第10話 取り調べ
《登場人物》
アラン・ダイイング 探偵
マリア・シェリー 探偵助手
モーリス・レノール 警部
カール・フリーマン 刑事 モーリスの部下
ジェームズ・クレムリン 容疑者 教師
ジョン・ボルト 容疑者 教師
ゲイリー・ワシントン 容疑者 教師
トマス・ヴィエト 容疑者 教師
トミー・D・ピアーズ 第一発見者 容疑者 警備員
エレノア・カーリッシュ 故人
ロジャー・ワシントン シラーク・カレッジ 学長
シュゼット警察署 刑事課
「レノール。レノール!」
目の前で自分の名前を大声で呼ぶアランをレノールは眉間にしわを寄せた。
「うるさい。聞こえている」
「ああ、そこにいたか。警部」
「こんにちは~警部さん」
探偵と探偵助手の2人は、それぞれでレノールに向けて挨拶した。
アランはレノールに告げる。
「ジェームズ・クレムリンの事だが……」
レノールはアランの言葉にうんざりしながら言う。
「今はフリーマンが取り調べをしているから待てよ」
アランはレノールの言葉に拒否する。
「いいや! 待てないね」
「おいおい、勘弁してくれ。時間をやるからその場を動くな」
アランはレノールの言葉を無視して、歩いて取調室へと向かって行く。
怒りが通り越して、呆れとレノールの脳裏に駆け巡りながら、アランの動く体を強制停止させる。
「取り調べ室に行ったら、お前を捜査妨害で逮捕するぞ!!」
「逮捕できるもんならしてみろ!! そうなった場合,非公開協力の事件が流出することになるぞ」
警部と探偵二人が日本の国技「相撲」の大一番になっている状態で押し引きの競争が展開されている。
「事件が起きているのに、平和な感覚ですね~」
マリアはオフィスの窓から映る晴れ空を見ながら感じていた。
数分して、フリーマンの聴取が終わり、取調室から出てくる。
「ふぅ~やれやれです。『俺はやってない!』の一点張りですよ。まいった」
「長引くか……」
「そりゃそうだろう。彼が犯人だと思えるのか? レノール、フリーマン君」
アランの刺のこもった一言にフリーマンは口ごもった。
「僕は~その~……」
レノールはとうとう諦め、事情聴取の許可証を机から取り出して、ボールペンを許可証の真っ白いサイン欄に走らせていく。
「分かった。分かった。ダイイング、おまえに時間をやるよ。ほれ! だが、時間は10分だ。いいな?」
許可証に判子を押して、係に渡す。
「それはどうも」
アランは、ニコッと笑い、そのまま取調室に向かって歩く。
「もし変なことでも訊いてみろ。お前を捜査妨害で逮捕してやるからな!」
警察署 刑事課 取調室
取調室に3人。アランとマリアそして対面側にジムが座っている。マジックミラー越しから、レノール、フリーマンという刑事の2人。
「また、あんたらか」
ジムが当てた2人への最初の一言。
「相変わらず、僕達に対してきつくないかい?」
「で、何の用なんだ? 正直、あんたらに分からんだろうね。婚約者を殺された気持ちを……」
「そんな……」
マリアはジムの言葉に少し苦い思いになったが、アランはジムの言葉を一蹴した。
「ああ、全然わからない。というよりも知りたくもないね」
「なんだと!? ふざけんな!」
ジムはテーブルに両手を叩きのめした。アランはジムを落ち着かせる。
「ちょっと待て。考えてくれ。今のこの状態だと、君はこのまま殺人犯のレッテルがついて、この世を塀の中でず~っと暮らさなければいけない可能性が、もう一歩手前まで来ているんだ!」
ジムは黙り込んだまま、両手を合わせている。アランの言葉は続いた。
「君なら分かってくれるはずだ。コードクラブのことも知っている。マリアあの本を」
「あ、はい」
マリアは持っていた鞄を探り、本を取り出して、アランに渡した。
「何故、それを?」
ジムは態度が変わった。態度の変わり方を目で感じたアランは一冊の本を示した。
「これを知っているだろう?」
「《コードクラブの手引き》か。懐かしいな。でもなんでそれを? その本はとっくの昔に絶版になったはずだが……」
「学長からもらったよ。知っているだろう?」
ジムは、対面側に座っている銀髪の探偵の顔を見つめている。
「あいつか。そのコードクラブの手引きよくできているだろう? 元素周期表は俺が作ったんだ。出来上がりまでに3日かかったんだからな……裏の電子殻表も俺が作ったんだ」
「なるほどね」
アランは頷いた。
「それで、あんたら結局、何の用なんだよ?」
ジムは質問し、アランは続けて質問の答えを告げる。
「聞かせてほしいのさ。君が事件当夜、どこにいたか」
