断罪イベント365ー第23回 泥棒未遂王子
断罪イベントで365編の短編が書けるか、実験中。
婚約破棄・ざまぁの王道テンプレから始まり、
断罪の先にどこまで広げられるか挑戦しています。
王子は悩んでいた。
なぜ、自分の断罪イベントはことごとく失敗に終わるのか──。
「余が威厳を示せぬのは……そう、武器がないからだ!」
唐突な結論に到達した王子は、深夜こっそりと王宮の宝物庫に忍び込んだ。
煌めく宝石や豪華な甲冑を横目に、彼が目指すのはただひとつ。
父王しか握れぬとされる、伝説の「王の剣」である。
「これさえあれば、断罪の舞台で誰もが余にひれ伏す!」
意気揚々と剣の前に立ち、両手で柄を握りしめる。
……が、剣はびくともしない。
「な、なぜ動かぬ!?」
王の呪文を唱えなければ、剣は持ち上がらない。
そんな基本中の基本を、王子はすっかり忘れていたのだ。
無駄に顔を真っ赤にして剣を引っ張る王子。
ガタッ、と大きな音が響き渡り、見張りの兵が駆けつけた。
「泥棒だ! 王の剣を盗もうとしている!」
「ち、違う! 余は……余は……ただの稽古を!」
必死に言い訳するも、剣は持ち上がらず。
両手で柄を握ったまま、腰を落として踏ん張るその姿は、
どう見ても「泥棒ポーズ」で固まっているだけだった。
騒ぎを聞きつけた観衆が次々と集まり、
宝物庫の前はたちまち野次馬だらけに。
断罪されるはずだった悪役令嬢たちまで駆けつけ、
口元を押さえて笑いをこらえている。
「王子が……断罪されてる?」
「泥棒未遂王子ですわね」
こうして、その夜の断罪イベントは「王子自らが罪人」として幕を閉じた。
翌朝の城下町は大騒ぎだった。
どの店でもどの通りでも、人々の噂話は同じだ。
「王子が王の剣を盗もうとして失敗したらしいぞ!」
「泥棒未遂王子だってさ!」
断罪イベントは大失敗。
威厳を高めるどころか、
王子自身が「断罪される側」として歴史に名を刻むことになったのである。
【調査まとめ】
王子が「威厳を高めるため」として選んだ行動は、まさかの泥棒未遂。
「王の剣は王しか握れない」という大前提を忘れていた結果、
断罪の場は彼自身の断罪にすり替わった。
この事件以来、城下では「泥棒未遂王子」
という不名誉な二つ名が定着することになる。
剣の呪文、教えてもらってからにしましょう。
読んで頂き、ありがとうございますm(_ _)m