第七話 人気者は誰?
早く学校に来たくて来た訳じゃないけど、結果的に早く来たのは正解だった。
三神さんのまさかの告白を受けた後、僕は二宮さん三神さんと一緒に登校した。
僕はすっかり忘れてたけど、二人は学生屈指の美人だった。
(おい、『氷の女王』―――が男連れて歩いてるぜ‥‥)
(誰だ、あのチビ?)
(あの野郎‥‥両手に花を文字通りやりやがって‥‥なんて羨ましい‥‥じゃねぇ、なんて憎たらしい‥‥)
(殺そう、今すぐ殺そう)
殺意に満ちた視線を受けながら、なんとか教室にやって来た。
幸いなことに、まだ学校に生徒は多くなく、教室にも人はいなかった。
「疲れた‥‥」
精神的な意味で。
「まだ来たばっかりじゃないか」
二宮さんが不思議そうな表情をする。
今日ほど二宮さん達の人気を恨めしく思ったことはない。
「真鈴が一之瀬君にぴったりくっついてるから男子の嫉妬の視線が凄いのよ。少しくらい自分の人気自覚したら?」
いや、あなたもです、三神さん。
なんて心の中のツッコミが届くはずもなく、二人は会話を続ける。
ついつい溜息が出る。
「まぁ、気をつけなさいよ。二人共人気あるから、付き合ってるのがバレたらきっと何かされるわよ」
「二宮さんは大丈夫でしょう?」
僕がそれほど異性として見られてるとは考えられない、と思っていると、三神さんは呆れた顔をして溜息をついた。
「あれだけ部活中の女子の視線を集めてたのに、気付かなかったの?」
「あれは、二宮さんを見てたからじゃ‥‥」
二宮さんは女子からもモテるし。
「違う。あれは君を見ていた。あんなに殺意と嫉妬の入った視線を浴びるのは初めてだ」
二宮さんが言う。
「嘘でしょう?」
「嘘じゃない」
「まぁ自分のことは自分が一番分からないって言うし」
その言葉そっくりそのままお返しします、三神さん。
「さっきみたいにいちゃいちゃしてると、すぐにみんなの反感を買うわよ?」
「い、いちゃいちゃなんて‥‥」
「さっき路上でキスさせてたじゃない」
二宮さんは顔を真っ赤にさせて口をパクパクさせる。
「だから、恋人って隠しながら付き合った方がいいと思うけど?」
「そ、それはダメだ!」
二宮さんが、これまで聞いたことがないくらい大きな声で言う。
「せっかく、せっかく仲良くなれたのに‥‥」
二宮さんが今にも泣きそうな声で、顔には若干涙を溜めながら言う。
「全く‥‥あんたにそんな顔されたら、何も言えないじゃない‥‥一之瀬君はどう?」
「僕は‥‥」
僕は、昨日考えた結果出した答えを言った。
「僕は、二宮さんと一緒にいたいです」
それが、昨日風呂場で考えてたことの答えだった。
確かに面倒なことも、大変なこともあるだろう。
でも、それでも二宮さんと一緒にいたい気持ちの方が勝った。
「本当は‥‥二宮さんの望み通りにしたい‥‥そう思ってたんです。でもやっぱり、僕は二宮さんと一緒にいたい」
僕が二宮さんにそう言うと、二宮さんが涙を流した。
「に、二宮さん!?」
「ごめん‥‥嬉しいんだ。君にそんなこと言ってもらえて‥‥」
そんな二宮さんを僕は優しく抱きしめた。
これ以上ないくらい愛しく思えたから。
「全く‥‥ラブラブね」
三神さんが脇で呆れたように、でも満足そうに笑ってた。