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僕の恋人  作者: 織田一菜
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第八十五話 病院にて

年内に三神の話を終了させるのが難しくなってきました……

正直焦り気味です。

病院に着くと、すでに一之瀬君と、そしてナイトメアのメンバーでは京極君だけがいた。


「三神さん‥‥大丈夫ですか?」


一之瀬君が私に駆け寄って、小さめな声で、だけど本当に心配そうに訊いてくる。


きっとこういう場所で、こういう状況じゃなかったら、もっと錯乱していたかもしれない。


「大丈夫よ。五十嵐君達が助けてくれたから‥‥そんなことより」


「のんたんは大丈夫なのかよ!?」


奏が私の後ろから興奮気味に叫ぶ。


「奏、静かに。ここ病院だから」


八雲君が注意する。


「だけど!!」


「どうせいつもの持病だろ。だからそんなに騒ぐな」


八雲君がそう言いながら奏の頭を軽くぽんぽんと叩くと、奏は不満げな表情のまま静かになる。


「持病‥‥ってどういうことですか?」


何も知らないお母さんが訊く。


「十文字は体を動かすエネルギーを体内で作りにくい体質なんです。だから糖分が足りなくなると、エネルギーの消費を抑えるために眠るんです。普段ならしばらくすれば目を覚ましますから大丈夫‥‥なんです、けど‥‥」


一之瀬君は説明の最後で言葉を濁す。


「けど?」


「それ、は‥‥」


「今日のはいつもと違うって事、でしょ?」


最後に車から降りて来た五十嵐君が私達の後ろから言った。


「どういう事だよ」


奏が一之瀬君に詰め寄る。


「えっと‥‥」


「口で説明されるよりも、実際に見た方が理解しやすいんじゃない?」


一之瀬君が答えられずに困っていると、京極君が助け船を出す。


そこには、普段のへらへらさはどこにも存在していなかった。


「でも」


「どのみち分かることでしょ。それに‥‥」


京極君が私の方を見る。


「逃げずに直視して戦うのも大事だと思うけど」


京極はそう言うと、私達の返事を聞かず歩き出した。




京極君は、ある扉の前で立ち止まった。


「ここは‥‥」


「集中治療室」


京極君が上に取り付けられてるプレートを指差す。


「どういうことだよ!」


奏が京極君に詰め寄る。


「奏、病院だから」


八雲君が奏に注意する。


「どういうことって言われても‥‥見ての通りだけど?」


京極君が煙に巻くような言い方で話すと、奏は京極君の胸ぐらを掴んだ。


「奏!!」


奏が何か言おうとした瞬間に八雲君が無理矢理奏を京極君から引き離す。


「落ち着け」


「落ち着いてなんかいられるかよ! 集中治療室にいるって――」


「だから、落ち着けって」


八雲君が奏の頭に手を乗せる。


その手は、震えていた。


もし外だったら、奏より先に八雲君の方が詰め寄っていたはずだ。


奏は渋々と言った感じで黙った。


それを見たからか、私の後ろにいた真鈴が奏の視線まで身を屈める。


「京極がああいう言い方をしてるということは‥‥少なくともしばらくは大丈夫だ、ということだろう」


真鈴はそこまで言うと京極君の方を向く。


「違うか?」


「真鈴の言う通りだよ」


京極君の代わりに一之瀬君が答える。


「命に別状はないし、しばらくしたら目を覚ますだろうって」


一之瀬君が言った瞬間、奏と八雲君は安心したように笑顔になる。


「あの、だから、三神さん、大丈夫ですよ」


一之瀬君は、ずっと黙っている私を見て、いつものような笑顔で話しかけてくれる。


一之瀬君の事だから、私の事を励まそうと思っているんだろう。


本当に、優しい。


だけど、私にはその言葉が全く刺さらない。


今の状況が、リアルとして受け入れられない。


私は確かにここにいるのに、全く違う物語を読んでいるみたいな感覚だった。


「それじゃあ、普段と何が違うんだよ? いつもなら、病院に行くほどひどくはならないだろ?」


奏が一之瀬君に訊く。


「それは‥‥」


「一つは薬を飲まなかった事、でしょ」


また答えにくそうな顔になる一之瀬君に代わって、五十嵐君が答えた。


「薬?」


「十文字が体質で糖分足りないと眠るのは分かるでしょ? でも別に糖分が足りないからお菓子を食べて補給するわけじゃないんだよ」


一之瀬君の説明に五十嵐君は、「まぁどうしようもなければそうなるかもしれないけど‥‥」と付け加える。


「それで薬、か?」


まだ理解していない奏ではなく、八雲君が呟くと、一之瀬君は頷いた。


「その薬が京極君が持ってる、唯一の対抗策。とりあえず、それさえ飲めば普通の生活は出来る‥‥んだけど」


「倒れたって事は、飲んでなかったんだね」


五十嵐君が言う。


「まぁ、葉がいなくなったって聞いてだいぶ焦ってたみたいだし、忘れててもおかしくはないけど」


京極君は、そう言うと私の方をちらっと見る。


「ハル、そんな言い方」


「いいのよ、奏」


私が、庇われる理由なんかない。


今の状況を生んだのは、私なんだから。


「‥‥だが、前にも一回倒れただろう?」


真鈴が、奏、八雲君、五十嵐君の事を気にしながら言う。


「だからフミが一つは、って言ったでしょ? ここまで理由は他にもあるよ」


「他の理由って何だよ」


京極君の言い方に苛立ったのか、奏がかなり乱暴に訊くと、京極君は首を傾げた。


「なんだろうね」


「は?」


「分かんないんだよ、なんでここまで悪化したか。外傷はないから、車に轢かれたとか、そういう事じゃないし、脳にも異常はないから倒れた時に頭を打ったわけでもないのは分かってるけど、それ以上の事は一つも分からない」


京極君はそこまで言うと、また私を見る。


「医者が言うには、精神的な疲労らしいけどね。それもどこまで当てになるやら」


倒れるほどの精神的な疲労。


私が、それを与えていたんだろうか。


「それで、京極さんは何で私達を呼んだんですか?」


これまでずっと黙っていたお母さんが訊くと、京極君は珍しく俯いた。


「うーん‥‥早く伝えたかったからってのもあるし、口頭で伝えるのが面倒だったのもあるし‥‥それに」


そこまで言ってもう一度顔を上げる。


「目を覚ました時に葉達がいた方がアイツ、喜ぶと思うから」


その顔は、それまでで一番真剣だった。


「ここ、入っていいのか? 集中治療室って」


「皆で入るの?」


真鈴の言葉を遮るように、一之瀬君が慌てたように訊く。


「いや‥‥そんなに沢山は入れないかな」


「じゃあ、ミカが最初に入れよ」


奏が私を押す。


「私は‥‥」


「いいから!」


奏が強引に押してく。


京極君が扉を開けると、そのまま奏に突き飛ばされた。


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