習作 卓球
「よろしくお願いします」
身長150cmくらいであろうか、小柄な女の子がお辞儀をするとぴょこんと薄茶色のボブの髪型が跳ねる。
ユニフォームは周りの子と比べて若干色あせているような気もする。
その子からラケットを受け取ると、ツートンのグリップがかなり黒ずんでいる。
練習を相当したのか、ただ古いのか分からないグリップだった。
グリップエンドを見てみると有名なメーカーの品ではあるんだけれど、見たこともないロゴのエンブレム。
ラケットの名前もカタログでは見たことがない。
何よりも特徴的なのは、シェークグリップにもかかわらず打球面が角形なのである。
角形は通常ペンホルダーのラケットに使われているもので、今使っている選手はかなり少ない。
音を頼りにする卓球用で角形があったっけかな?
「ねえ、これってサウンド用?」
「いえ、ラケット削ったんです、端っこがボロボロだとルールに引っかかるらしくて」
「そうなんだ」
ラバーを見てみるとスポンジが薄目の赤いコントロール系ラバーと、10年以上前からある古い粘着ドライブ用ラバーだ。
今時使っている人はまず見ない。
プラボールに変わってからは高張力高回転型系と言われるタイプのよく弾み、よく回転のかかるラバーが主役なのだから。
初心者用セットを借りているのかな、と思った。
悪いけれども、初心者さんには負ける気がしない。
「ありがとうございました」
彼女のラケットと交換で帰ってきたラケットを右手で握る。
特殊素材入りのラケットに高張力高回転型ラバー。
道具の差も歴然だけど、負けるわけにはいかない。
私は手加減をする気はない、今年こそ関東大会を突破して全国を目指すために。
「それじゃ、じゃんけんしましょうか」
「はい」
私はチョキ、相手はグー。
「サーブをお願いします」
「じゃあコートはこっちにするから」
私が強打で打ち込んだ球を拾いやすいように壁に向かい合うような場所を選ぶ。
いよいよ試合開始だ。
「ラブオール」
審判の宣言と同時に相手の子が構える。
ラケットを垂直に構え、動きが静止した。
目は広げられた先の手のひらを見つめている。
――ふっと一息吐き、トスが16cmほど真っ直ぐに上げられた。
ラケットが振られる。
ボールが赤い面を擦られ、こちらへと向かってくるボール。
私のバック側に飛ぶ、これを手首で擦り上げて――
相手コートの台上でワンバウンド、浅い……
貰った!
私は手首を下に下げて迎撃の用意をする、2球目攻撃だ。
予測された軌道に会わせて左に一歩踏み込む。
捕らえた。
台から離れない前陣の距離でタイミングを会わせ、バックハンドを振る。
改心のバックドライブ!
私が右足を小さく踏み込むパターン、という音が体育館に響いた。
打球感は……ない。
サーブは私の予想を大きく外れ、卓球台の半ばほどから大きく左にそれて行った。
……なんて曲がるサーブ。
ボールを拾い、相手にボールを投げ渡すと、音もなくラケットで受け止めた。
気を取り直して次のサーブに備える。
先ほどのサーブの曲がり幅はインプット済み、次は対処できる。
再びトス。
真っ直ぐに16cmほど上げられたボールが、またバック側に飛んでくる。
ワンバン、ツーバン。
先ほどのキレはなく、体の正面での位置で捕らえショート……ネットに引っかかり落ちた。
しまった、無回転サーブか。
イメージして同じサーブに備えよう、でも気持ちを切り替える。
もうこっちのサービス権だからね。
まずは相手に打ち込まれにくい下回転でいこう。
バック側に下回転を出す。
ラバー弾性と引っかかりで押し出されたサーブは低く相手のバック側に向かう。
ここで相手はミドルにモーションの小さい台上での軽い下回転で返してくるはず。
自分のバック側にかまえ、ラリー戦になるイメージを持つ。
相手はバックに構え、低く帰ったボールの頂点¥に若干上向きの角度をつけて捕らえたようだった。
……ストレート、相手のバック側から私のフォア側の厳しいコースに真っ直ぐプッシュで帰ってくる。
完全に不意を突かれ、急いでラケットをフォア側に振るも球は相手のバック側に浮いた……
そして、相手の回り込みからの鋭いスマッシュ――