第12話 暗号解読 → 真相への入口
《登場人物》
アラン・ダイイング 探偵
マリア・シェリー 探偵助手
モーリス・レノール 警部
カール・フリーマン 刑事 モーリスの部下
ジェームズ・クレムリン 容疑者 教師
ジョン・ボルト 容疑者 教師
ゲイリー・ワシントン 容疑者 教師
トマス・ヴィエト 容疑者 教師
トミー・D・ピアーズ 第一発見者 容疑者 警備員
エレノア・カーリッシュ 故人
ロジャー・ワシントン シラーク・カレッジ 学長
ダイイング探偵事務所
《調査中につき、クローズド》
2人は、それぞれの机に座っていろいろな方法で、暗号の解決法を探していた。
しかし、状況を見ると進んではいない事が見て取れる。
マリアはもう既に匙を投げて、机にあるクッキーを数枚軽くかじり、机には包んでいた袋のゴミがたまろうとしていた。
「あ~もう。全然わからないですよ!! この暗号!」
「うるさいなぁ。今解いてるからちょっと待ってくれよ~」
「先生は、暗号を解くとなると本当に、集中するからなぁ。そうだ。お茶入れてきますよ」
マリアは席を立ち、事務所に備わったキッチンに向かい、棚から粉末のキリマンジェロコーヒーの瓶を取り出した。
「この暗号は、久しぶりの難問にだな」
暗号の紙を手にとってアランは紙に視線を向けて、ずっと凝視して考えている。
《 I Love You Jim(愛しているわ ジム)》
難問である。一般の人間では絶対、分からないであろう問題。もちろん警察の人間でもわからない問題。探偵アラン・ダイイングは、それを解き明かそうとしているが、全然解けそうにない。
アランは頭を両手で荒く掻き毟った。
数分が経ち、マリアがいれたコーヒーができあがり、丸いステンレス製の御盆に乗せて運んできている。
「先生。コーヒーを」
「う~ん? ありがとう。そこ置いといてくれ。これ終わったら飲むから」
「解けませんねぇ。暗号」
淹れたての温かいコーヒーが独特な香りと共に湯気をたて、アランの口に注がれるのを刻々と待っている。
「そうだね」
しかし、アランはコーヒーに目をくれず、事務所に戻ってからずっと暗号の書かれた紙とにらめっこしていた。色んな解き方をやってみたが、どれも外れてしまい、かれこれ30分は経つ。
事務所の窓から見える景色はオレンジ色の空から藍色、黒、オレンジが混ざり合い、どんどん藍色と黒が勝ろうとしていた。
アランは座るのをやめて立ってウロチョロと狭い事務所の中を歩き回って考えていた。
それを見つめながらマリアはアランに言う。
「先生。椅子に戻って、考えましょうよ。ずっとたって考えたり、うろうろ動いたりばっかりじゃないですか。座ってコーヒー飲みましょうよ」
「椅子に戻って……戻って、戻って、戻って……ちょっと待ってくれ」
アランはマリアの言葉を聞いて反応し、言葉のとおり脳内で今までのイベントを遡って考えてみる事にした。
探偵の脳裏は、事件関係者の言葉が駆け巡ってくる。
『この5人が今回の撲殺事件の容疑者だ。現場である小学校に残っていた者もいる』
『彼らの出身大学は、これだったはず。一度、行ってみるといい。なんだったらアポをとってあげようか?』
『ああ、残念ですが、事件当夜の時、停電が起きて、カメラ自体が止まってしまったんですよ』
『彼らは、確か謎解きサークルってやつだったかな。そのサークルの出身らしくてね。よく生徒たちに、謎解きの問題を解かせていたね。生徒たちは大喜びしていたけどね』
『ダイイングさん。ミス・シェリー。こちらを』
『コードクラブに入部すると、必ず1冊ついてくるまぁ、生徒用の許可証みたいなものだよ。顧問の先生や有志達が集まって作ったものでね。およそ10カ国の言語表や元素周期表。極め付きに数字も入ってる。それは余ってるから持ってて構わないよ』
『実は今、警察署から電話がありましてジェームズを迎えに行こうとしていたんですよ』
『そのコードクラブの手引きよくできているだろう? 元素周期表は俺が作ったんだ。出来上がりまでに3日かかったんだからな……裏の電子殻表も俺が作ったんだ』
言葉が駆け巡ったあとで、最後の1発に暗号が探偵の頭の中を降り注いできた。
アランは脳内の力をフル稼働させて整理していく
《 90 8 3p、6、18 33 I L ov e Y ou Ji m 》
《 90 8 3p、6、18 33 I Love You Jim 》
