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僕の恋人  作者: 織田一菜
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第六十九話 発表

今回は三神視点です

「球技大会? 何だそれは?」


真鈴が目の前の奏に訊く。


「知らねえの? 次の定期テスト終わった次の日から前期の生徒と後期の生徒分けてスポーツするんだよ。ま、テストの科目数も多いから先生の採点大変だし、時間作ってるんだろ。後期(俺らは)‥‥サッカー、バスケ、テニス、野球‥‥だったな、確か」


「ま、そういう話は目の前の課題が終わってからな」


十文字がペンを走らせながら奏に言う。


私達の前には、ノートや教科書、問題集など、勉強道具一式が並んでいた。


「だってさ〜。息抜きって必要だろ?」


「息抜いてばかりだと死んじゃうよ。たまには入れなきゃ」


一之瀬君が呆れたような表情でツッコミを入れる。


「ってか、奏のために集まってやってるんだからね。そこのところ分かってる?」


「分かってるけどよ〜」


奏は不満げに返す。


真鈴の誕生日から三日後――テスト一週間前、私達五人は朝から教室で勉強をしていた。


真鈴は勿論、私も一之瀬君も十文字もここまで必死に勉強をする必要もないのだけど(一之瀬君は自分で言うほど悪くはないし、十文字は私達よりも成績が良い。不良のくせに‥‥)、奏は赤点のピンチらしく、真鈴の誕生日の翌日、私達に泣きついて来た。


もはや時間的な余裕はなく、朝早くから可能な限り遅くまで、今はいない五十嵐君や京極君も含め教えている。


ただ、奏自身にあまりやる気が見られない。


「うぅ〜」


「ほら、口ばっか動かしてないで手も動かす」


「だってよ〜‥‥」


奏が机の上に置いたノートに顔を突っ伏すと同時に教室の扉が開き、八雲君が入って来る。


「あれ、もう八雲が来る時間?」


「テスト期間中だから、早めに切り上げた‥‥へぇ、勉強してんだ」


八雲が奏の問題集をひょいと取り上げる。


「‥‥正解率は見るにたえないけどな」


「う、うるせぇな! まだ始めたばかりだよ!」


「ま、どうせまた俺の勝ちだろうけどな」


八雲君が馬鹿にしたような笑みを浮かべながら奏に言う。


「まだ分かんねぇだろうが!」


「今まで一度も勝ったことないだろ?」


「今回こそ勝つし!」


「まぁ、頑張りな」


八雲君はそう言うと笑みを浮かべたまま一之瀬君に何か耳打ちし、一之瀬君は笑顔で頷く。


八雲君はそれで満足したのか、自分の机に戻って行く。


何を話したのか分からないけど‥‥まぁ、奏がやる気を出したみたいだからいっか。




しばらく勉強してると、ホームルーム開始のチャイムが鳴り、九十九先生が紙を持って入って来た。


「先生、その紙何?」


「ん? ああ、球技大会の出場種目。俺が決めたから」


「えぇーっ!?」


「何で!?」


クラス中が困惑の声とブーイングに包まれる。


「うるさい! もう決めたから文句言うな!」


九十九先生が大声で叫ぶ。


本来ならかなり横暴で、普通に本気で抗議する生徒も出てきそうだけど、小柄で童顔の九十九先生が言うと、小学生の我が儘に見えるから、ふざけ半分にブーイングする生徒はいても、本気の人は誰もいない。


「とにかく! 紙見て自分の出る種目確認しておいて!」


九十九先生はそう言うと黒板にマグネットで紙を留める。


「じゃ、ホームルーム始めるから」


ホームルームは順調に進み、とくに何も問題なく終わった。


皆すぐに掲示された紙を見に行く。


望み通りの種目だったのか、それともどうでもよかったのか、誰も文句は言わない。


「一之瀬君は何の種目?」


私は目の前にいた一之瀬君に訊く。


「あ、僕はサッカーです。三神さんは‥‥テニスですね」


「えっ‥‥」


一之瀬君の言葉を聞き、急いで自分の名前を捜す。


"三神葉"の文字は‥‥確かに、テニスの欄にあった。


「私が‥‥」


「三神さん、強いんですよね! 由香から聞きましたよ」


一之瀬君が無邪気な笑顔を見せながら私に言う。


そんな笑顔に、言うことが出来なかった。


私はもう‥‥テニスはしたくないんだって。


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