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不器用な男

作者: 改革開花


 とある所に、一人の大名さまがいました。

 その大名さまは動物が大好きで、いつでも屋敷の中はにぎやかです。

 そんな大名さまの楽しみは動物との散歩。今日は犬を連れて町に行きます。


「おいおい、あまり走ってはならんぞ」


 犬も大名さまと散歩が出来て嬉しいのでしょう。あちらこちらへ走って行っては、大名さまに呼ばれ足元に戻って来るのを繰り返します。大名さまもその元気ぶりに笑顔を浮かべていました。

 ふと、犬が止まりました。あれだけ忙しなかった足を止め、じっと何かを見ています。

 大名さまは気になって、犬の視線を追ってみました。



 そこには男がいました。

 ぼろきれをたった一枚だけまとい、家の壁に背を預けてうずくまる男がいました。傍らには小さな子犬がいて、その子犬も男と同じくぼろきれをまとっています。

 男は身体が冷え切っているのか、頻りに歯を打ち鳴らしていました。男のすぐ横には子犬がいます。子犬に巻いたぼろきれをまとえば、幾らかは寒さが増しになるにも拘わらず、男はじっと寒さに耐えていました。


「おお……、なんと心優しき者か」


 大名さまは男の優しさに涙を流し、肩から掛けていた上着を一枚男に被せ、屋敷へと男と子犬を連れて行きました。

 程なくして、男は大名さまの下働きとして働くことになります。



 男はそれはもう真面目な性格でした。

 何をやらせても懸命に取り組み、誰よりも汗をかいて動きます。

 けれど、男はどうしようもなく不器用でした。

 草履を作らせればなぜか小さなござになり、服を作らせれば雑巾に早変わり。

 大名さまは真面目にやっていることは知っていましたから、男を怒りはしませんでした。しかし、男の失敗が十を超える頃には期待もしなくなっていました。


「もし、これがずっと続くのであれば、男を屋敷から出さなくてはならんな」


 大名さまは静かに、呟きました。




 ある夜のことです。

 大名さまが遠吠えをしていた犬を諫めて、部屋に戻ろうと屋敷の廊下を歩いていると、何やら声が聞こえてきました。一つは下働きにとったあの男の声でしたが、もう一つの声は聞き覚えがありません。


「こんな夜更けになんであろう」


 犬を寝かしつけた大名さま以外、誰も起きていない筈の時間です。

 大名さまは気になって、声のする方へそろりそろりと歩いて行きました。そこには床を掃除する男と、それを邪魔する鬼がいました。

 男は必死に床を掃除していますが、鬼は掃除した端から泥にまみれた足で歩いて床を汚してしまいます。心優しい男は、鬼に文句を言えません。「止めてくれ」とも言わず、男は鬼が汚した床を拭いていくだけです。

 大名さまは気付きました。

 今までも男はちゃんと仕事をしていたのです。それを、鬼に邪魔されていたのでした。


 大名さまは部屋に走って戻ると、飾ってあった刀を手に取り、男の下へ走ります。そして、ずばりと、大名さまは鬼の背中を切りました。

 それから、痛い痛いと泣いている鬼に刀を突きつけ、こう言いました。


「鬼よ、今すぐここから立ち去れ。二度とここに来ないならば、命だけは取りはせん」


 鬼はわんわん泣きながら、慌てて屋敷から逃げ帰りました。



 それからと言うもの、男はどんな仕事もしっかりと出来るようになりました。

 心優しい男は動物の世話が特に上手くなり、大名さまは男をずっと下働きとして雇ったそうです。




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