△終焉
清々しい程の、青空。
通り抜けるのは心地よい季節の穏やかな風。この暖かな時期特有の自然の草木の好い匂いまで含まれている。
なんて皮肉だろう。
この昼を過ぎたばかりの気候は平和と呼ばれるものに相応しいものだろう。
そう。確かにこの場に居る殆どの人間にとっては今この瞬間は平和を勝ち取った瞬間なのだろう。
しかし、僕達にしてみたらこの瞬間は破滅そのものである。
視線を上げれば、ほんの少し前に陥落した王城のバルコニーに並んだ首を見上げて、さらに絶望感に発車がかかる。思い出したように、きな臭い匂いが澄んだ空気に混じって漂ってくる。
「コーリエ・・・コーリエっ!!」
高笑いを上げなら、まだ敵に切りかかろうとしている上司に声をかける。後ろから羽交い絞めにしてやっと少女の姿の上司もようやく、この国の終焉を見上げた。
「う、そ・・・・」
両手に握られた大斧が滑り落ち、血をすい赤黒く湿った大地に突き刺さる。ポツポツと点在する僅かな仲間達も呆けたように、上を見上げ武器を落とす。
高い所に掲げられた首の数を思わず数えてしまう。
並べられた頭に共通する、青い髪。顔立ちもよく似た首が4つ。
あぁ、、、
この国に残されていた王族の子供達の全て。本当に終わりだ・・・。
思わず地に膝をつく。
「兄さまっ」
小さく、少年の声が聞こえた。数人の兵に凶器を突きつけた青い髪をした少年がバルコニーに現れた。遠くても確かに見開かれた瞳と、震える細い肩が確認できた。
やがて、残った者達に降伏するよう、大人しく従う様にとの酷く高圧的な大声が響く。
そんなこと言われなくとも、戦意など全く無い。周りの敵もそれを感じ取っているのかもう僕達に武器を向けようとはしない。
コーリエが大きな瞳いっぱいに涙を溜めていた。やがてそれは溢れて零れだす。飛び散った返り血と交じり合って赤い涙が流れる。
「アルっ!」
歓声を上げ勝利を喜ぶ敵兵の間を、何故か侍女の格好をした少年がこそこそと駆け寄ってくる。よく眺めて特徴的な瞳と髪を認識して名前を呼ぶ。
「よかった!生きてたんだなっ!?」
少年はスカートの裾を掴んだまま息を弾ませて小声ながらも厳しい声で言う。
「良くないっ!殿下を押さえられたんだぞ!!あとコーリエ、とっとと城に戻って血を拭いて兵士の名簿全部消去しろ。それで出来るだけ綺麗な服着て、名前だけの将軍だと言え!あの糞共が理不尽な条約吹っかけて来る。早くっ!」
コーリエが、頷いてこそりこそりと離れていく。
その背中を見送りながら呟く。
「今更なにやったって無駄だよ・・・」
「この馬鹿!これからもっと大変な事になるだろうが。人間どもは共通の敵を倒す為に団結していただけだ。もうその敵はいない。今度はやつ等が喰い合う番だ。魔族の兵力と、土地、資源!今こんな状態なのに、これ以上搾取されて堪るかっ、これ以上僕達のもの戦乱に巻き込まれて堪るかっ!!」
怒鳴った奴も泣きそうな顔をしていた。
相変わらず、穏やかな天候でその場にいる殆どの人々が喜びを満面に広げ歓声を上げる中にポツポツと絶望に満ちた少数派はただ項垂れるだけだった。