《 I Love You Jim 》
《 I Love You Jim(愛しているわ ジム)》
「I Love You か。……まさか!?」
アランはなにかひらめき、マリアに声を荒げて告げた。
「マリア。あの本ないか? 《コードクラブの手引き》!」
「えっ!? あっ、はい」
言われた通り急いで、カバンの中から1冊の本を取り出して、アランに手渡した。
「これですか?」
「ありがとう!」
アランはページを荒くめくっていく。そしてあるページでめくる動きを止めた。
「これだ」
そのページは、元素周期表と裏ページの電子殻表だった。
勝ち誇っている顔をしているアランに対してマリアは、期待と同時に不安がよぎっていた。
アランは唐突にマリアに質問した。
「彼の言葉を覚えているか?」
「えっ? 彼?」
「ジェームズ・クレムリンさ。彼が言った言葉だ。『そのコードクラブの手引きよくできているだろう? 元素周期表は俺が作ったんだ。出来上がりまでに3日かかったんだからな……裏の電子殻表も俺が作ったんだ』これだよ」
探偵が告げる言葉にマリアは理解できていなかったが、アランはそれを放置して、話を続けていく。
「被害者が遺した《 I Love You Jim(愛しているわ ジム)》メッセージは彼に対して、この手帳の事と解き方を思い出して欲しい、解いてほしいって事を知らせる為だったのか! だからその為にあんなメッセージを書いたのか!」
「あの~、先生?」
「という事はこれを駆使して考えるわけだな。なるほどこの番号を変換すればいいわけだな……!」
アランは見つけた解き方で、紙に書いた。しかし、その暗号の答えは、衝撃的だった。
「先生ずるいですよ! 私をおいてけぼりにして! 教えてくださ……」
とマリアはアランに追求しようとするが、さっきの態度とは一変して表情が重い。
「先生?」
「警部に電話してくれ! 早く!!」
アランは声を荒げて、マリアに告げた。
「は、はい!」
マリアは急いで、電話の受話器を持ち、ダイヤルを押して、連絡が来るのを待つ。
ガチャという機械音がマリアの耳を通り抜け若い男性の声を聞いた。
『はい。シュゼット警察』
「ダイイング探偵事務所のマリア・シェリーです。モーリス・レノール警部をお願いします」
1分か2分ですぐ、中年男性の声がマリアの耳に走った。
『刑事部のモーリス・レノールだが?』
「警部さんですか。ダイイング探偵事務所の……」
『ああ、シェリーさんか? どうしたんだ!?』
マリアはアランが右手を差し伸べて、受話器を渡す様にジェスチャーをしている。
「先生が話をしたいみたいなので、変わりますね」
レノールはため息をついて、頷いた。
『ああ、わかった』
マリアは受話器をアランに手渡した。
「僕だ! 暗号が分かった! 急いでジェームズを保護してくれ!」
『何? どういうことだ? クレムリンなら警察署を出たぞ。職場の仲間が迎えに来てたしな。そのまま小学校の方に向かっていったぞ。車で……』
アランは電話越しで、今後の最悪な状況になると予想した。
「馬鹿な!? 急いでその車を追ってくれ! ジェームズの命が危ない!」
『何!? ちょっとおい! お~い!』
アランは電話の受話器を下の位置に戻して会話を切り、マリアに告げる。
「マリア! 急いで準備してくれ。久しぶりに前職の必需品を使ってもらう事になる」
「は、はい」
アランは冷めてしまったコーヒーを口に流しこんだ。
苦い。
15分前 警察署前
ジムは警察署の正面玄関を出て行こうと一歩一歩、歩いて出入口のドアに手をかけようとした。その時に自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「お~い! ジム!」
出口の駐車場で赤い車が停まっており、そこにヴィエトが立っている。
「おまえか!? どうしたんだよ?」
「心配したから迎えに来たんだ。送っていくよ」
ジムはヴィエトの言葉に甘えることにして、車に乗ることにした。
車の助手席に、ジムは乗り、シートベルトを締める。
「悪いな……」
「別に、いいさ」
ヴィエトは、表情を変えない綺麗な微笑みを見せ、キーを差込み、車のエンジンを唸らせた。
第12話です。 物語も終盤になり、次回の展開がどうなっていくのか!? どんどん加速していきますよ!!
話は続きます!!
では次回をお楽しみに!!




