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5話

ブクマ、評価ありがとうございます。

5話



「……〈魔装(エーテルコート)〉、起動」


すると周囲にあった建物の影や自分自身の影が伸びてきて、オレの目元以外を真っ黒に染め上げた。


「……ふむ」


一言で言うなら全身タイツ。物凄くダサイが、暗夜行動には向いている格好だとは思う。

動きを阻害するようなものもないし、武器も自由自在に取り出せる。

……まあ、見られたら通報されそうだが。


さて、外見に対する愚痴はこれくらいにして、性能確認といこう。


オレはこの場で出来うる様々な魔法や、身体能力の確認を時間をかけて行った。



––気がつくと日は沈み、月が顔を出していた。

日本とは違い空気がとても澄んでいるようで、満点の星空が目に入った。


「……」


オレははぁ、とため息を吐いて、やってしまったと反省する。

何故ならば––オレの周囲一帯が更地になっているからだ。


ついでに言うと、オレの後ろには十五人ほどの死体が積み重なっている。


……いや、うん。反省はしてるよ?能力を試している時に襲いかかられたから殺しちゃっただけだし。

防御面を確認できる!って嬉々として戦いもとい蹂躙したのは間違いないけど。


うん。過ぎたことは戻らないし、気にしなくても問題ないか。

オレは気持ちを切り替えて、たった今死体の山の隣に現れた男に視線を向けた。


これまで殺してきたものとは違い、男はきちんとした武器を携帯していて、上等そうな服で身を包んでいる。

そしてなによりもこの男は、こちらに殺気や吐き気を催すような視線ではなく、興味深いものを見るような視線を向けてきている。


「……なに?」


目を細めて男を見る。

すると男は一瞬だけ身を見開いて、ふっと笑みを浮かべた。


「これは失礼。私の名前はシド。とある組織の副隊長を務めさせていただいています」


そう言うと男––シドは優雅にお辞儀をした。


なんというか、胡散臭そうな人だな……。

動作がいちいち芝居掛かっているからか、そんな印象を抱いてしまった。


「貴女様のお名前をお聞きしても?」

「……シン」

「シン様ですね。今後、そう呼ばさせていただきます。––ところで、そちらの男たちを殺したのはシン様でしょうか」

「……うん、そう。なにか、問題、ある?」


こてんと首を傾げて聞くと、シドはより一層笑みを深めて、


「いえいえ!とんでもない。それらは私の組織の脱走者でして、こうして私が駆除に来たのですよ」


と言ってきた。


……ふーん。私の組織、ね。さっき自分のことを副隊長って言ってた気がするけど。

……出世欲が強いのか、はたまた嘘をついているのか。

まあコイツがオレに嘘をつくメリットはなさそうだし、前者か。


「……なら、これ持ってって、いい、よ?」


死体を指差してシドに告げる。

こちらでも処分は可能だが、正直言ってそのために使う魔素がもったいない。

これを回収してくれるならば、こちらとしても都合は良いのだ。


「おお、それではお言葉に甘えさせていただきますね」


シドが死体の山の一部に右手をかざした。

すると彼の右手の人差し指にはめられている指輪が一瞬発光したかと思うと、死体の山が綺麗さっぱり無くなっていた。


おそらくあの指輪には〈収納〉が付与されているのだろう。


付与––それはどの魔法にも存在する、第三階位の高等技能だ。

魔素に物質体を与えて現界させるのではなく、もともと存在する物質体に魔素を与えて魔法の効果を現実に及ばさせる。


なにやら魔素には体外に出すと個体、液体、気体のいずれか––つまり、物質体になろうとする性質があるらしく、第三階位となっているが実際に扱える人はほとんどいないらしい。


……なにがいいたいのかと言うと、あの指輪に〈収納〉が付与されているということは、この世界にはやっばい〈空間魔法〉使いがいるということだ。

警戒する理由は今の所ないが、一応気をつけておこう。


「ふふ、驚きましたか?実はコレ、私の師匠から頂いたものなんですよ」


シドはニコリと笑いながら指輪を見せびらかしてきた。

しかし〈影収納〉を支えるオレにとっては、さして珍しいものでもなかった。


うーん、面倒臭くなってきたからコレ殺していいかな?


「どうです?これが欲しくありませんか?」

「いらない」

「そうでしょう?欲しいでしょう。私のお願いを……何て?」

「……いらない、って、言った」


この人耳が遠いのか?二度も同じことを言わせるなんて。

オレは軽くため息を吐いてシドを半眼で見つめる。


彼はまさか断られるとは思っていなかったのか、目を見開いて口をパクパクさせていた。

……まるで餌待ちの鯉みたいだな。


「……な、え……はぁ?!いや、伝説級のアイテムといっても過言ではない〈収納〉の指輪ですよ?!いらないんですかッ?」

「……いらない。似たようなの、使える」


オレがそう言うと驚愕の表情が一転し、一瞬にして胡散くさい笑みに変わった。


……コイツ、狸か!


「ふむ。似たようなものを使える、ですか。となるとあの魔法は空間に類するもの……まあ、特殊魔法(ユニークエーテル)には変わりないでしょう」


シドはどうです、合ってますか?とでも言わんばかりのこちらに向けてきた。


……どうやら彼は狸な上に断片的な情報から正解を導き出せるほど、知識を持っているようだ。……ここで殺しておくべきか?


オレはスッと短剣に手を伸ばし、そのまま引き抜いて彼に向かって投擲した。

当然のごとくそれを避けようと彼は身体を少し横にずらした。


「……死ね」


彼の死角から、幾十もの影を鋭利な刃物のように鋭くして伸ばした。

普通ならば避けられる筈はない。

何故ならば人間は草食動物とは違い視界がそこまで広くない。意識外からの攻撃には弱いのだ。


オレはシドが影の刃に貫かれたと確信し––即座にその場から飛び退いた。


殺気。

命に危険を感じてしまうほどの濃密な殺気。


それが、シドの身から放たれていた。


「そんなに、殺気立たないでくださいよ。私はただ、シン様にお願いがあるのです」


微塵も変わらない笑顔でシドはそう言った。

それが逆に恐怖感を際立たせ、こちらを戦慄させる。


……どうやら影の刃は全て防がれてしまったようだ。

まるでオレの制御下から離れてしまったかのように、反応が全て消失していた。

警戒心を強め、影を用いて回収した短剣に力を込める。


……二割くらいの力じゃなくて、今度はしっかりと六割くらいの力を出そう。


そうしてオレは彼に向かって斬りかかろうとして––ぐうぅぅぅぅと、お腹が大きな音を立てて鳴った。……オレの、お腹が。


「…………」

「……夕食を奢りますので、私の話を聞いてください」

「……(こくり)」


さすがに食欲には勝てなかったオレは、その言葉に首を縦に振り、シドについていくことになった。






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