。やはり、王族だったか。いや待て、アーヴァどこへ行く?


「それでは、お楽しみください」

「一体、何を楽しめというんだああああああああああ!」


 異世界に来て初めて39番は大きな声を出した。生前よりも高く、透き通るような声だった。

すみません、少し短くなりました(;´・ω・)


明日明後日は私用のため更新できるかわかりません。


ブックマークありがとうございます。とても励みになります(`・ω・´)ゞ

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