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僕の恋人  作者: 織田一菜
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第六十四話 仲直り

「真鈴!!」


悠は店に入るなり、私の名前を叫ぶ。


「悠‥‥どうして‥‥」


「俺が呼んでおいた」


八雲がそう言って携帯を取り出す。


おそらくメールで悠に伝えたのだろう。


「話、するんだろ? 中に入れよ」


八雲はそう言うと立ち上がり、店の奥へと歩きだす。


私と悠は、八雲の後に続く。


私達はリビングのような部屋に通され、ソファーに二人並んで座らされた。


「じゃ、後は二人でごゆっくり」


八雲はそう言うと、部屋を出て行く。


悠と二人きりになると、急に胸がドキドキして来る。


まだ何も覚悟出来ていないのに‥‥いきなりこんな状況になってしまった。


何度深呼吸をしても全く落ち着かない。


「あ、あのさ、真鈴‥‥」


私より先に悠が口を開いた。


私が怒っているとでも思っているのか、恐る恐るといった感じの喋り方だ。


「そんなびくびくしなくても‥‥怒ってなんてないから」


「そ‥‥そう?」


悠はそう言うと深呼吸をする。


「あの‥‥ごめん!」


悠がいきなり頭を下げた。


「ゆ、悠?」


わけのわからない謝罪に困惑していると、悠は頭を下げたまま喋り始める。


「本当は‥‥真鈴に隠し事があって‥‥その‥‥」


悠は言いにくそうに小さい声で話す。


もしかして‥‥嘘をついたから私が怒ったと思われてるのか?


「あの‥‥悠、とりあえず頭上げて‥‥」


「ごめん‥‥約束、守れなくて‥‥」


悠の声は震えていた。


まるで、泣いているようだった。


「ゆ、う‥‥?」


「嘘っ‥‥吐かないって、言った、のにっ‥‥なのに‥‥っ」


悠の鳴咽混じりの言葉は、完全にそこで止まってしまい、次の言葉は出て来なかった。


悠の目から零れ落ちる涙が、クッションを濡らした。


私は、自然と悠を抱きしめていた。


「悠‥‥泣かないでいい」


「ま、りん‥‥?」


「約束守れなかったとか‥‥嘘ついたとか‥‥そんなことくらいで、泣かなくていい」


「でも、僕‥‥真鈴を、裏切った‥‥から‥‥」


悠は、まるで子供に戻ったかのように涙を流していた。


私が、初めて見た悠の涙だった。


「私は裏切られたなんて思ってない。どれだけ約束を破られたって、どれだけ嘘を吐かれたって‥‥悠は私の事が好きだって、信じてるから。そうだろう?」


私は子供をあやすように、ゆっくりと悠に話す。


悠はこくんと頷く。


「だから‥‥泣かないで。私の前では‥‥笑顔でいてくれ。私が好きになった‥‥世界で一番の笑顔で」


言った瞬間に顔が熱くなる。


普段は言わない、恥ずかしくてむず痒くなりそうな台詞。


そんな言葉でも、悠はこくりと頷くと、涙を拭っていつものように笑ってくれた。


その表情を見ただけで、癒して、私の心を暖かくするような笑み。


もうその笑みを曇らせることがないように‥‥言わなきゃいけない事があった。


「それに‥‥謝らないといけないのは私の方だ」


「え‥‥?」


「私は別に嘘つかれたから、約束破られたからあんなことしたんじゃなくて‥‥」


今に至っても、言うかどうか、まだ迷っていた。


ここまで嫉妬深い私を、嫌ってしまうんじゃないかと、あの笑顔を見せてくれなくなるんじゃないかという不安も、なくはなかった。


だが、悠が小さい声で私の名前を呼んだ時、決心がついた。


「その‥‥嫉妬、したんだ。葉や奏に笑顔を見せてる悠を見て‥‥私の知らない人に、笑顔を見せてる悠を見て‥‥あの喫茶店でもそうだ。悠が好き勝手にいじられたり、抱き着かれたり‥‥揚げ句の果てに、キスまでされて‥‥そんな事、私以外の誰にも、されてほしくなくて‥‥私だけの特権に、してほしくて‥‥だから‥‥謝らないといけないのは、我が儘な私なんだ」


「我が儘だなんて、そんなことないよ」


悠は、いつもの調子を取り戻していた。


「僕だって‥‥真鈴が僕以外の男の人を抱きしめたり、キスされたりするの、嫌だよ。だから、真鈴の気持ちは、当たり前のことだよ‥‥それなのに、その気持ちに気がつけなかった僕が悪いんだ」


「いや、それは‥‥」


違う、と言いかけて、ある考えが浮かんだ。


それを実行するために、悠から手を離す。


「真鈴‥‥?」


「その‥‥もし、悪いと思ってたら‥‥キス、してくれないか?」


「キス? そのくらい、別に構わないけど‥‥」


悠はそう言って私の顔に近付く。


「いや、普通のやつじゃなくて‥‥その、舌を使った‥‥」


「え‥‥?」


悠が困惑したような表情になり、私は言わなきゃ良かったと後悔する。


「い、いや何でもない、忘れて‥‥」


そこまで言った時、悠が私を押し倒すくらいの勢いで迫り、互いの唇を重ねる。


悠はややこなれた感じで舌を入れてきた。


悠の唾液が私の口の中に入ると、まるで全身が痺れたような感覚に襲われる。


一気に理性が吹き飛んだ。


悠を逆にソファーに押し出し、そして私の舌を入れる。


互いの舌が絡まる。


そのまま、悠の服の手をかけた、ちょうどその時。


「二人共、何か――」


扉が開かれ、八雲の母親が入って来た。


一気に止まっていた思考が働き出す。


「ああ、その‥‥場所は考えた方がいいわよ?」


八雲の母親は苦笑いすると、静かに扉を閉めた。


‥‥とりあえず、もうこのキスは禁止にしよう。


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