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奴隷魔族の転生者  作者: 九重音寧々
第一章 39番の奴隷生活
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一話 神を冒涜するモノたち

 異世界と思われるところに来てから五日経った。体が動くようになるには三日はかかり、そのあと二日は研究所と思われる場所でこき使われる生活だ。

 奴隷なのだから当たり前なのだろうけど。


 ちょっと過ごして、分かったことがある。


 ここは異世界にある魂を、輪廻――転生の女神のもとに回帰――する前に強制的に抜け殻の身体に入れる。そうやって作ったものを奴隷としてこの世界の人間に売買しているようだ。この研究所は出来て間もないらしい。自分で39番ということは、過去に38体しか奴隷は作られていなかったというわけである。

 専門は獣人族(ビースト)の奴隷。人間より身体能力が優れ、学習能力も高い。肉体労働や家事、記憶労働や愛玩用となんでもござれである。獣人族(ビースト)は、メスは人間とはほぼ変わらず特徴的なのは耳と尻尾があるところだろうか。オスは体が毛に覆われており、顔も獣よりとなっている。

 作り方は、低級の魔物の犬型や猫型などを無理やり進化させる。魂は異世界人のものと上書きするという寸法だ。口では簡単に言っているが、そもそもそんな技術は神の領域に抵触する。人間が踏み込んで良いものではない。


 これだけでも、どういう奴らなのか想像はつくだろう。


 39番である自分はなんの因果か、メスの狐の獣人族(ビースト)として無理やり転生させられた。どうやら愛玩用であり、この研究所では丁重に扱われているほうだ。胸はあまりない。目線から察するに、背丈は生前よりも二十以上は変わっている。容姿は確認できていないため分からない。


 愛玩用といえば聞こえは良いが、奴隷なのだからただ愛でられるだけの存在ではないと容易に想像がつく。

 例えば性欲のはけ口。

 例えば暴欲のはけ口。

 可愛がられるということはまずないだろう。ある意味可愛がられるかもしれないが。


 39番は六日目の朝を迎えた。起床ベルで無理やり意識を覚醒させられる。

 目につくのは白い部屋。ドア以外は何もない。ベッドもないため、床で寝ている。

 

 ゆっくりと体を起こす。気だるげに目を開ける。一日のやる気などおきるはずもない。


 服はさらしのような薄い布と、パンツ一枚。着替えはない。ご飯は一日一回で、水とペットフードのようなものだけ。スプーンもお箸もないため、まさしく獣のように食べる。トイレは……分からない。夜寝ている間に処理されているのかもしれない。どのようにされているかは想像もしたくない。


 なだらかな下腹部をなでる。そこには39と刻印されていた。手首には腕輪が付けられている。見る限り、生命維持装置のようなものらしい。脱走用の警報の役目も担っているらしい。

 首にも枷のようなものがつけられている。これは多分、鎮静剤が自動的に投与される仕組みになっているのだろう。暴れた奴隷仲間が、首輪についている青いランプを明滅させてから大人しくなったのを目撃している。

 逆らった奴隷は、まず殺されない。理由は量産できないからなのか、ここにいるやつらが生きているのをいじめるのを楽しんでいるのか、奴隷商に引き渡す商品を減らしたくないためなのか定かではない。


『39番、起きてるんだろ! 早く出てこい!』

 怒号が外から響く。うるさいなと応答するかのように39番の耳がピクリと動く。


 言葉が通じている理由は分からない。まぁ、異世界転生のよくある好都合ってことで解釈することにした。こんなのなら、通じないほうがよかったとも思うが。


 声に従って、ドアに向かう。自動ドアの仕様なのか目の前に立っただけで簡単に開いた。普段は厳重に閉じているのだが。


 ドアの先にいたのは、白衣姿の男。最初にあった男よりはだいぶ若い。

 

 39番の顔を見ると、顔をしかめて舌打ちをする。


「起きてるんならさっさとしろ。俺を待たせるな!」


 顔に向かって平手打ち。頬を抑えて蹲る。

 人間に比べて痛覚はないほうだが、痛いものは痛い。


 丁重に扱われているのではないかって? 他のものに比べては丁重に扱われているだけであって、扱いは奴隷と変わらない。酷いときは立ち上がれなくなるほどお腹を深く蹴られたことだってある。


