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僕の恋人  作者: 織田一菜
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第九十六話 宣戦布告

由香さんが私たちを真剣な表情で見つめてくる。


「それ、は‥‥」


葉が困惑した表情で私を見る。


私は、答えが出せずにいた。


いや、それどころではなかった、といった方が正しい。


私は、強いショックを受けていた。


悠が養子だったことにではない。


その事実を、由香さんから聞かされたことが、ショックだった。


悠に、何かがあるのはなんとなく分かっていた。


前に家出していると、話していたから。


体育祭の時に、悠に言ったことは本心のつもりだった。


そして、悠が私に何か話したくない隠し事があることも、その時の反応で分かっていた。


決して、覚悟がなかったわけではない。


嫌な予感もしていた。


それでも、返答する言葉を、捜すことが出来ないほど、私の心は錯乱していた。


(何で‥‥)


話してくれなかったのかと、悠に問うことは出来ない。


話してくれるまで待つと言ったのは、私だ。


それなのに————


思考がまとまらない。


何も言葉が出てこない。


仮に、悠と由香さんの関係が、本物の兄と妹の関係でなくても、今の悠は、私を見ていてくれている。


それは変わらない。


悠と由香さんの好きの色合いはまるで違う。


それも、理解している。


だから、きっとこの感情は、そういう物とはまた別の所からくる感情だ。


由香さんがどう、という事ではない。


悠が、悠自身の事が問題なんだ。


「一之瀬君は、そのことを知ってるの?」


「ええ、悠が養子になったのは最近ですから」


葉が、私の代わりに必死に会話をつなげてくれている。


(落ち着け、冷静になれ‥‥)


心の中で自分に呼びかける。


「悠の」


乾ききった口から、やっと言葉が出てきた。


「悠の、両親は‥‥どうしているんだ?」


「それは本当の両親が、という意味ですか?」


由香さんが聞き返してくる。


私は黙って頷く。


「悠の母親は、ずっと前に亡くなったと、聞いています。父親は————」


由香さんは一度そこで言葉を止めて、葉が持ってきたお茶を飲んだ。


「悠の父親は、完全な仕事人間です。元々家にいる事の方が少なかったそうですよ‥‥そういう所が、おね、」


由香さんが言葉を飲み込むように、お茶を飲み干した。


「————結衣さんに遺伝しちゃったみたいですけど」


由香さんが、空になった器を机に置いて、私と葉、二人の顔を見た。


「二宮さんが、どこまで悠の事を知っているのか、私は知りませんし、お二人にも色々な事情があるんだと思います。悠も、自分の事を語りたがらないでしょうし。ですけど‥‥私は、もうこれ以上悠の傷ついた姿は見たくない」


由香さんは瞬き一つしない。


真剣さが、痛いほど伝わってくる。


「‥‥悠自身は、二宮さんの事が大好きです。一番側で見ている私が言うんですから、間違いないです。悠が私の事を妹としか見てない事も、分かってます。だけど‥‥私は、悠の事が好きです。好きだから‥‥好きだから、私は悠に幸せであってほしい。その時悠の隣にいるのは‥‥私じゃないけど、それでも、悠は私を‥‥妹として好いてくれるから。私はそれでいいと、思っています。だけど」


由香さんの眼光が、鋭くなる。


「もし、二宮さんが悠を苦しめるなら、私は許しません。勝機があろうがなかろうが、本気で、悠を奪います」


その宣戦布告は、私の心をゆっくりと抉る。


由香さんの本気の言葉に、私は何一つ返事をする事が出来なかった。


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