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大学生活のすゝめ

作者: アバター

私は今春から大学生活を送ることになった。俗世が名付けた受験戦争とやらに勝ち残ったわけである。大学に受かったと知った時は、思わず叫び声をあげた。あまりにも煩かったせいか、隣の部屋で寝ていた姉に叱咤され、興奮は人生一の早さで萎縮した。何はともあれ、そうして私は、大学からの合格通知を受けとると同時に、キャンパスライフとやらに桃色の想いを馳せ、春休みを謳歌した。


私の大学について少し説明をしよう。私の大学は山奥にあり、地元民に、「冬は雪に、夏は変態と熊に注意しろ 。」とまで言われる始末である。 だがしかし、短所があれば、長所がある訳であり、大学の広さは凄まじかった。 日本の大学の広さランキング五位以内には確実に入るであろう。外見も素晴らしく、数年前改装されたばかりで築百五十年とは思

えぬ美しさであり、通学路には桜の木が、これでもかと並んでいる。それらがあってか知らないが、高校からの人気が高く、世界各国からの留学生も沢山いる。


そんな大学に入学できるとあって、私の胸は張り裂けんばかりであった。春休みの最中には妄想を膨らまし、「入学したら彼女を作ろう。」「サークルは何にしようか。」 「彼女ができたらどこに行こうか。」「異国の彼女もありか。」などと希望に溢れていた。むしろ、溢れすぎて溺れていた。この時、私はハッピー野郎であった。


入学式を無事に終え、いよいよキャンパスライフ第一週目という歴史的な時期を迎えた。大学生活にとってこの第一週目は、恐ろしいほど重要であり、大半の大学生は苦戦を強いられる。健康診断、教科書販売、といった重要な通達が、それはもう桜吹雪のように舞い込む。そして、何よりも大切な、自分自身のオリジナリティー溢れる時間割を決めなければならない。私は幼い頃から自堕落であったので、こういった「〆切有り」の類いには苦戦する。だが、 「これも薔薇色のキャンパスライフのためだ。まだ見ぬ彼女のためだ。」と、思い返すと気味の悪い妄想に何とか助けられ、折れそうな心に鞭を打ち、何とかのりきった。私は全力を尽くして、〆切を厳守したのだ。


ところで、薔薇色のキャンパスライフを送るためには、必要不可欠なものがある。

それは、ある程度の友人だ。

大学には学生への評価基準としてレポートというものが存在する。このレポートは時に、薔薇色のキャンパスライフをどす黒く染め上げる能力を有しており、奴の餌食となった学生は五万といる。そこで、この悪魔とも呼べるレポートを退治するために、学友の力が必要なのだ。そしてその学友を作るのに最適な第一週目を、悲しいことに、私はみすみす逃してしまったのである。時間割というメタルスライムに夢中になっている隙に、メタルキングに逃げられた。そんな気がした。


私はこの第一週目で、私のキャンパスライフは薔薇色ではないということを心底思い知らされたのだった。


第一訓「キャンパスライフを薔薇色に染め上げるには、まず、自分自身が薔薇色に染まることである。」

―――――――――――――――――――――――


そんなこんなで第二週目がやって来た。私の専攻した工学部では男子率、なんと驚異の99.3%をマークし、前年の78.0%を大きく上回る、歴史的不名誉な数値を叩き出した。この時点で、私の思い描く、桃色のキャンパスライフは、手を降りながら笑顔で全力疾走して離れていった。


が、そんな私にも春が来た。学友ができたのである。寺田優平。そいつの名である。

遠くから見るとひょろひょろで、近くから見るともっとひょろひょろ、顔色も常々悪く、髪も長めで、十中八九、妖怪に間違われるような男である。

性格はわがまま、それに、私以上の自堕落なやつらしい。聞けば、高校時代、一学期中に五十回も遅刻したそうだ。ただ、ノリはよく、人懐っこい。何せこの私に話しかけてくれるからだ。


そんな寺田の誘いで私は大学生協の会員となった。奴のノリの良さがそうさせたのだ。会員立候補の時、普通は、誰も手をあげようとはしない。無論、私もそうだ。「じゃんけんか……。」 そう思っていた矢先に、私の隣から大声で「はい。」と叫んだやからがいた。私は隣をみて愕然とした。「なんだこの妖怪は……。」と。


見るからに痩身で、立候補のため挙げている手は人間のものかと疑うまでであった。 私が奴の腕に目を走らせていると、妖怪がこちらを向いて微笑む。「一緒にやろうぜ、生協。」いきなりだった。

正直に言おう。意味がわからない。なぜ私なのだ。なぜ手を挙げてから誘うのか、引き返せないではないか。何より、なぜそんな痩せているのか。

様々な疑問が頭のなかを回転し、答えのない問に懸命になっている隙に司会が、二人分のカウントをした。これが寺田との出会いであり、私が生協の会員となった所以である。


生協というのは……実際、私もよくわかっていない。何やら朝早くに集まって、何かをするようである。全く謎の集団である。私にしてみれば、何をするかは重要ではない。朝8時に食堂集合という、鬼のような条件に私の体が悲鳴をあげるのではないかと心配なのである。


そして生協初日、死んだ魚の目をした私は、何とか食堂に8時15分についたのであった。ここまで来ると清々しい気もしないでもない。案の定、皆の視線を集め、食堂に足を踏み入れると違和感に襲われた。皆の視線のなかに、寺田の顔がないのだ。単騎特攻で生協の群衆の中に突っ込んだのであった。


第二訓「大学生活は忙しいときはすさまじく忙しいが、暇なときはとことん暇である」

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