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7話

7話



時が経つのは早いもので、オレがシドの護衛についてから6ヶ月が経ち、ついに仕事の最終日になった。

オレは今、彼が副隊長を務めている組織「赤蜥蜴」の副隊長室––つまりシドの部屋で、机を挟んで彼と向かい合っている。


この6ヶ月間で、本当に色々なことがあった。

まあそのおかげで、たくさんの知識や技術を学び、会得することができた。


まずはこの世界についての知識。

貨幣の種類や地理、あとは冒険者ギルドやこの国––ウルジア帝国やその周辺国の裏事情を知った。


貨幣について認識はオレの推測通りだった。

ただ、白金貨の上に黒貨という一億円相当の貨幣があった。

なぜ知っているのかというと、まあそれを持っているからだ。

〈影分身〉と呼ばれる〈影魔法〉が使えるようになったため、護衛しながら他の仕事もできるようになったのだ。


それでまあ、いくつかの暗殺依頼を受けたのだが……、その報酬が異様に高かったのだ。

だいたい白金貨三十枚を超えていて、なにやらこの国の王弟の暗殺を依頼された時なんて、黒貨一枚を支払われたのだ。

あの時は何か裏があるのでは?と思ったが、この国の暗部に入らないかと誘われただけで、特になにも起こらなかった。


……まあ、その時のことについては暇があれば話すとしよう。


さて、国の裏事情はどうでもいいとして……、冒険者ギルドについてだな。


これはまあ、いわゆる何でも屋だ。

ありとあらゆる者から依頼を受けて、それを社員––ギルド員に仲介する。

まあとても大規模な派遣会社とでも思っておけばいいと思う。


その派遣社員たちは実力や実績に応じてランク分けされていて、それもF〜Aまである。

ランク分けは二ヶ月に一回行われる、ランク対抗戦よって上下する。

それに加えて、Sランクと呼ばれている化け物もいる。

なぜSランクが化け物と呼ばれているのか。その理由は、この世界に「魔物」と呼ばれる生物がいることに起因する。


冒険者はときに、「魔物」と呼ばれる生物を殺さなければならない。

何故ならば魔物は人や人の生活圏に害を与える、全人類共通の敵であるからだ。

しかし魔物もピンからキリまでいて、Fランクモンスターと呼ばれるとても温厚なミニスライムもいれば、Sランクモンスターと呼ばれる国に厄災を齎す、重魔竜ベヒーモスもいる。


Sランクモンスターは厄災、つまり自然現象に等しい。

それに対抗するには、それらと同等の力を持つような人間––つまり、特殊魔法を持つ人々に頼るしかない。

それが、Sランク冒険者と呼ばれる者たちだ。


オレの知っているSランク冒険者は二人。

どちらも遠目から見ただけだが、一人目はエネドラ・シータイト。

高身長の男性で、偏見で悪いが粗暴そうな顔つきをしていた。

二人目はチトセ・アララギ。

燃えるような赤髪に、強気そうな真紅の瞳。

まるで恐れるものなしと言わんばかりに、いつも楽しそうに笑っている。

そして何と彼女は、全世界にある冒険者ギルドの、冒険者組合総隊長(グランドマスター)なのだ。


使用する魔法は不明だが、どちらもとんでもない実力、そして魔素を内封していた。

できれば戦いたくないと思ってしまったほどだ。


知識についてはこれくらいで、次に技術。

オレがこの六ヶ月間で会得したものは、まずは気配の隠蔽だ。

〈殺しの天才〉のおかげか、とんでもない速度で上達した。

オレが目の前にいても、誰も気づかないレベルにまで。

とんでもない能力になった。


次に物の扱いだ。

率直にいうと、オレはどんなものでも武器として扱えるようになった。

これもとんでもない能力だ。


あとは––そうだな。

〈影魔法〉を第一階位まで使えるようになった。

もちろん、付与も使える。


そして何よりも、重宝しているのが、相手の力量を見抜く力だ。

技術的な面と魔法的な面。

その総合力と比較を見抜けるようになった。


––さて、振り返りはこれくらいにしてと。


「––護衛の依頼は今日をもちまして終了です。今までお疲れ様でした。こちらが報酬となります」


そう言ってシドは、スススッとこちらにアタッシュケースを十箱ほど寄越してきた。

認識できる魔素量からして、一箱につき白金貨100枚ほどだろう。


それにしても、シドはこんな莫大な金を一体どこから持ってきているんだろうか。

組織の金に手を付け入るようでもなさそうだし……。気にするだけ無駄か。


「……たしかに、受け取った」


アタッシュケースを全て〈影収納〉で影空間に仕舞い、影の〈魔装〉を纏う。


「で、誰を殺せば?」


シドは六ヶ月前、以来の最終日にある人物を暗殺してくれと言っていた。

……まあ、誰を殺すのかなんて大凡予測はつくのだが。


「ええ。もう既にわかっていらっしゃるようですが……。この組織の長であるヒューバを暗殺してもらいたいのです」


ヒューバ・ベリア。

この組織の2代目頭領であり、知性の持つ部下たちからは親分と呼ばれ慕われている。


かくいうオレもなんどもお世話になった。

本当に何で闇組織のトップをやっているのか、そう思ってしまうほどの人だった。


適性のある魔法は土。

第五階位まで使えて、何と自分の体を金属に変質させる特階位の魔法まで使えるのだ。

それに加えてしっかりと身体も鍛えられていて、魔法なしでもそこそこ強い。


「わかった。何時頃に殺す?」


普通の人なら、ここで戸惑ってしまうのだろうか。

自分に対して世話を焼いてくれた人を殺めなければならないという事実に直面して。


オレの無感情な返事を聞いたシドは、苦笑しながら冷や汗をかいていた。


「本当に、あなたはとことん利己主義ですね。雇い主である私も、いつ貴女に牙を剥かれるか気が気でありませんよ」

「雇い主、は、裏切らない、よ?」

「つまり契約が切れる明日以降はどうなるか……でしょう?」

「……」


返答に困ってしまったオレは、わずかに首を傾げて黙り込んだ。


……まあ、依頼されたら殺すんだろうな。


「……まあ、その時はその時ですね。––殺害時刻は今夜の二十三時五十九分にお願いします。それから、私の護衛はもう大丈夫です。その時間までは、休憩時間にでもしてくだしい」

「……わかった」


よほどひどい時でない限り、依頼主には口答えしない。

ただ、課せられた仕事を淡々とこなす。

それが暗殺者業界の鉄則らしい。


というわけでオレは、魔装を解き彼の部屋を後にした。









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