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僕の恋人  作者: 織田一菜
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第七十二話 口の軽い男

今回は三神視点です。


球技大会は、二日に分けて行われる。


そして、今日は二日目。


前日、一之瀬君や真鈴達が出場したサッカーは優勝、他の種目も結構な好成績で総合順位でも生徒会長と真琴さんのクラスと千夏さんと砂川さんのクラスに次ぐ順位で今日の成績次第では逆転優勝も可能な順位だった。


それでも私の気分は段々落ち込んで行く。


「三神さん‥‥どうかしたんですか? あんまり顔色良くないですけど‥‥」


朝、いつも通り皆で話していると、急に一之瀬君が私を心配そうな表情で見ながら訊いてきた。


「どうもしませんよ。大丈夫です」


「でも‥‥」


「少し寝不足なだけですよ」


笑顔を作って答えると、一之瀬君は複雑そうな表情をしたまま引き下がる。


「あんまり‥‥無理しないで下さいね?」


「はい、気をつけます」


私が笑顔のまま答えると、奏が私の後ろから抱き着いて来る。


「今日が楽しみで寝れなかったのか? ミカも意外と子供っぽい所があるよな」


もちろん眠れなかったのは、そんな子供っぽい理由じゃない。


けど、ここで弁解する必要はないし、そもそもしたくない。


「いいじゃないですか、別に」


「ま、そうだけど‥‥ギャップがあっていいなって思って」


「奏も十分ギャップあるから」


八雲君が、私が内心で思ったことと全く同じことを言う。


見た目は誰もが振り返りそうな美少女なのに、中身は殆ど男の子だ。


「‥‥それ、褒めてないだろ」


「聞きようによっちゃ褒めてないこともない」


「やっぱ褒めてないし! けなした分褒めろ!」


奏が八雲君に絡み出す。


本人達は否定するかもしれないけど、他人から見るといちゃついているようにしか見えない。


その姿は、少しだけ羨ましくはあるけど‥‥私がやっている姿を想像することは出来ない。


「‥‥どうかしたのか? ぼーっとして‥‥」


十文字が心配そうに訊く。


十文字は粗暴に見えて実はかなり他人に対する思いやりがある。


「あ、大丈夫ですよ。寝不足なだけですから」


私がもう一度笑顔を作って答えると、十文字は一瞬、何かを迷うような表情をしたが、結局黙り込んだ。


「ま、寝不足になるくらいだから、結構期待出来るんだろ」


八雲君が奏の頭を撫でながら言う。


奏は沢山褒めてもらえたのか、照れながら嬉しそうに笑い、それを見ていた一之瀬君と真鈴は若干引いてる。


「そんなに期待されても‥‥」


「だけど、全国優勝したんだろ?」


「それ、由香さんが言ってたんですか?」


余計なことを‥‥と思っていたら、八雲君は首を横に振る。


「京極だよ。この学校に来る前からの仲なんだろ?」


確かに京極君とは高校に入る前から知り合いではあった。


ただ、挨拶を交わした程度で、自分のことなんて全く話してない。


そんな私の内心を読み取ったのか、八雲君は苦笑いしながら話し始める。


「あいつ、とりあえず自分の知り合いに足りうる人間のことなら徹底的に調べるからな。それに口軽いから。口止めしないとすぐ話しちまうしな。口止めされたら絶対に言わないけど」


八雲君が苦笑いしながら京極君がいる方を見る。


京極君は五十嵐君としていた話を切り上げ、私達の方に歩いて来た。


「何か用ぅ?」


「‥‥ちょっと良いですか」


私が言うと、京極君は雰囲気で察したのか、黙って頷くと教室の外に出ていく。


私も京極君を追って外に出た。




京極君は殆ど人の気配がない場所まで来ると、立ち止まって私の方を向いた。


「それでぇ、何の用ぅ?」


「とぼけないて下さい‥‥私と真鈴のこと、どれだけ知ってるんですか?」


私が訊くと、京極君は微笑みを苦笑いに変える。


「その作った喋り方止めない? どうせ誰も来ないって」


「‥‥あんたに作ったとか言われるとムカつくわね」


私がそう言っても京極君はニヤニヤ笑いばかりで、何も答えない。


「それで、どこまで知ってるの?」


「色々知ってるさ。お前がテニスで全国優勝したのも、お前らが虐められてたのも、虐められてた理由も、二宮がテニスを辞めた理由も、お前がテニスを辞めた理由も‥‥何でお前が彼氏を作らないのかも、ね」


「何のために‥‥調べたの?」


怒りを抑えながら訊くと、京極君がニヤニヤ笑いを止めずに答える。


「気になる相手は知りたくなるだろ?」


その瞬間、私の中の感情が爆発した。


「ふざけてんじゃないわよ!」


「大声だすなよ‥‥いくらなんでも誰か気付く」


「だったら‥‥真面目に話しなさいよ!」


私が詰め寄って胸倉を掴もうとすると、京極君はひらりと躱すと、真面目な表情になる。


「ふざけてなんてないよ‥‥大まじめ。才知に溢れながらも孤独を貫いていた二宮が唯一心開いていた相手‥‥気にならないわけないだろ」


「‥‥別に、たいした理由じゃないわよ。ただの幼なじみ‥‥それだけ」


「本当にそう思ってんの?」


京極君が私の顔をじっと見たまま言う。


その目にはいつもの優しさは微塵もなく、その代わりに私を責める冷たさと、私を哀れむ光があった。


「‥‥何が言いたいのよ?」


「別に、三神が気付いてないんならそれで良いさ」


京極君はそう言って引き返そうとし、何かを思いだしたのか、立ち止まった。


「八雲が何言ったのか知らないけど‥‥別に俺は口が軽いからあんたの事を言ってるわけじゃないから」


「‥‥は?」


「あんたは良い人間だ‥‥だから俺はあんたも幸せにしたいのさ」


京極君はそう言うといつもの笑みを浮かべた。


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