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僕の恋人  作者: 織田一菜
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第七十七話 十文字の悩み

今回は第三者視点です。


悠も真鈴も一切出てこない話です

『夢魔の巣』。


表向きは営業時間の短い喫茶店、しかし裏では元不良が不良を更正させる組織、『ナイトメア』が集まり生活する場所。


『ナイトメア』のメンバーが賑やかに騒いでいる中で、十文字は気難しい顔をして食事をしていた。


「また悩んでんの?」


声をかけたのは、一応喫茶店なためか(『ナイトメア』のメンバーが集まる裏口からの店内は、とてもそうとは思えない内装だが)、ウェイトレスの恰好をした千夏だった。


手には銀色のトレイを持っている。


「‥‥別に」


十文字はぶっきらぼうに答える。


「あんたもよく悩むわね~。リーダーってそんなに考える事あるの?」


千夏は十文字の返答を無視して訊く。


「‥‥俺の話無視か」


「だって、悩んでても悩んでないって言うじゃない」


「‥‥だったら聞くなよ」


「今度は何悩んでるの?」


千夏は再び十文字の返答を無視して質問する。


十文字は溜め息をつくと、だんまりを決め込む。


「‥‥三神のこと、でしょ」


千夏がにんまり笑って言うと、十文字はびくっと反応する。


「女の事だと分かりやすいね、のんたんは」


「うるせぇ」


十文字は千夏を睨むが、千夏は全く気にする様子はない。


「プロポーズの言葉?」


「‥‥馬鹿かお前」


「普通年上にそういうこと言う? 私、学校でも先輩だよ?」


十文字が呆れ気味に言うと、千夏はおちゃらけながら答える。


「‥‥ああ、うん、そうだな」


十文字は面倒になったのか、適当に相槌を打つ。


「ちょっとぉ、そんな適当にあしらわないでよ」


「真剣にとりあうだけ時間の無駄だろ」


十文字はそう言いながらあっちに行けとジェスチャーをする。


「酷っ!」


「今お前を構ってる余裕ないんだよ」


「そんなに三神の事考えてるの?」


「お前早くどっか行け」


十文字が千夏を睨む。


「はいはい、行きますよ‥‥」


千夏は「そんなに怒らないでもいいのに‥‥」と呟きながらキッチンに向かう。


「あんまり邪険に扱っちゃダメだよぉ、一応あれでも望海のこと考えてるんだからぁ」


いつのまにか十文字の目の前には、ニコニコしながら十文字の食べていた料理を食べている京極の姿があった。


(この人いつの間に‥‥ってか、勝手に俺の食ってるし‥‥)


「まぁ、ちょっとズレてるけどぉ‥‥ねぇ、聞いてるぅ?」


「聞いてますし、アイツが何を考えてるのかも分かってますよ」


十文字は、わいた疑問を飲み込み、敬語で返事をする。


「それならいいけどぉ」


京極は食べ終えた皿を机を置くと、十文字を真剣な表情で見る。


「葉のこと、ヒメに聞いたぁ?」


「ええ、まぁ‥‥それがどうかしたんですか?」


「どうにかしようと思わないのぉ?」


間延びしながらも、真剣さが伝わる喋り方で訊く。


「‥‥俺が関わるべき話じゃないでしょう?」


十文字の答えは京極の望む答えではなかったらしく、珍しく不満げな表情になる。


「どうしてぇ? 望海も葉のテニスの試合見てたんでしょ?」


「見ましたよ」


「惚れ直したぁ?」


京極は真剣に訊いているようだったが、十文字は睨み付ける。


「‥‥本気で訊いてるんだけどなぁ」


「今は関係ないでしょう?」


十文字は苛立ちながら答えると、京極は首を横に振る。


「関係あるよぉ。惚れ直したってことはぁ、元から好きだったってことでしょぉ?」


「‥‥わざわざそんなこと訊かなくても気付いてるんでしょう?」


やや照れたような表情で答えた十文字に、京極は少し驚いたような顔をする。


「気付いてたんだぁ、自分の気持ちにぃ。てっきり葉みたいに気付いてないフリして自分に嘘ついてるのかと思ってたのにぃ」


「そこまで馬鹿じゃないですよ‥‥」


十文字はそう言うと、真剣な表情をして京極を見る。


「とにかく‥‥俺はアイツに関わるつもりはありませんから」


「じゃあぁ、望海は何を悩んでるのぉ?」


十文字が突き放すように強い語調で言うと、京極は間髪いれずに質問する。


「は?」


「何か悩んでたんでしょぉ?」


京極が再び訊くと、十文字は溜め息をつく。


「‥‥聞いてたんですか」


「千夏の声はぁ、大きいからねぇ‥‥それでぇ、何を悩んでたのぉ?」


「‥‥京極さんには関係ないでしょう?」


十文字が京極を突き放すように言うと、京極は呆れたような表情になる。


「関係ないわけないでしょぉ? 望海は俺達のリーダーなんだからぁ。迷ってたら伝染するでしょぉ?」


「それは‥‥」


十文字は何か言おうとする。


しかし、何も言葉が出てこない。


「少なくともぉ、こんな皆に見られるような場所でぇ、落ち込んだ姿を見せるのはぁ、マズイんじゃないぃ? 一人で溜め込むのもマズイけどさぁ」


京極が何もなくなった皿をフォークでこつこつ叩きながら、間延びしながらも淡々と語る。


その一言一言が、十文字の心に刺さる。


分かっていた。


自分が悩むわけにはいかない事も。


溜め込むことがマズい事も。


だが、ならばどうすればいいのか、十文字には分からなかった。


「‥‥じゃあ、どうすればいいんですか?」


十文字は、絞り出したような声で訊く。


普段のような姿は微塵も感じさせないほど迷いと不安が彼を覆っていた。


それは"『ナイトメア』のリーダー"ではなく、ただの15歳の少年の姿だった。


そんな彼に、京極はいつもの笑顔を見せた。


「『ナイトメア』のリーダーとしての望海じゃなくてぇ~、素の望海を見せる事が出来る相手に相談すればいいんだよぉ~」


「‥‥それが出来れば、いいんですけどね」


十文字は俯いたまま答えた。


相談出来れば、それに越した事はない。


だが、彼は誰かに弱みを見せれる人間ではなかった。


「いい事教えてあげようかぁ?」


京極は皿をこつこつ叩くのを止める。


「葉がテニス辞めなくちゃいけなくなったのはねぇ、誰にも相談しなかったからなんだよぉ?」


「‥‥は?」


十文字が顔を上げて聞き返す。


「‥‥ちょっとぉ、場所変えようかぁ」


京極は立ち上がると、キッチンの方を指差す。


「キッチン‥‥?」


「もっと奥だよぉ‥‥望海の部屋」


京極はそう言うと笑う。


いつものような人を和ます笑顔ではなく。


他人を挑発するような笑みで。


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