第八話 交際宣言
登校時間が近付くにつれ、教室にも人が増えてきた。
教室に入って来るクラスメートのほとんどは廊下側前から三番目に座っている僕と、その隣に座っている二宮さん、僕の後ろの席にいる三神さん(二人とも勝手に他人の席に座ってる)を見て驚いていた。
「やっぱりみんな驚いてるね」
僕の前の席に座ってるフミ(元々自分の席)が微笑みながら言う。
「まぁそうだろうね」
僕は殺意の含まれた好奇の視線に晒され、いい加減にうんざりしてた。
「なんで驚くんだ?」
二宮さんが本気で不思議そうな表情をして聞くと、三神さんが呆れたような表情になる。
「あなたは‥‥さっき私が言ったこと、もう忘れたんですか? あなた方二人共人気者なんです。そんな二人が一緒に仲良くしてたら驚くに決まってます。ましてや昨日まで何の関わりもなかったんですからから」
もちろん、本当は三神さん人気も含まれているのは言うまでもない。
ちなみに僕達だけの時と口調が違うのは、三神さんは自分が気に入った人しかいない時にしか本当の自分を見せないからだそうだ(二宮さんが教えてくれた)。
昨日までは僕にもこの口調だった。
「三神さんも含まれてると思うけどね」
フミは微笑んだまま言う。
三神さんの顔が少し赤くなった。
「私が、ですか? それはないと思いますが‥‥」
「まぁ自分のことは自分が一番分からないって言うし」
僕がさっき三神さんに言われた通りに言うと、三神さんは微笑んだ。
「そうですね‥‥まさか一之瀬君に言われると思いませんでしたが」
そう言ってウィンクして来る。
「色目を使うな」
二宮さんはそう言って三神さんを睨みつける。
「あら、色目って流し目のことでしょう? 私がしたのはウインクすから。それにウインクぐらいしてもいいじゃないですか」
三神さんは悪戯っぽく笑いながら僕に聞く。
とりあえず僕が言えるのはこっちにふらないで下さい、と言うことだ。
「ダメだ」
僕が答える前に二宮さんが答える。
まぁ、答えるつもりはなかったからいいんだけど。
「私は一之瀬君にお尋ねしたのですが?」
「一之瀬が良くても私がダメだ」
二宮さんはそう言うと、三神さんは呆れ顔になる。
「大丈夫ですよ。別に取ったりはしませんから」
そう言うと僕の耳元に顔を近づけて小さい声で話しかけてくる。
「ごめんね、一之瀬君に対してだけ独占欲が働くみたい」
「聞こえてるぞ、葉」
二宮さんはさっきから三神さんを睨みつけたままだ。
「全く‥‥何が独占欲だ」
「事実じゃないですか」
「どこがだ!」
二宮さんが珍しく少し大きな声を出す。
周りの注目をさらに浴びている気がする。
「じゃあ‥‥こんなことしても怒らないんですね」
三神さんはそう言うと僕を抱きしめた。
瞬間、二ノ宮さんは顔を真っ赤にして三神の頭を叩いた。
「な、なな‥‥何やってるんだっ!!」
「何って‥‥ハグでしょうか?」
「ふざけるな!」
二宮さんはもう一度三神さんを叩く。
「ほら、独占欲全開じゃないですか」
「こんなことされたら誰でも怒る! い、一之瀬は私の‥‥こ、恋人なんだから‥‥私以外抱き着いたりいちゃついたりしちゃダメだ!」
「二宮さん声大きいです!」
その忠告は、もう遅すぎた。
「「「何ぃぃぃぃ!!」」」
教室内で絶叫が起こる。
「に、二宮さんの恋人だと‥‥」
「信じられん‥‥何という命知らず‥‥」
「うらやましい‥‥」
男達の羨望と殺意が入り交じった視線が痛いくらいに突き刺さる。
「もうバレちゃたね」
フミの微笑みがいまだかつてないほど、憎たらしく思えた。
「本ッッ当にごめんなさい!!」
三神さんがこれ以上ないほど申し訳なさそうな表情で物凄く頭を下げてくる。
二宮さんが交際宣言した後、僕、二宮さん、三神さん、フミは保健室に逃げ込んだ。
「つい調子に乗っちゃって‥‥」
「二宮さんからかいがいがあるからね」
フミが微妙なフォローをする。
「葉が気にすることじゃない。そもそも私が悪いんだ」
二宮さんもフォローする。
それでも三神さんはかなり落ち込んでいる。
「ごめんね‥‥二人共‥‥私のせいで‥‥」
三神さんは今にも泣きそうな顔でもう一度僕達に頭を下げる。
「謝らなくても気にしてないから。別に隠す気はないしな」
「大丈夫ですよ。別にバレても僕達は構わないですし。だから元気だして下さい」
僕と二宮さんが三神さんを励ますと、ようやく三神さんは少し明るくなった。
「ありがと‥‥」
「だが、これからどうするんだ?」
一連の話を聞いていた七瀬先生がこちらを振り向いて聞く。
「一之瀬の場合男どもからボコられるかもしれないし、二宮の場合は‥‥女の場合やり方が陰険だからな」
七瀬先生は心配そうな顔になる。
「困ったことがあれば相談するんだぞ?」
「はい、わかりました」
僕がそう答えるとちょうど予鈴が鳴る。
「じゃ、そろそろ行こうか」
フミがそう言って立ち上がる。
「あ‥‥フミはちょっと待ってくれるか?」
七瀬先生はそう言うとフミはにっこり笑って頷いた。
「じゃ、先行ってるからな」
「うん」