8話
お待たせしました。お待たせしたのに今回は短めです。申し訳ない……。
8話
––時は同じくして場所は変わり、ウルジオ帝国帝都、冒険者組合統括本部、冒険者組合総長室。
その部屋の中で赤髪の女性がソファーに腰掛け、目を閉じて休んでいた。
「……可愛いものを愛でたい」
憂げな声色で赤髪の女性がポツリと呟いた。
その次の瞬間、彼女の目がクワッと開き、綺麗にまとめ上げられていた髪を自らの手でグシャグシャにした。
「本当、何だこの世界は!娯楽がない、可愛いものがない。そしてなによりも、可愛いものがない!!」
ダンッ!と手を机に向かって叩きつけた。
普通ならば女性の方が手を痛めるはずなのだが、彼女は普通ではなかった。
手が叩きつけられた場所を起点としてヒビが入り、大きな音を立てて机は真っ二つに折れてしまった。
「……やばっ」
机の大破する音を聞きつけたのか、どたどたどたというこちらに向かって走ってくる足音が女性の耳に入った。
女性はすぐさま乱れに乱れた髪を整えて、表情を仕事モードに切り替えた。
「––大きな音が聞こえましたがってえぇ……」
扉をあけて部屋へと入ったのは小柄な女性。
薄茶の髪に同様の瞳。肌は健康そうな白色で、耳は少しだけ尖っている。
そう、彼女は技術人族だ。
そんな彼女は大破した机と如何にも真面目そうな雰囲気を纏っている赤髪の女性を見て、またいつものアレか、とため息を吐いた。
「……鉱岩竜から採れる大理石から作られた机だったんですが……」
「すまない。私の個人資産から引いておいてくれ」
「それは当然ですが、いったいどんな力をしていればコレをこんなに大破させられるんですか……」
茶髪の女性が赤髪の女性をジロリと睨むと、赤髪の女性はスッと目を逸らした。
「……まあ、怪我がなくてよかったです。それではこれを片付けて置きますね。……次はもっと丈夫な机を取り寄せて置きます。そのときまではソレ、抑えておいてくださいよ?冒険者組合総長さま」
茶髪の女性はそう言うと、ひょいひょいと机の残骸を拾い上げて、部屋を退出していった。
「……いつもすまないな……と、ん?」
気が抜けたように笑った彼女の耳に、ブー、ブーという何かが振動する音が入った。
すかさず自らの胸ポケットから電子チップのようなものを取り出して、耳に装着した。
『あー、あー、こちらルーシュ・ドーラ。チトセさん、聞こえてますか?』
どちらかといえば中性寄りな男性の声。
何よりも自分が、六ヶ月前より聞きたかった声だ。
チトセは嬉しさのあまりか、足をばたつかせてはしゃいでしまっていた。
『こちらチトセ、聞こえているぞ。––ようやくか!お前の報告、待ちわびていたぞ!さあ早く話せ!』
チトセに急かされるまま、通信相手であるルーシュははいはいと言って話し出す。
『僕の潜入した闇組織ですが……やはり邪人と繋がっていましたよ。貴女の睨んだ通りですね』
『それで、肝心の情報は掴んだのか?』
『ええ。他にも邪人と繋がっている組織、貴族の情報は掴みましたよ。……いま情報を送りました。貴族は異端審問官に任せて、裏組織はエネドラ、僕、貴女で殲滅しましょう』
『ふふっ。久々に血がたぎるな……!』
『そうですね––。と、一番手強そうなところを貴女に任せます。いいですか?』
『任せろ!』
『……ありがとうございます。––では、突入は今夜二十三時から。それまでまた––』
プツリと音を立てて、通信機の回線が切れた。
チトセはそれを胸ポケットにしまい、立ち上がって大きく伸びをした。
「さーて、久々の大仕事だ。あぁ、楽しみだなぁ」
彼は一番手強そうな敵を自分に任せると言った。
彼が手強いということは、それなりに強いということだ。
チトセはまだ見ぬ敵に想いを馳せて、楽しそうに笑うのだった。
(ついでに良い人材が拾えたら今後が楽になるな。……とくに、情報収集が出来る影となる存在が。冒険者ギルドにとっても、私たちにとっても)
「……おじさん。串焼き、一つ」
活気溢れる帝都の大通りを、様々な視線に晒されながらのんびりと歩いていると、美味しそうな串焼きが目に入ったので買った。
ロックバードの串焼きとかいう名前で、おそらく魔物の肉が使われている。
「まいどあり!銅貨三枚だ」
オレはダミーのカバンに手を突っ込み、その中にある影から銅貨を三枚取り出して、おじさんに手渡す。
「オマケでもう一本つけとくぞ!嬢ちゃんえらい別嬪さんだからな!」
おじさんはニカッと笑い、串焼きを一本追加して二本もくれた。
うん。容姿が整ってるとこういうことがあるからいいね。
下劣な視線さえ無視すれば、良いことしかない。
オレはおじさんにペコリとお辞儀をしたあと、広場に出てその中央にある噴水の縁に腰掛けた。
そしてゆっくりと味わうように、串焼きを食べる。
その柔らかな肉を噛みしめるたびに、熱々の肉汁が溢れ出てくる。
タレは果物を使っているのか、ほのかな甘みと酸味があり、より肉の味を引き立てている。
一言で言うと美味しい。金貨一枚払っても良いくらいの美味しさだ。
二本目の串ももっきゅもっきゅと食べ終わり、清潔なハンカチをダミーの鞄の中から取り出して口を拭く。
……シドから休む時間をもらったとはいえ、食べること以外することがないな……。
オレはハンカチを影にしまい、再び歩き出した。
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