ジムはアランにほくそ笑み、椅子の背もたれに寄りかかって答えた。
「簡単さ。店で待ってた……あいつとディナーの約束してたんだ」
アランとマリアの顔は苦くなり、2人の心は何とも言えない虚しい空気が漂い始めていたが、ジムの口は2人を置いて進んでいた。
「だが、奴は閉店まで来なかったんだ。勿論、ピアーズのやつに連絡もしたし、あいつを探したんだが、見つからなかったんだ……」
「で、学校にも行ったわけだな」
「ピアーズの連絡で聞いていたが、信用できなくて学校内を探し回ったが、暗くて分からなかったんだ」
「それで戻ったわけか」
「ああ、夜の10時ぐらいだったな」
マリアは、そのままメモ帳に情報を記していく。続けてアランは一枚のメモ用紙を取り出し、ポケットのペンを取り、書き記す。
そのメッセージは、エレノアが残した《908(3p、6、18)33》。
アランはその暗号をジェームズに手渡した。
「これは被害者が君に宛てたメッセージなんだ。君なら解るかもしれない……」
だが、ジムの答えはシンプル且つアランにとって痛い一言だった。
「わからない。すまないが俺は力になれないよ」
と言って、ジムは暗号が書かれた紙をアランに返す。
「そうか。ありがとう。我々は失礼しよう。行こうかマリア」
「は、はい」
2人は立ち上がり、取調室を出ようとした。するとジムは2人を止める。
「ちょっと待ってくれ。俺は一体どうなる?」
アランは軽く笑いながら答えた。
「簡単さ。すぐ出れる」
と言って、そのまま取調室をアランは出ていく。マリアは一礼してからアランの後を追って出ていった。取調室の監視室のドアから、レノールとフリーマンは出てきた。
「おいどういうことだよ?」
レノールはアランに対して不思議に問い詰めた。アランは警部の表情を見て呆れながら答える。
「ジェームズ・クレムリンは犯人じゃない。今の取り調べで分かった」
「どういうことだ?」
理解できていないレノールの頭にアランは呆れを通り越した何かが心と脳裏に一気に押し寄せてきた。
アランはレノールにちょっと声を荒げて返す。
「さっきの発言を聞かなかったか!? 彼は事件当夜に被害者とディナーをする為にレストランにいたって言っていただろ」
「ああ、だが、それだけでは、彼を帰らせるわけにはいかない」
アランは首を横に振り答えた。
「残念だが、警部、今の状況じゃ、証拠不十分で逮捕もできない。それに犯人は他にいると思う」
「何?」
「どういうことですか?」
フリーマンとレノールは首をかしげている。内心、これで分かっていないシュゼット警察署は世も末だとアランは考えている。
「はぁ……もう少し頭を使ってくれよ~お二人さん。いいか。暗号を見てもらえればわかるが、もし仮にジェームズが犯人だったとしよう。だとすれば、被害者はこんなまどろっこしい暗号なんか出すか?」
「確かに」
フリーマンは納得している。レノールも同様に納得しながらも一つ疑問が浮かび上がり、一言アランに訊いた。
「ああ、でもなんで? 彼女は、あの一言を残しているんだ?」
そう。この《 I Love You Jim(愛しているわ ジム)》というメッセージ。アランにとって、ずっとこれが気にかかっていた。しかし、探偵は一つの考えが心にあり、その心にあった考えを2人の刑事に告げる。
「このメッセージは、クレムリンに宛てたメッセージで、犯人の告発じゃなくて、これはその前の文である908(3p、6、18)33を被害者は彼に解いて欲しかったのではないかと感じるんだよ」
「なるほどな。じゃあ訊くが……ダイイング。犯人は誰だと思うんだ?」
レノールの一言。アランはこれに対して、答えた。
「さぁな。わからない。だが、この暗号を解いたら完璧にその犯人が分かるわけだ。まぁ、楽しみにしといてくれたまえ」
アランはそう言って警察署のオフィスを出ていく。マリアも後を追って出ていく。
2人の後ろ姿を見つめるフリーマンとレノール。フリーマンは上司の警部に訊いた。
「どう思います?」
レノールはため息を一息ついてフリーマンに告げる。
「ジェームズ・クレムリンを帰宅させろ。学校に連絡するんだ」
「いいんですか?」
「アラン・ダイイングを信じるしかない。依頼しているからな」
レノールは踵を返して、自分の机に向かっていき、椅子に座った。
「やれやれ……」
第10話です。気づけば10話、いきましたね~。これからも頑張っていきますよ!!
いかがでしたでしょうか? 次回の展開はどうなっていくのでしょう!? 次回をお楽しみに!!
話は続きます!!