薄暗い部屋
「 は?」
急な事にそんな言葉しか出てこなかった。
だってそうだろう。自分がさっきまで居た場所とはまったく別の場所への瞬間移動。
まったくもって意味不明である。
最初に思った事は、
「あー、暗いな。」
当然だ。さっきまでネオン光で照らされたコンビニの駐車場から一瞬の間に薄暗い部屋に立っていたのだ。
なんだろうかこの現状は。
唐突すぎて何も思い浮かばない。
とりあえず腕時計で時間を確認すると、先ほどまでのおおよその時間と変わりは無かった。
スマホで確認しても同じく変わりは無く、意味不明な現状をただ、ボーッとしていた。
暫くの間、混乱と現実逃避で目が慣れたのか、薄暗い部屋が徐々に見えてきた。
「映画のセットの様な部屋。」
そんな感想を思った。
石で囲まれた室内に、埃まみれのテーブルの上に乗った、これまた埃まみれのよく分からない器具類。
床に乱雑に散らばった紙や本。
ゲームの宝箱の様な、というかまんまソレの宝箱。
ファンタジー映画の中に出てくる部屋と思っても間違いはないはずだ。
部屋の中を観察して、自分の立っている床から少量の光が漏れている事に気が付いた。
足元にある紙や本をのかし、その光の原因を調べてみた。
そこにあったのは、大きな円の中に様々な紋様、古代で使われていたかの様な文字。
端的に言うと魔方陣である。
これはあれかと。
いわゆる召喚的なあれかと。
正直それであると面白いが、現実的に見たら悪魔崇拝的な団体になぜか拉致られ、なぜか生贄的な物として捧げられようとしているの方が幾分か納得できる。
しかし、そうだとしたら悪魔崇拝の信者達がいないのはおかしいし、仮にドッキリだとしても、こんな大掛かりな事をする友人は俺にはいない。
あらゆる事を考え、思考の波に呑まれているとふと思う。
「何故、こんなにも冷静でいられるのか。」
おかしいのである。
ぬるま湯に浸かっていた自分がこれ程までに冷静に現状把握をしている事が。
確かに少しばかり社会人として生きていた事はある。
が、俗にいうエリートではなかったし、元来の性分からして楽観的なのだ。
ますますもって意味不明である。
まあ、考えていてもわからなそうなこの現状を打破するにはやはり行動あるのみ。
と、いうわけで外に出よう。
この魔方陣なのかよく分からないが、微小ではあるが、光を放っているおかげで部屋の全貌が見えた。
しっかりと扉があったので、そこから出よう。
自分の思考の変化現状への不安、もうどうでも良いからこの発泡酒を飲んで寝たい等の混乱した考えのまま外に出ようドアノブに手をかけた。
その時、タイミングを見計らったかのような、小君良いノックが扉から部屋全体へと響き渡った。