 男はカルテに目を通して39番を一瞥して、鼻を鳴らす。


「しっかし、お前は不思議だな?」


 珍しく声をかけてきた。39番は不安そうな瞳を彼に送る。


「そんな目をするな。世間話くらい奴隷だってするだろ」

「はい……」

「ふん、まぁ良い。通達だ、あとで検査を受けろ。上からの命令だ」

「はい……」


 また鼻を鳴らして、男は次の部屋へと向かった。ドアの前に立つと、数秒遅れて開く。出てきたのはメスの猫型の獣人族(ビースト)。彼女は虚ろな瞳を男に向けている。

 まるで自分の意思がないように、呆けている。

 

 男が次の部屋、次の部屋と繰り返す。部屋から出てきたのは自分合わせて六匹の獣人族(ビースト)。オスが二匹でメスが四匹である。これで今ここで収容されている奴隷は全部である。

 みんな、元々異世界人だった。どこの異世界から来たのかは39番には知る由もない。もしかしたら同郷もいるかもしれないが、確認する気も起きない。


「ほら、お前ら今日の作業だ! メブリカの収穫すっから夜までには終わらせろよ! 終わらなかったら徹夜だ!」

 メブリカというのはこの世界の果実。見た目はリンゴに近いだろうか。今の時期に旬を迎える。

 研究所のメブリカ園は非常に広い。たった六人で全部収穫するには、一日では終わらない。


 元から終わらせるつもりなどないのだ。性根が腐ってやがると心で舌打ちした。オーバーワークなど、仕事の能率を下げるだけだというのに。

 仕事の内容など関係ない。ただあいつらは奴隷をこき使いたいだけである。精神を削り、自身の優位性をもたせる。理由はそれだけである。


――そんなもの必要ないのにな。


 心の中の嘆息は、ただむなしく消えゆくだけだった。


 前についていくように歩き出すと、39番だけ動きを止められる。


「お前は検査だって言っただろ? 聞いてなかったのか?」

「……聞いてました」

「ならなぜついていこうとする? 聞いてなかったんだろ? 正直に言え」

「…………聞いていました」


 鈍い音が響いた。


 むき出しの腹部に、男の拳が刺さった音だ。肺から空気が漏れ出る。せき込んで、おなかを抱えて蹲った。

 だらしなく開けられた口からは、よだれが垂れていた。


「ご主人様の言うことを聞けないようじゃぁ。奴隷失格だよなぁ! これは、お仕置きが必要かなぁ!?」

 男の声色が怖い。体はいつの間にか床に押さえつけられている。

 

