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僕の恋人  作者: 織田一菜
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第七十五話 辞めさせないために

真鈴は下駄箱の前にいた。


「悠、どこにいたんだ?」


「ちょっと三神さんとね」


「三神と?」


真鈴がちょっとムッとしたような顔になる。


「何の話だ?」


「テニスやらないんですかって聞いただけだよ。別に真鈴が思ってるような話じゃ――」


そこまで言って気がついた。


真鈴の表情が、ムッとした顔から、何かを考えているような顔に変わっている。


「真鈴、どうかしたの?」


「え?」


「いや、なんか悩んでるみたいに見えたから‥‥何かあったのかなって思って」


「別に悩んでいるわけじゃないが‥‥それで、どうだったんだ?」


「やらないって即答されちゃった」


「そうか‥‥やはり、アレをまだ‥‥」


真鈴がぶつぶつと呟く。


「真鈴?」


「あ、いや‥‥」


真鈴はまた考え始める。


何かを躊躇しているような、そんな感じだ。


「‥‥何でもない」


そして、真鈴は話してはくれなかった。


それは正しい判断だと思う。


多分、真鈴が話そうとしていたのは、三神さんのことだろう。


三神さんがテニスをしない理由には、おそらく過去に僕が思ってる以上の"何か"があったんだと思う。


それは当然、今までいつも一緒にいた真鈴は知っているはずだ。


でも、それは真鈴から聞くべきことじゃなく、三神さん本人から、直接聞くべきことだ。


普段の僕ならば、そう考えてそれで話を止めてしまっていたと思う。


だけど、今の僕はそう出来なかった。


「三神さんの事?」


僕がそう訊くと、真鈴はかなり(といっても普通の人が見たら分からない程度だけど)狼狽した。


「いや‥‥別に」


「どうなの?」


真鈴が前に言っていた、"ずるい顔"を使ってもう一回訊いてみる。


真鈴は一瞬迷ったような顔をしたけど(やっぱり普通の人が見たら分からない程度の変化だけど)、胸の前に手を当てて深呼吸をしてから首を横に振った。


「いくら悠でも‥‥これは答えられない。絶対に秘密なんだ」


真鈴がきっぱりと断った。


これ以上訊きだそうとしても、多分何も話してはくれない気がした。


だから、質問を変えてみた。


「真鈴はどうしてテニス辞めちゃったの?」


僕がそう訊いた瞬間、真鈴は今度は誰が見ても分かるくらい狼狽した。


「え、なん、え? ど、どうして‥‥」


「この前、古本屋に行ったでしょ? その時、テニスの雑誌が置いてあって‥‥真鈴も写ってたの」


「そ、そうか……」


真鈴はふぅ、と息を吐くと、俯いた。


「ごめん、隠すつもりじゃなかったんだが‥‥」


「別に謝る事じゃないよ。やってたからどうって話じゃないし。ただ、雑誌に載ってるくらいの選手だったのに、どうして辞めちゃったのかなって思ってさ」


真鈴は黙り込む。


「‥‥話せないこと?」


真鈴はやっぱり黙ったまま頷く。


「三神さんに関係あること?」


僕がカマをかけてみると、真鈴は僅かに反応した。


それが、答えだった。


「そっか‥‥」


「‥‥悠」


真鈴が僕の名前を呼ぶ。


僕の目をまっすぐに見ていた。


「何?」


「あんまり‥‥この話を、葉の前でしないで欲しい‥‥あいつにも色々考えてることがあるんだ」


その顔は、真剣で、そして悲壮感があった。


自分のことを話しているときよりも、ずっと。


「‥‥うん、分かった」


僕がそう答えると、真鈴はホッとしたように一息つく。


真鈴自身のことよりも、大切な三神さんの過去。


それを、僕は明らかにしようとしている。


正しい事をしてるとは思わない。


自分の考えを押し付けているのは分かってる。


それでも、もし、テニスを嫌いになって辞めたんじゃないのなら。


まだ未練があるのなら。


絶対にこのまま辞めさせたままじゃ駄目だと思った。


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