完成したもの
もう何足もの靴を履き潰した。足の裏に出来た豆は潰れ、潰れた豆のその上からまた新しい豆が出来た。足の痛みなどにはとうに慣れ、男はただひたすら海岸線沿いを歩いた。気の遠くなるような長い長い年月を男は歩き続けた。たまに足を止め、取り出した紙に何かを描いては再び歩いた。
気が向いた時に、波の音に耳を傾ける事もあったし、海辺を飛ぶ鳥を眺めたりもした。
男が歩き始めて何十回目かの冬を迎えた年に、長年男が旅の途中で描き続けた絵が完成した。それは、世界の地図であった。男は世界地図を作る旅をしていたのだ。
男はさっそく完成した地図を、たまたま近くを通りかかった青年に見せて説明した。
「信じられないでしょうが、これは今しがた完成した、私達が暮らしている世界の地図なのです」
しかし、誇って説明する男の世界地図を見た青年は、とくに感動する様子もなく、
「でしょうね、きっと大陸はこんな形をしているんだろうなと、容易に想像していましたよ」
と、綺麗な円の形をした大陸地図を見て言った。