3話
3話
「そ。簡潔にいうと君は死んだ。その魂を私が拾って異世界に送り込んだ。色々と特典をつけて」
恐らくソフィーは今ドヤ顔を決め込んでいるに違いない。雰囲気でだいたいわかるのだ。
だがあえて言わせてもらおう。意味がわからんと。
「……意味不明」
「……え?」
その言葉にソフィーは困惑気味の声をあげた。
「え、異世界転生だよ?最近の若者は皆んな知ってるでしょ?!」
「……なにそれ」
あいにくとオレは孤児だった。しかもあまり裕福とは言えない孤児院で育ったのだ。
学校に行かせてもらうのに精一杯で、最近の若者みたく遊び呆ける時間はないのだ。
孤児院の為にバイトをして、その合間に勉強だ。
……それにしても、さっきから途切れ途切れにしか喋れなくなったような気が……。
「ああ、それは私がやった。後悔はしてない(キリッ)––それにしても、異世界を知らないか……。うん、まあ大丈夫かな」
ソフィーは声に若干落胆の色を滲ませてそう行ったが、すぐに気を取り直してなぜかふたたびオレを抱きしめてきた。
そして––オレの頭を撫でてきた。その瞬間、オレの全身に甘い痺れが走った。
「ッぁ?!ッひぃぁッ?!」
未知の感覚にオレは思わず声を上げてしまった。しかしソフィーはお構いなしに何度も何度も優しく頭を撫でてきた。
「……ッ!!ぅ、ひッ?!ッ……!ぁぅ……」
足腰にうまく力が入らない。さらになんだか頭がフワフワしてきて、思考がうまくまとまらない。
目がチカチカして、頭がクラクラして、それなのにそれが心地よくて、なんだかおかしくなっちゃったみたいだ。
「……ハッ!反応が凄すぎてやり過ぎてしまった。……堕ちてない?大丈夫?シンくん、しっかりして!」
「ふぇ……?」
目の前にあったのは大きく真っ赤に輝く瞳。まるでルビーをそのまま瞳にしたかのような感じで、とても美しかった。
……ってちょっと待て。さっきまでオレはどうなっていた?
オレは無理やり彼女の腕の中から脱出し、地面に降り立った。
「……お前。私に、何した」
警戒しつつソフィーを半眼で睨みつけると、彼女は申し訳なさそうに目尻を下げて、頰をぽりぽりとかいた。
「いやー、うん。そのことについて説明する為に実際体験してもらったんだけど、ついやり過ぎちゃった!てへぺろっ」
「……死ね」
美人のてへぺろに不覚にもドキッとしてしまったが、それは秘密だ。幸いにもオレの表情筋はすでに死んでいるようで、それが表に出ることはなかった。
「こほん。……身をもってわかったと思うけど、今のも君の能力だ。まあデメリット方面のだけど」
「……スキル?」
スキル……、つまりオレの力ってことか。頭を撫でられたら気持ち––じゃなくて、頭がふわふわしてくる能力って、ただの足枷じゃないか……。
「そ。だから今みたいなのになりたくなかったら誰にも頭を触らせないようにね。––さて、だけどその能力はあくまでも付属品だ。強力なスキルを得るにはそれ相応のデメリットがいるからね」
そう言ってソフィーは一目見れば誰でもわかるとても大きなお山の間から一枚の紙を取り出して––
「……破廉恥」
「いやフリだよ?!君のツッコミを待ってたんだけど?!」
いや、うん。きっと健全で普通な男子高校生ならきちんと反応してくれるだろう。
しかしオレは女になった挙句に、殺人童貞を卒業してしまった普通とは言い難い男子(?)高校生だ。
男として情けないが、うん。それをみても特に何も感じなかったのだ。……ハッ。これはマズイ。まるで男じゃなくなっちゃったみたいだ。
「結局ツッコミ入れてくれないのね……。まあいいや。はい、とりあえずこれ見て」
ソフィーは先程取り出した紙を広げてオレに手渡してきた。
そこには、こう書かれていた。
