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僕の恋人  作者: 織田一菜
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第八十八話 信用

三神さんは話をした後、また部屋に戻っていった。


「どうだった〜?」


いつの間にか僕の目の前に京極君が立っていた。


「‥‥また盗み聞きしてたの?」


「聞こえたんだよ、たまたまね」


京極君の表情が真剣な顔に変わる。


「だったら、分かるでしょ?」


いや、もしかしたら話を聞くよりも前に‥‥


「悠の気持ちが知りたい」


京極君の表情は変わらない。


だけど、なんとなく京極君の思ってる事は分かる。


「分かってるんでしょ」


「本人の口から聞きたい」


京極君はぶっきらぼうに答える。


僕は知ってる。


本人の口から聞こうとするのは、京極君の癖だ。


あえて本人の口から言わせて、本人に確認させ、刷り込ませる。


京極君が聞きたいんじゃなく、言ってる本人に聞かせたいんだ。


「‥‥許せないと思ったよ。可哀相だとも」


「そうじゃなくてさ」


京極君がフッと笑う。


「告白してたらって言われて‥‥どう思ったの?」


「‥‥別に」


適当に答える。


あの質問に、どういう意図があったのかは分からない。


そして今の質問も、意図が読めない。


京極は少しの間黙っていた。


「葉がどうして普段敬語で喋ってるか知ってる?」


急に京極君に聞かれた。


「真鈴に怪我させたから‥‥」


三神さんが言っていた他人行儀に振る舞っていたという話から推測すれば、そう判断出来る。


だけど、それだけではない気がした。


「だけじゃ、ないんだろうね」


だから僕がそう答えた。


京極君はこくりと頷く。


「京華さんに何か言われてない?」


「え‥‥?」


六車さんに言われた事――


それを思い出すのに、時間はかからなかった。


色々あったから忘れてたけど、たった数時間前に聞いた話。


六車さんがうっかり口を滑らせたあの一言――


「犯された‥‥」


「やっぱり、聞いてたんだ」


京極君はそう言うと壁に寄っかかった。


「正確には未遂、だけどね。寸前で助けられたから」


それ以上聞いてはいけない気がした。


本人が、全く口にしなかった事だ。


それに、これまでとは全く事が違うような気がする。


いや、確実にそうだと言える。


だけど、頭とは全く違う言葉が出た。


「どういう、事なの?」


言ってから後悔する。


それを聞く事が何を意味するのか、想像出来ない。


いや、したくない。


だけど僕のそんな思いを知らない京極君は、世間話のように話し始めた。


「葉から聞いたでしょ、告白を断ってから葉だけを狙っていじめられたって」


確かに、三神さんはそう言っていた。


「告白して来たのは男子テニス部の生徒で、中学に入る前から葉とは仲が良かったんだってさ。告白してからも、普通の友達みたいな関係だった――と、葉は思ってた」


少しずつ、頭の中でパズルが組み合っていくように状況が分かっていく。


『直接イジメをしていた女の子をイジメていた子達も』


『裏から操っていた男達』


考えてみれば、三神さんは最初から全て話していたのかもしれない。


「でも相手の男はプライドが傷つけられたと思ったみたい。それで男は表では普通の友人を装いながら、自分を慕う女達を使って裏で葉をいじめてた」


京極君は「まぁ、逆恨みなんだけど」と付け加える。


「でも葉がその事に気付かないわけがない。証拠揃えて、男に詰め寄ったんだ」


もう、聞かなくても分かる。


完全にパズルは完成した。


「追い詰められた男は逆上して葉に襲いかかってきた。たまたま近くを通りかかった別の人間が、物音に気がついたからなんとか大丈夫だったけど」


「それで‥‥」


「信用してた人間に裏切られたのがトラウマになったんだろうね。それから葉は真鈴以外とはほとんど話さなくなったし、話すとしても、真鈴以外には敬語で話すようになった」


『あの時の私は‥‥真鈴しか信じられる人がいなかったから』


三神さんの言葉を思い出す。


信じられない人とは敬語を使うようにしていたのなら。


「僕達の事は、信用してくれてる‥‥」


「まぁ、そりゃそうだろうね。奏から色々聞いてただろうし、実際二週間も観察してれば、悠が誰に対しても信用足る人間だってことくらい分かる」


「二週、間‥‥?」


僕が聞くと、京極君は驚いたような顔をした。


「気がついてなかったの? 悠に告白するまで、二人でずっと悠の事調べてたんだよ。まぁ、悠が『ナイトメア』と繋がりがある事は調べさせなかったけどね」


そんなこと全く知らなかった。


表情に出てたのか、京極君が苦笑する。


「まぁ、だから悠の事はかなり前から信用してた。だからわざわざトラウマになった事と同じ方法で悠を呼び出そうとしたんでしょ」


二ヶ月前の事を思い出す。


あの時、フミから手紙の事を聞いて校舎裏に行ったら、十文字と三神さん、そして真鈴がいた。


「信用してたから、自分の素を少し見せたんでしょ」


今までの三神さんの姿を思い出す。


「素を見せても何も変わらない悠達だったから、葉も普通に皆と一緒にいられたんだと思うけど」


「そう‥‥なのかな」


「多分ね」


京極君はそう言うと、壁から離れる。


「なら‥‥」


どこかに行こうとした京極君を呼び止める。


こんな事、京極君に聞く事じゃないとは思う。


でも、本人に聞いても、多分はぐらかされるような気がした。


「なんで十文字は‥‥良かったの?」


僕の事は分かった。


奏は昔からの知り合いだ。


フミや八雲は、僕を観察してたのなら、一緒に見てたはずだ。


だけど十文字は違う。


この学校に来て初めて出会ったはずだし、きちんと話したのもあの時が初めてだったはずだ。


なのにすぐに十文字とは打ち解けていた。


「そうだね‥‥」


京極君は少し考えた後、クスっと笑う。


「きっと、今の葉なら教えてくれるんじゃない? ねえ?」


京極君は僕ではなく、少し上を向いている。


僕は京極君の視線を追う。


「ぺらぺらとよく動く口ね」


後ろから声がする。


そこには、三神さんが立っていた。


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