9話
頭を……、頭を撫でられてちょっと他のこともされただけだから……。
きっとセーフだと、思います。
警告来たら修正します(^p^)
9話
時間は過ぎて夜の二十三時五十分。
オレは魔装を身に纏い、影の中に身を潜ませていた。
影の中はとても快適で、寒くもないし暑くもない。黒一色で味気ないと言う点はあるが、それは慣れて仕舞えば問題ない。
腰に差してある短剣を引き抜き、頭の中で何度も標的を殺すシュミレートをする。
ついでにそれに合わせて、短剣も振るう。
音はしない。なぜなら影の中には空気が存在しないため、振動を伝達するものがないからだ。
オレがここで生きていられるのは、この魔装のお陰だと思う。
……さて、そろそろ時間だな。23時58分55秒、56秒、57秒、58秒、59秒。
そして––
「……ゼロ」
瞬時に影空間から飛び出し、標的の首があるであろう場所に短剣を投擲する。
避けられても殺せるように、影の針を標的の全方位に展開する。
つかのまに短剣は標的の頭に刺さらずに通過して、奥の壁に突き刺さったが、影の針は標的をずったずったに引き裂いた。
……おかしい。短剣は外れて奥の壁に突き刺さっているのに、どこにも首がない。
目を凝らして辺りをよく見てみれば床は血で真っ赤に染まっていて、その鉄臭さに思わず眉をひそめてしまう。
血の乾き具合からして、殺されてからまだそれほど時間は経過していないようだ。
……うーん、こう言う場合は依頼達成ってことでいいのか?殺したのはオレじゃないけど、標的はすでに死んでるし……。
ほんの少しだけ思案してみたが、別にオレが殺していなくても標的が死んでいることには変わりがない。
……よし、達成ってことにしておくか!
オレはそう結論づけて、奥の壁に突き刺さっていた短剣を引き抜いて、そのままこの部屋の出入り口の扉に向かって投擲した。
わずかな呼吸音。【頭部感度上昇】のスキルによる聴覚の異常発達のお陰か、それに気づくことができた。
「……だれ?」
「ははははは!!これはたまげた。まさか野良の暗殺者が私に気がつくか!……欲しいな」
扉をあけて笑いながら部屋に入ってきたのは、赤髪赤眼の女性だった。
あのいつか見た、冒険者組合総長にそっくりな見た目。強さはオレと同等、あるいはそれ以上と視えた。
「……なぜ、チトセ・アララギが、ここに……!」
完全な想定外だ。まさかこんなところでチトセと遭遇するなんて思ってもいなかった。
オレは影から取り出した短剣を握る手に力を込めて、彼女を警戒する。
「お?裏でも私は有名なのか。––よし、決めた」
「……?」
チトセはニカリと笑い、こちらに右手を差し出してきた。
「––私のモノになれ。ちょうど能力のある「影」が欲しかったんだよ」
「……依頼?」
「いや、依頼じゃないぞ?命令だ。私のモノになれ」
オレは彼女を半眼で見つめて、ため息を吐いた。
……何を言っているんだコイツは。そんな命令、聞くはずがないじゃないか。
それに何様のつもりだよ。……いや、冒険者組合総長さまだったな。
オレは嘲笑を浮かべて––表情筋は動いていないが––首をコテンと傾げてこう言った。
「……バカ、じゃない、の?」
「そうか。それなら力ずくで従えるとしようか」
すると彼女の顔からふっと笑みが消えて、真剣な表情へと変わった。
そして彼女がボソリと何かを唱えようとして––オレは影の中に身をトプンと沈めた。
そのまま影の中を通り、オレはチトセとの戦闘から逃亡する。
……いやだって、うん。勝てるかどうかわからない戦いに身を投じるなんて、そんなバカバカしいことするわけないじゃん。
それにお金にもならないし、オレが得意なのは正面からの正々堂々のような戦闘じゃなくて、暗殺だ。
見つかっていた今、こちらの部が悪すぎる。だから、逃げたのだ。
『おいおい、逃げるのか?』
「……当然。勝率が、五分五分の、戦いなんて、でき……な?」
オレ以外入れないはずの影空間で、オレ以外の声が聞こえた。
おそらく念話の類だと思うが––オレはとっさに背後に振り向こうとして、突然何者かによって影空間から無理やり引っ張り出された。
「……は?」
呆然として辺りを見回す。
目の前には首がなくズタズタになった死体が転がっていて、家具の残骸のようなものも散らばっている。
ヒューバの部屋?なんで、オレがここに……。ってことはチトセが!
そこでようやく、何者かがオレのシャツの襟を掴んで、オレを宙に持ち上げていることに気がついた。
「……?!魔装、が……?」
体内に魔素はまだ八割以上残っている。
それにもかかわらず、何故か魔装が勝手に解けてしまっていた。
しかも、起動することができない。ということはつまり……
「魔素の動きが、阻害されてる……?」
「正解。よくわかったな」
オレの耳元から女性の声が聞こえた。チトセの声だ。
オレはびくんと反応しそうになる身体を無理やり意志の力で押さえつけて、ことなきを得た。
待てよ。ということはオレはチトセに持ち上げられているということか?
……うん、非常にマズイぞ。
「––私の特殊魔法は〈魔法殺し〉というものでね、私が触れたものは魔素の活動が停止してしまうんだ」
つまり、肉弾戦には弱いということか?……いや、仮にも彼女はSランクだ。肉体的にも鍛えられているはず。
え、なに。オレもしかして詰んだ?
「それにしても、あのダサい全身タイツの中身がこんなに可愛い子だったなんてな……」
そんか声が聞こえた瞬間、不穏な気配を察知したオレは全力で彼女による拘束から脱出しようとして––
「ああ、もう無理だ!我慢できない!!」
そう言ってチトセは抵抗するオレを無理やり抱きしめて、あろうことか頭を撫でてきた。
「–––––ッ?!頭なで、ぅあッ?!」
「ああ、この手触り……。ぬいぐるみみたいでいいなぁ……」
まるでお気に入りのぬいぐるみを愛でるかのように、恍惚とした表情で彼女は何度も何度も頭を撫でてきた。
その度に頭から全身に向かってとてつもなく甘い痺れが走り、身体がびくんと反応する。
段々と視界がぼやけてきて、頭がふわふわしてきた。
「ひ、ぃぁッ?!あた、ま、なでにゃッ!!ひ、ぅ……」
「ふふっ。なにその反応。頭撫でられて気持ちいいのか?」
「ち、が……?!ッ–––?!」
否定しようと口を開いたその瞬間、滑りとした何かが私の耳に押し当てられた。
「ひぃッ?!ダメ、それだめぇッ?!あ、い、ぁッ?!あ、み、みィッ?!」
ぺちゃっ、ぴちゃっという湿っぽい音が耳に入ってくる。
その度に身体がびくびくと痙攣し、なにも考えられなくなってしまう。
スキルのせいで極限まで高められた頭部の感度。そこを執拗に撫でられて、そして舐められて–––耐性のないオレに、耐えられるはずがなかった。
私には表現力が……足り、ないorzガクッ