〈シン・シナナギ 性:女 年:? 種:人間
《贈答能力》
【殺しの天才】【快楽殺人者】【頭部感度上昇】【不老】 〉
さて、ちょっと神様。あっちの建物の陰で少しお話をしようか。
オレは笑みを浮かべてソフィーの手を取った。因みにそれを口に出そうとしたらこうなった。
「……大丈夫。痛みは一瞬」
するとソフィーは顔をしかめて大きく溜息を吐いた。
「……はあ。仕方ないじゃないか。普通は転生する前に私のいる場所––転生の間に来るはずなんだよ?それなのに君はそれをすっとばして……。気付いた時には色々とマズイ状況になってて、それを切り抜けられる力を与えたらそれになったんだから」
「……」
そのソフィーの言葉に、オレは何も言えずに黙り込んだ。たしかにこの能力がなければオレはアレらを殺せずに強姦されて、そのまま死んでしまっていただろう。
文句を言えるはずがない。……まあもともと文句なんてないのだが。物騒なスキル名に、ちょっとツッコミを入れたかっただけだ。
「うん、名前に関してはすまないと思っているよ?けどこれは私の管轄外なんだよね。––さて、話を戻して、この四つの能力について説明するね?」
「……(こくり)」
「まずは【殺しの天才】から。これは「殺しにおいて、誰よりも才能を発揮する」という能力だ。主に殺しに関する技術の獲得補正、そしてその能力の向上などかな」
例えば、と言って彼女はそこら辺の石を拾い上げて、粉々に砕いた。
「これは腕力の強化。––とまあ、大抵のことなら【殺しの天才】の効果範囲内だ。……で、これについて来たのがさっき君が体験した【頭部感度上昇】だ。まあ名前の通りの効果だね。頭が性感帯にでもなってしまったとでも思っておけばいい」
……つまり、頭を撫でられるのの他にも、櫛で髪を解いたり、髪を洗ったりとかもやばいってことか?
「まあそういうことだね。耐えれるなら大丈夫だけど。……さっきの君を見る限り無理そうだね」
それを聞いてオレは、誰にも頭を触らせないようにしよう。そう心に誓うのだった。
「次に【快楽殺人者】について。これは殺人に対する忌避感を無くしてくれる祝福さ。まあその代わりに感じちゃうものもあるけどね。……最低限の制御はできるようにしておいたから問題ないと思うけど」
祝福というより呪いのような気がするけど、まあこれがあるお陰で抵抗なく人を殺せたし別にいいか。
心の底から湧いてくるこの感覚––「殺人に対する歓喜」さえ制御できれば、デメリットはないのだ。
「で、これに付属して来たのが「不老」。名前の通り君は老いなくなる。詳しく言うと、君の身体の細胞が劣化しなくなる。病気にもかからなくなるし、あ、筋肉は鍛えればムキムキになるから安心してね」
……つまり、老衰や病気で死ぬことはなくなるということか。
デメリットの能力のようには見えないけど、何か裏があるのだろうか。
……まあ、それはおいおい調べるとしよう。今考えても仕方がない。
「……理解、した」
「なら良かった。あ、あと君の身体能力もいくらか上昇しているから。多分成人男性の10倍以上かな?頑張って制御してね」
なるほど。だからあんなにも簡単に首を刎ねれたし、頭を爆散させちゃったのか。これは制御に苦労しそうだな……。
オレは自分の手を見る。男性とは違い、柔らかそうな手。
どこからあのような力が生まれているのか……、スキルによるものではないようなので何か特異な方法で強化されているのだろう。
……やはり気にするだけ無駄か。
「それじゃあ、私の伝えることは全て伝えた。……君から何か聞きたいことはあるかな?」
オレはお言葉に甘えて、いくつか気になることを質問することにした。
ブクマ、評価ありがとうございますorz