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花咲姫  作者: いちい千冬
花咲姫
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“花”愛でる宴2

スミマセン嘘つきました。

1日遅れて投稿です。

しかも終わってないー。

 花の宴のことを聞かされたのは、冬の初めのことだった。



 お祭り大好きの萌葱の国領主・豊国(とよくに)(ただ)(とも)に限らず、梅や桜の咲く時期になれば、老若男女貴賎を問わずあちこちで花見の宴が催される。


 豊国家お抱えの庭師である『花咲』も、春は非常に忙しい季節であった。宴に合わせて開花を早めろだの遅くしろだの、ついでに藤や桃の花も一緒に咲かせて見せてくれだの、わがまま放題である。


 そもそも冬に花を咲かせた桜が先代領主の目に留まり、初代『花咲』は庭師として取り立てられた。『花咲』の持つ不可思議な技術を見せびらかすことで、同時に豊国家は内外にその権力を見せ付けているのだ。

 初代が亡くなった後も、その子供である桜たちが『花咲』の名を継いだ以上は、領主の期待に沿わなければならない。

 失敗は、許されない。


 今回の花の宴も、隣国から客を招いてのものだという。


 しかも伝えられた日取りは、梅の蕾もまだ固いと思われる早春。

 冬だと言ってもいいようなそんな時期に、忠朝は花を用意しろと『花咲』に命じてきた。

 それも梅や桜だけではない。春夏秋冬、あらゆる花を咲かせ客の前で披露せよというのだ。


 求められた花の種類の多さに、仕事量の多さにうんざりする前に、あきれてしまった。


 珍しいには違いないが、趣味が悪い。悪すぎる。


 ひとつの場所に季節もばらばらな色とりどりの花々を集めろ、とは。

 視覚的に華やかすぎて、うるさくてしょうがない。

 見た目だけではない。花の芳香も混じりあい主張しあって刺激臭になるのは明らかである。


 とはいえ豊国家の絶対的な命令であり、彼らは『花咲』である。さすがに多すぎるため、冬の間中兄妹三人とも花の世話に没頭した。

 いかにきれいに品良く花を見せるか、頭を悩ませながら。




 天下の豊国家も気を張る今回の賓客が宇佐の次期領主・梶山青嶺だと知ったのは、宴の当日だった。


 三番目の姫が「鬼の嫁にはなりたくない」と屋敷中に響き渡るような声で大泣きしていたのだ。そういえば、客が寝泊りしているらしい棟の見張りが妙にぴりぴりと緊張していたような気もする。


 宇佐の梶山青嶺といえば、戦上手の負け知らずと評判の若武者である。


 その性格は勇猛で獰猛。熊のような大男で、血を見るのが大好きで腰の刀は常に赤く濡れているとか、彼が通った後はバラバラ死体で足の踏み場もないほどだとか、さらにそれらを高く積み上げた上で高笑いするとか、物騒な噂ばかり聞こえてくる。


 畏怖を込めて付けられたあだ名が『青鬼』。


 宇佐の黒い甲冑を身に着け戦場を駆ける姿は、地獄からやってきた使者のように見えるらしい。


 山間の小国に過ぎなかった宇佐は、この『青鬼』の活躍もあって瞬く間に周辺のいくつもの国々を飲み込んだ。

 破竹の勢いには、大国の萌葱も警戒せざるを得なかったようだ。

 豊国忠朝は娘を嫁がせることで宇佐と良好な関係を築こうと思っているようだが、噂が噂だけに姫が泣いて嫌がるのもしょうがない。


 豊国家の三の姫は、それこそ萌葱の花と呼ばれるほど愛らしい顔立ちの姫である。すこぶる大事にされ甘やかされて育ったため少々わがままではあるが、それすら異性には姫の数ある魅力のひとつとして映るようだ。

 小さな頃から縁談は国内外から山のようにあった。政略結婚が当たり前とはいえ、その中から選ばれた相手が隣国の鬼だというのだから、気の毒な話である。

 

『青鬼』の前で花を生けてみせなければならない桜もまた、一気に気が重くなった。


 年がら年中花見だ月見だ歌合せだと宴のことばかり考えている豊国忠朝と違い、年がら年中戦場で刀を振り回しているような御仁である。そもそも花に興味なんかあるのだろうか。

 気に入らないとか面白くないとか言われたらどうしよう。

 いや言われるだけならまだしも、ばっさり切られたらどうしよう。

 庭師、それも半人前の桜がいなくなるくらい、忠朝は何とも思わないだろうし・・・。




 三の姫のすすり泣きと必死になだめる世話係の声を聞きながら戦々恐々と出番を待っていた桜だったが、実物を目にしたそのときは少々拍子抜けした。


 梶山青嶺は、噂されていたような熊男ではなかった。


 絵の中の鬼のように目がつり上がっても、口が裂けてもいなかった。


 むしろ、精悍な顔つきの偉丈夫だった。


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