“昔”語り
これはなんちゃって戦国時代が舞台です。
途中から平気で人を殺せる奴が出てきます。戦の場面もあるかもしれないです。
作者の性格上、あまり過激なものはないと思いますが、念のため警告タグをつけさせていただきます。
枯木に花を咲かせましょう
花の起こりは春の興り
悲しく沈んだ世の中も
たちまち明るくなるだろう
枯木に花を咲かせましょう
春の興りは花の起こり
花は万病の薬なり
誰もが顔をほころばす
枯木に花を咲かせましょう
花の興りは国の興り
この地に花が咲かぬなら
種をまいてみればよい
水をやってみればよい
☆ ☆ ☆
あるところに、とても裕福な領主様がいました。
彼の曽祖父の時代。その働きを認められ、ときの帝から豊かな土地をいただいたのです。
苦労しなくても作物が豊かに実り、海の幸も、山の幸もたくさん手に入る、そんな土地でした。
代々、彼の家は恵まれた領地をそれなりによく治めていました。
豊かに実る農作物を他国に売り、得た利益で他国の珍しいものを取り寄せる。それをまた必要なところに売る。あるいは献上する。
領主様の代には、周辺の領主たちはもちろん帝でさえも無視することができない、大きな力を持っていました。
あるとき、領主様は領地の国境付近の視察に向かいました。
領主様の国は平和で豊かでしたが、その周辺にある貧しい国が領主様の国に攻めてきたり、国境付近に賊が出て領民を苦しめることもあったからです。
秋の収穫をとっくに終え、温暖な領主様の国でも霜が降りるようになった晩秋、あるいは初冬のこと。
そんな季節にも関わらず、領主様は満開の桜の花を見ました。
どんな珍しいものでも目新しいものでも取り寄せることができる領主様の目にも、季節はずれの桜の大木は、珍しくも儚く、なにより美しいものでした。
「このような場所へようこそいらっしゃいました、ご領主様」
桜の大木の下でにっこりと微笑み、丁寧にお辞儀をしたのはひとりの村人でした。
「ここはわたしの領地か。それとも仙境へ迷い込んだのか」
「確かにここはご領主様の治める村でございます」
「ではこの花は。まやかしか。そなたは物の怪の類か」
「いいえ」
優しげな風貌の村人は、薄紅色の花がついた枝の先を手折り、領主様に差し出します。
それは触れればちらちらと花びらを落とす、本物の桜でした。
「わたしはただ草花について人よりも詳しいだけでございます。この桜は、あなた様のために咲いたのです」
領主様は、満開の薄紅色の花に大変喜びました。
なにか褒美を、と男に問いかけると、桜の下の男は深々とお辞儀をしました。
「では、どうかわたしを庭師としてお抱え下さい」
さすればご領主様のため、あらゆる花をどこよりも美しく咲かせてみせましょう。
そんな男の言葉にも、領主様は満足して頷きました。
男が言わずとも、領主様から屋敷へと誘うつもりでいたのです。
領主様は男に『花咲』という呼び名を与え、男の望み通りに庭師として召し抱えました。
男はその名に恥じることなく、最初の言葉通りに領主様に美しい花々を献上し続けました。
それを見た客はそろって驚き感心し、領主様と領主様の国はさらに一目置かれるようになりました。
また男の持つ薬草や毒草の知識も大いに役立つもので、国はいっそう栄え、領民の暮らしもさらに良くなったのです。
『花咲』の技は、男が亡くなった今もその子供たちに受け継がれ、変わらずに領主様にお仕えしているのです。
いちおう戦国時代あたりを参考に書いてはいますが、時代考証はメチャクチャです。
それでもよければお付き合いください・・・。
6/10サブタイトルを変更しました。