墓穴(ガチで死体を埋める穴)からのスタート
さっくさっく。
ばさばさばさ。
さっくさっく。
ばさばさばさ。
何でしょう。この慣れ親しんだ土の香りは。
しっとりと湿っぽい土の香りが濃く匂っている。そして徐々に体の上に圧力が増えていく。押しつぶされそうな感じは無い。ちょうど良い、安心感の沸くような圧力。
でもどんどん増しているのは確かなので、手遅れにならないうちに状況確認をしましょう。
よっこいせと、上半身を起す。
「何だこれ!?」
私は穴の中におりました。
そして腹の上に土が乗っている。ちょっと上の穴の出口からまだ少量づつ土が振ってくる。
これはアレですか、墓穴ですか?
「ちょっとまってー!生きてる生きてるっ!!」
え、みたいな呟きが聞こえて穴を覗き込む顔があった。青空をバックに覗いた顔にぽかーんとする。
あれは生物がもつ色じゃない気がするのだが。
アレですか、DANの操作がなんたらですか?
「ホントだ・・・動いてる」
そうこぼしたの20代後半くらいの男。
何故か髪は背景の青空の色を反射しているのか、妙な色をしている。光ファイバー的な物で出来ているのだろうか・・・。それに目はシャボン玉色だ。よーするに虹色瞬きする度に、くるくると色合いが揺れる。
しかもおっとりした、いい感じのイケメンである。
ぽかーんと見上げる私の前に手が差し出される。
「一人で出れないでしょう?」
慌ててその手を掴む。
ひょいっと墓穴の外に持ち上げられる。
「いや、申し訳ない。倒れているし、脈はないしで死にたてか何かだと思って、暇してたものだから埋めて置こうかと・・・」
「生きているんですけど」
そう不機嫌に呟いて目の前の男をしらじらと眺める。
なんつーファンタジー臭い服装でしょう。ちょっぴしヨーロッパの貴族のよな格好である。ただし、装飾はなくあっさりと簡素な印象を受ける。
さらに、腕まくりをしていかにも重そうな鉄のスコップのようなものを持っている。
「おかしいなー確かに、脈が無かった様な・・・?」
すいっと腕を持ち上げれれて脈をとられる。自分でも嫌な予感がした。抑えている指にも脈拍は伝わるだろうが、抑えられた腕だってどくどくと圧迫されるのを感じる。
「やっぱり、無いんですけど」
男が呆然としたように、腕を掴んだまま呟いて、急にキッと視線を強める。
「お前は、確かに、人間、だよな・・・?」
口調が厳しくなるが、私はそれどころではない。
突然見ず知らずの土地の墓穴で目覚めたって、体色がUMA的なにーちゃんに出会ったて私は驚きませんともっ!
だってしぶしぶ、嫌々ながらも事前に説明を受け、了承だってしている。
ただ、ただ、これは聞いてない!聞いてないぞ!!
脈がないってなに、死んでるの?でも確かに私は意識はあるし思考もしているし・・・。
「聞いてないっ!!!」
思わず叫んで、掴まれていた手を振りほどいて両手でぺたぺた自分の体を改める。
首筋に手を当ててみる。ほんのさっきまでと一緒で温い。でも脈拍は感じない。なにこれ気持ち悪い・・・。
「だ、大丈夫なのか?」
気づけば、妙な色を持った男がしゃがみ込んだ私を見下ろしている。一拍前までの冷たい敵意の様なものは無い。
「大丈夫じゃない、ちょ、待って、今整理する、落ち着く。え、なにがどうなった訳?契約違反?よく思い出そう・・・」
独り言をぶつぶつ呟いてから、少し前の記憶を手繰り寄せる。
━
テンションはだだ上がりしたが、やっぱりそのメモに見覚えが無い。
読んでみれば、条件が低くて得るものが異常に多い。なにこれ、映画みたい。超高額の報酬に釣られ参加するが隔離され、れっつですげーむ!みたいな。
あれ、じゃあこれもやばいんだろうか?
いやいや、現実にそんなもん「ありませんがな。それにメモには気になる一文。赤ペンでぐりぐり囲われて、
『帰ったら即電話』
横には携帯の番号のような数字が並んでいる。でも、本当は学校を通して連絡しないといけないんだよなーだけどこれどう見ても自分の字だし・・・。
えい、電話しちまえ。