 獣人族(ビースト)のメスでも、人間の男よりは力があるということはこの五日間で理解している。力づくで抜け出すことは容易だろう。しかし、39番はしない。できない。

 逆らったところで、さらなる苦痛が待っているだけだから。


 マウントを取った男は、39番のしっぽを鷲掴む。普段感じないような刺激を受けて、鳥肌が立つ。


「や、やめ……っ!」

「あぁ、やめてほしかったら抵抗して見せろよ」


 できないと分かっていながらこの男は。


 尻尾を触っていた手は段々と付け根に向かう。そのままお尻に向かい、いやらしく揉みこんでいく。39番の吐息が甘いものへと変わっていく。抵抗しようとするが、抗えない。

 男の手つきは慣れていた。きっといくつもの奴隷をこうやって性欲のはけ口にしてきたのだろう。


「ははは、いいなぁいいなぁ。お前、いいなぁ。普段の奴隷は反応ないからつまんないもんなぁ。やっぱり女は反応あってなんぼだよなぁ」


 彼の手がパンツにかかる。

 脱がされてしまう。男に犯されるなんて、元々男の39番にとったら吐きたいほどの屈辱だ。


 助けて。心の叫びは、もちろん誰にもとどか――


「何をしている?」


 ないはずだった。


 凛とした女性の声だった。


 39番の身体を押さえつけていた力が弱くなる。顔をあげると、そこには女研究者が立っていた。

 黒髪ロングの長身長。眼鏡の奥に宿るのは切れ目の目。青色の瞳が、鋭く光る。


「こ、これはアーヴァ副局長!」


 男は慌てて立ち上がる。


「い、いやこれは反抗的な奴隷に、お仕置きをと思いまして!」


 訊かれてもいないのに言い訳を始める。


 アーヴァと呼ばれた女性は、観察するように二人を見比べた。涙目の39番、息を荒げている男。これがお仕置きで行われていないことは明白である。


「ここにいるのは大事な商品。お客様のもとに届くまで、完璧な状態で届けるのが私たちの役目」

「も、もちろん分かっています。だから、完璧に仕込んでおこうかと!」

「お仕置きと穢すのは違う。それをわきまえているのか?」

「わ、わきまえています」

「ほう? なら、今何をしようとした? その娘を穢そうとしたのではないのか?」

「い、いえ! ……はい」


 アーヴァの威勢に負けて、男が萎れてしまった。これ以上反論したところで無駄だと悟ったのだろう。


「どうやら貴様は指導が必要なようだな。あとで私の部屋にこい」

「そ、そんな……」

「反論するな! とにかく今は残った奴隷の監督でもしておけ、良いな?」

「わ、分かりました」


 それだけ言うと男は小走りに立ち去って行った。残された39番は、顔をあげてアーヴァを見つめることしかできなかった。


 数秒見つめたあとだろうか。アーヴァは小さくため息をついた。


「立て」

「は、はい……」


 素直に従って立ち上がる。とりあえず助かったと、安堵する。


「感謝はするな」


 口を開く前に先にくぎを刺された。


「私とお前は、生産者と商品の関係。私情はない、感謝するな」

「……」


 思うところはあった。本当に私情もなく助けてくれたのだろうか。奴隷など何されても問題ないはずだ。

 メリットなくして人助けはならず。メリットのない人助けは、ただの偽善である。


「私は、商品を無事に客のところに届けたいだけ。それだけだ」

 39番の心の声を読んだかのように応えた。もうこれ以上は何も言うな、そういうことだろう。


 アーヴァは踵を返す。数歩歩いてから立ち止まった。


「検査の話は聞いてるな? ついてこい」

「は、はい」


 どうやら検査の担当をしてくれるのは彼女のようだった。数歩ほど遅れるようにして、彼女の後ろをついていく。

 しばらくは会話はなかった。無機質な廊下に二人分の足音が響く。たまにすれ違う研究員は、39番に向けて侮蔑な視線を送ってくる。

 正直耐えられなかった。今すぐにでも叶うならここから逃げ出したい。


「お前は、私たちのことをどう思う?」


 静寂を裂いたのは、アーヴァのほうからだった。


「どう……思うとは?」

「そのまんまの意味だ。お前たちを作った私たちをどう思うってことだ」


 しばらく考える。正直に答えて良いか悩んでいると、彼女が良いと促してくれた。


「怖い……です。正直、人間じゃないと……思います」

「そうだな。奴隷からしたらそう思うだろう。当たり前だ。しかし、私たちはほかの人間に比べて、もっと怖いところがある」

「……?」

「神を冒涜しているんだよ。転生を司る女神を差し置いて、私たちは異世界から魂を引っ張ってきている。もうすでに死んだ人間。他の世界の人間。だから、自由に使っていい。そう、歪んだ解釈をして、世界の理から外れている」


 彼女は告げる。


「私たちは“モノ”だ。人間ですらない、心を捨てた“モノ”。今は奴隷を生成するだけで済んでいるが、このままいけば大いなる禁忌に踏み込んでしまうだろう」


 アーヴァの口調は淡々としている。まるで何の感情も宿ってないかのように。


「……いや、すでに禁忌には踏み込んでいるだろうな。とにもかくにも、私たちは碌な死に方はしないだろうさ」


 その一言だけ、声が揺らいだような気がした。

 部下の心うちも知らずに殺された39番にとっては、人の心を読むことなど苦手分野だ。彼女が何を想って言ったのか、見当もつかたない。


「よし、ここだ。39番、今からお前に特別な検査をする」


 ある部屋の前に立ち止まり、彼女は事務的に伝えた。

 本格的に物語が始まりました!(`・ω・´)ゞ

 奴隷って題材で、シリアスになりがちです……(;´・ω・)


 どうにか、その要素を段々と払拭していけたらなと思っています。


 気に入っていただければ、ブックマーク、感想などお願いします。とても励みになります。


 更新は毎日の予定ですが基本的にマイペースに進めていきます。一日一回のときもあれば二回の時もあります。更新ない時は、さぼったなこの野郎って思ってくれれば大丈夫です。


 誤字は仕様。暖かい目で見守ってやってくださいな(;´・ω・)


 作者は女体化が好きな変態野郎です(´・ω・`)

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