兄妹げんか
とあるお家の兄妹のお話
二人の男女が対立している。
しかし彼らは、恋人どうしでもなく、幼馴染みという訳ではない。
彼らは「兄妹」である。
兄は今年、高校二年生。
青春真っ盛りの筈なのに、目が死んでいる。俗に言う「非リア充」である。
妹は中学三年生。
受験シーズンだが、将来への希望があるためか、目がかがやいている。
時々友達と息抜きに遊びに行くところを見ると、俗に言う「リア充」だとわかる。
軽く紹介しただけでも、正反対だとわかる二人。
しかし、不思議と仲は悪くない。二人でゲームの対戦をしてたりする。
兄が妹の勉強をみたりもするし、妹は兄のお昼を作ったりもする。
昔は二人でもう一人の妹の面倒を見たりもした。
そんな仲の良い二人が何故喧嘩しているのかというと・・・
「お兄ちゃん、ここは兄として妹に譲るべきじゃないかな?」
「なにを言っている。こんな暑い日に兄妹もクソもあるか。」
「いやいや、お兄ちゃんは一番歳上でここは年長者としての態度を示すべき所じゃないの?」
「それでもこれだけは譲れない。この・・・『冷凍みかん』だけは!」
『 冷凍みかん』・・・そう、冷凍みかんである。
夏によくみかけ、食べ方が、かぶりつくか、剥くかに分かれる、あの冷凍みかんである。
「イヤイヤ、お兄ちゃん、冷凍みかんごときでそんな熱くならないでよ。暑くて熱くて暑苦しいよ。」
「妹、こんな暑い日はなにか冷たいものを食べてくつろがないとお兄ちゃんは死んでしまうのだよ。」
「じゃあ、他のアイスを食べなよ。」
「バカヤロウ!アイス類は昨日の内に食い尽くしたわ!」
「じゃあ、買いに行けば?」
「外をみてみろ!」
サンサンと照りつける太陽、そしてゆらゆらと揺れる蜃気楼。
「今日、外は30℃を越えるらしい。そんな状況で買い物に行ったら熱中症でぶっ倒れるわ!」
「・・・そう」
妹が立ち上がる。
「なら力尽くでも私が冷凍みかんを食べてあげる。」
二人は睨み合う。
「何様のつもりだ。みかんを食べるのは俺だ。」
部屋の空気が変わる。
二人はそれぞれかまえる。
張り詰めた空気。両者にどちらも譲れない闘い。
先に動くのは妹。
一気に距離を詰めて軽いジャブを2発。
これを兄は手のひらでうける。
妹は素早く腕をひき、左から回し蹴りをかます。
兄はこれを受け流す。
しかし踏ん張り、反動を利用して右足で回し蹴り!
兄は咄嗟に腕でガードするが、顔をしかめる。
たまらず兄は妹と距離を取る。
「あれれ、お兄ちゃん。大きい事を言った癖してたいしたことないじゃん。」
(流石お兄ちゃん。カウンターをいれても、しっかり対処してくる。)
「なに言ってんだ、まだまだ始まったばっかだぞ。」
(・・・去年の喧嘩の時より強くなっているな。流石自慢のいもうとだ。)
「次はこっちから行くぞ!」
一気に近づき、右ストレート、左ストレートと、連続でねじ込む。
妹、これを軽いステップで避ける。
右足で下から斜めに蹴りを放つ。
妹は屈んで避ける。
しかし、それは間違いだった事に気付く。
脚が妹の頭上で止まる。
そしてかかと落としを叩きつける!
(くっ!)
妹は真剣白刃どめの要領でなんとか脚をとめる。
妹は兄の脚を押し返そうとする。
しかし男と女、力でどちらが勝るかは目に見えている。
「ふっ、惜しかったな、妹。」
兄が余裕の表情で笑う。
(くっ、くそっ、ちくしょう!)
勝負が決まった、まさにその瞬間!
「あ!冷凍みかん、最後のひとつだ!いっただきー!あーむ。」
一番下の妹が冷凍みかんを食べた。
それを見た二人は、固まってしまった。
「んーっ、おいしー!
・・・あれっ、二人ともそんな格好してどうしたの?」
二人は姿勢を正す。
「いや、なんでもないよ。」
「そうそう、お姉ちゃんたちはただ話してただけだよー。」
「・・・ふーん。じゃあ、私、部屋にもどってるねー。」
妹が部屋をでたあと、二人は膝から崩れ落ちた。
まさに漁夫の利。理不尽きわまりない。
その後彼らは夕方まで立ち直れず、突っ伏したままだった。
なお、夕食前には二人共仲直りしたらしい。
おしまい。
読んでいただき、ありがとうございます。
なお、夕食のメニューはハンバーグだったそうな。